第27話「気分の上下と通院日」
水曜日になった。今日は通院の日だ。
いつものように通院が終わってから学校に行くことにしている。なので制服だ。今日はお母さんが車で送ってくれることになった。
ここのところ気分の上下が激しく、なかなか心も身体も落ち着いてくれなかった。そういう病気だというのは分かっているのだが、どうしても悲しくなってしまう。
病院に着き、受付で診察券を出すと、受付の女性に「前に二名お待ちになっております。待合室でお待ちください」と言われた。いつものようにソファーに腰かける。耳に入って来るオルゴールの音楽が心地よく感じた。
しばらく待っていると、奥からパタパタと大山さんがやって来た。
「小春ちゃん、おはようー」
「あ、おはようございます。今日もよろしくお願いします……」
「こちらこそー。この前は調子がよさそうだったけど、その後どうかな?」
「そ、それが、一旦調子がよくなったように見えて、その後心と身体が重くなった時があって……学校も休んでしまいました……」
「そっか、ちょっと気分の上下が激しいみたいだね。でも慌てちゃダメだからね、そういうこともあるって思うのが大事だよ」
「は、はい……」
大山さんもそう言ってくれているのだが、自分としては気分が持ち上がった時を経験してしまっただけに、逆に落ちた時のショックが大きかった。でもそれも受け入れないとな……と思っていた。
「小春、大丈夫よ。看護師さんも言っていたように、慌てないようにね」
「う、うん……そうするよ」
お母さんがニコッと笑顔を見せた。
しばらく待っていると、大山さんに「小春ちゃん、診察室に入ってね」と言われたので、私はいつものようにコンコンとノックをして診察室のドアを開けた。
「おはようございます、小春さん。さぁ座ってください」
「おはようございます、失礼します……」
橘先生が迎えてくれた。私はペコリとお辞儀をして、椅子に座らせてもらった。
「さて、先日は大山が失礼しました。まさか二人でお茶してるなんて思いませんでした」
「あ、い、いえ、たまたま会って、お話できてありがたかったというか……」
「そうでしたか、まぁオフの日ですし、私もとやかくは言えないんですけどね。それはいいとして、大山から聞いたところ、気分の上下が激しかったみたいですね」
「あ、はい……大山さんと会った時はふわふわと楽しい気持ちになっていたのですが、その後急降下して……学校も休んでしまいました……」
「そうでしたか、いいんですよ。調子が上向きになることもあれば、下向きになることもあります。小春さんはかなりきついと思いますが、落ちた時にどう乗り切るか、そこも考えていかないといけませんね」
橘先生がカタカタとパソコンを操作した。私の状態を書き込んでいるのかなと思った。
その後、橘先生は私に一枚の紙を差し出した。
「先日の採血の結果です。見たところ腎機能、肝機能など、内臓と血は特に問題ないようです。少し鉄分が少ないですかね、鉄分不足による貧血は、女性に多いと言われています。立ちくらみなどはありませんか?」
「あ、たまにふらっとなることはありますが、頻繁にあるって感じでもないかなと……」
「そうですか、この数値ですとお薬まではいらないと思いますので、食事の改善や適度な運動など、心がけた方がいいかもしれませんね」
橘先生がニコッと笑った。大山さんにも適度な運動がいいと言われていたのを思い出した。気をつけておこうと思った。
「ここまで小春さんの状態を教えてもらって、小春さんは気分の上昇よりも下降の方が大きいようですね。落ち込んだ時に身体に変化はありますか?」
「あ、身体が重くて、動悸がして、胸が苦しいというか……うまく呼吸できているのか自信がない時があって……」
「なるほど、それはきついですよね。今日は新しく頓服の薬を出しておきましょう。これは食事後ではなくきつい時に飲むお薬で、気分の底上げをしてくれます。きつくなったらいつでも飲んでください。ただし一日二錠まで。それは守ってくださいね」
「は、はい、分かりました……」
「他のお薬に比べて即効性がありますが、それでもきつい時があるかもしれません。そういう時は何もしないのも一つの手です。ぼーっとするのもいい。寝るのもいい。無理に何かをしようとせず、やり過ごす感じで」
な、なるほど、何かをしようとすると心と身体が重いので、何もしないというのも一つの手か、覚えておこうと思った。
「な、なるほど……」
「他のお薬はそのまま同じものを出しておきますね。何度も言いますが、気分が上昇した時も下降した時も、絶対に無理をしないこと。一旦立ち止まって、周りをよく見てください。そして心と身体を休める。大事なことです」
「は、はい、分かりました……気をつけます」
橘先生と次の診察の予約を話し合った。また二週間後、ここに来ることになる。
先日から気分の上下が激しいが、自分を受け入れようと思った。
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