第28話「下降気味の最中に」

 週が変わって月曜日、今日も頑張って学校に行きたい……ところなのだが、朝から少し動悸がする。起き上がるのも一苦労だった。

 またか……という気分になるが、そうも言っていられない。私はなんとか着替えて、リビングへ行って朝食を食べた。


「小春、大丈夫? なんかきつそうだけど、休まなくていい?」

「うん……大丈夫。なんとか行ける……行ってきます」


 心配そうなお母さんに見送られて、私は家を出た。歩くことはできるようだ。ただいつもよりはきつい。ゆっくり歩いて、駅で電車に乗った。

 電車の窓から外を眺めながら、ぼんやりとしていた。何も考えていなかったかもしれない。


 学校の最寄り駅からもゆっくり歩いて、なんとか学校に着き、席に座る。一時間目の予習でもしておこうかなと思っていると、


「――あら、相場さんおはよう」


 と、声をかけられた。中等部出身の女の子たちだ……今日は三人いた。


「あ、お、おはよう……」

「ふぅーん、挨拶はできるみたいね。まぁそれができなくなったら人として終わってるんですけどー」

「ほんとほんとー、学校もずる休みしてるしー」


 あはははという耳障りな笑い声が聞こえてきた。またか……私は胸が苦しくなってきた。


「……あんた、何も言えないの? 挨拶しかできないロボットかなにか?」

「……い、いや、そうじゃな――」

「まぁ、汚い女が何言ったって一緒か!」


 またあはははと笑う女の子たち。いつもそうだが、周りの人は見て見ぬふりというか、関わり合いたくないようだ。まぁ気持ちは分かる。でもどんどん胸が苦しくなってきた。嫌なことばかりが頭に浮かんでくる。


「……なに? 具合でも悪いの? あーかわいそうねー仮病まで使うなんてー」

「ほんとほんとー、ちょっときついって言えば助けてもらえると思ってさー」

「……い、いや、ほんとに――」

「――おーっす、小春おはよぉ!」


 その時、大きな声が聞こえてきた。見ると凌駕くんと、隣には涼子もいた。


「なんか盛り上がってたみたいだなぁ。仮病って言葉が聞こえたんだが、気のせいかなぁ」

「ほんとー、小春が仮病? そんなわけないのにさー、誰かさんたち目がおかしいんじゃないかなぁ。あ、元々か」

「……くっ!」


 女の子三人はキッと二人を睨んで、向こうへ行ってしまった。


「小春、大丈夫? あいつらしつこいったらありゃしない」

「ああ、俺らがいないとなると、すぐちょっかい出してきやがって。とんでもねぇ奴らだな」

「……ご、ごめ……ん、あり……がとう……」


 なんとかお礼は言えたが、胸がどんどん苦しくなってきた。朝からの動悸がどんどん強くなっているのが分かった。私は前かがみに身体を曲げた。


「こ、小春!? ヤバい、大丈夫そうじゃないね、保健室行こうか」

「ああ、小春、立てるか? 俺につかまっていいから」

「……う、うん、あり……がとう……」


 凌駕くんにつかまって、なんとか立ち上がった私は、保健室に行くことにした。また保健室までの道のりが遠く感じる……その間にも胸の苦しさは変わらなかった。


 涼子が保健室の扉をノックした。中から「はい、どうぞ」という声が聞こえて、扉を開けた。


「す、すみません! 小春が、きつそうで……」

「あらあら、それは大変です。こっちまで来れますか? ベッドに横になりましょう」


 佐々木先生がバタバタと動いてベッドを整えてくれた。私は凌駕くんに連れられてベッドまで歩いて行く。ゆっくりと腰を下ろし、そのまま横になった。佐々木先生が布団をかけてくれた。


「小春さん、もう大丈夫ですよ、ここでゆっくり休みましょう」

「……あ、は、はい……ありがとう……ございます……」

「言葉も無理して話さなくていいですからね。涼子さんと凌駕くんも連れてきてくれてありがとうございました。あ、もうすぐ一時間目が始まりますね」

「あ、私たちは戻ります。小春、ゆっくりしてね」

「小春、無理したらダメだからな。先生、よろしくお願いします」


 二人がペコリとお辞儀をして、保健室を出て行った。


「ちょっと熱を測っておきましょうか」


 佐々木先生が私に体温計を差し出した。私はなんとか動いて受け取った。


「……朝からきつかったのですかね、無理して学校に来てはいけませんよ……って、ごめんなさい、お説教をしているつもりはないので、半分聞き流してくださいね」

「……す、すみません……また、ご迷惑を……」

「いえいえ、小春さんがきつい時には、いつでも来てもらっていいですので。あ、微熱があるみたいですね。でもそこまで高くないから、解熱剤はいらないでしょう。ここでゆっくりしましょう」

「は、はい……」

「松崎先生には伝えておきますね。それと、少し落ち着いたら、また私とお話させてもらえますか? ここのところの小春さんの体調について」

「は、はい……」


 はいと返事をするので精いっぱいだった。心と身体が重い……胸が苦しい。頭の中に色々な嫌なことが浮かんでくる。私はこのままいなくなるのかと、弱気になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る