第26話「友達に伝える」
次の日もなんとか起き上がった私は、学校に行くことができた。
行きの電車の中では、ずっと涼子と凌駕くんのことを考えていた。
三人でいつも一緒だった。それなのに、私は凌駕くんに恋をしてしまった。
私はずっとこのまま三人で仲良くしていきたい。二人がいなくなると、私はひとりぼっちだ。それは嫌だ。これからも楽しい時間を三人で過ごしていきたい。
そして私はこんな心と身体だ。気持ちを伝えるのはまだ早すぎるのではないかと思った。まずは自分のこと、自分の心と身体の調子を上げるのが優先だ。いつになるか分からないけど、また元気になるその日までこの気持ちは……。
教室に着いて、席に座る。一時間目は古文か、私は準備をしようと教科書やノートを取り出していると、
「――あら、相場さんおはよう」
と、声をかけられた。中等部出身の女の子の一人だ……私は胸がきゅっとなった。
「あ、お、おはよう……」
「……ふん」
そう言って女の子は自分の席に行った。よかった、ちょっかいをかけられずに済んだ……私はほっとしていた。
「――おーっす、小春おはよ」
また声をかけられた。見ると凌駕くんがいた。隣には涼子もいる。
「あ、お、おはよう……」
小さな声で返事をした私は、凌駕くんのことをまっすぐ見れなかった。胸がドキドキする……いつも通りにしなきゃ……と思うほど、言葉が出なかった。
「今日も学校来れたみたいだな、ちょっとは上向きかな」
「あ、う、うん……」
「……あれ? 小春、なんか元気ないのか? いつもと違うというか」
「あ、い、いや、大丈夫……元気だよ」
うう、やっぱりいつも通り凌駕くんと話すことができない。なんか悪いことをしているような気分になった。
「……あ、もしかして」
「ん? 涼子どした?」
「ああ、いや、なんでもないよー。小春、今日一緒に帰らない?」
「あ、う、うん……」
「なんだなんだ、二人ともどうしたんだ?」
「いやいや、なんでもないよー。あ、そろそろ先生来る頃だね」
そう言って二人は自分の席に着いた。凌駕くん、ごめん……と、心の中で謝る私がいた。
* * *
「小春ー、帰ろー」
放課後、私のところに涼子がやって来た。
「あ、うん……」
昼休みもいつも通り三人でご飯を食べたのだが、私は凌駕くんに話しかけられてもドキドキしてうまく返事ができなかったのではないかと思った。自分が何を言っているのかよく分からなかった。
涼子と二人で玄関で靴を履き替え、学校を出る。
「……小春、気のせいだったらごめんね。もしかして小春、恋をしてない?」
涼子がそんなことを言った。私はドキッとしてしまった。も、もしかしてバレた……?
「あ、い、いや、その……」
「ふふふ、隠さなくていいよ。凌駕のこと、好きになったんでしょ?」
「あ、そ、その……うん」
隠しきれないと思ったので、涼子には本当のことを話すことにした。
「やっぱり。凌駕に話しかけられても、顔を赤くして俯いてるから、そうじゃないかなーと思ったんだよね」
「そ、そっか……わ、私、分かりやすいのかな……」
「そうかもしれないねー。でも急に好きになったの?」
「そ、それが……学校休んだ日、凌駕くんが家に来てくれて、二人になった時に私がフラッとしたら、凌駕くんが支えてくれて……なんか、男らしくてカッコよく見えて……それからドキドキして……」
また胸がドキドキしてきた。これは動悸ではない。凌駕くんのことを想ってのドキドキだ。
「そっか、うんうん、凌駕もカッコいいもんねぇ。小春の気持ちを伝えないの? あいつ恋とか鈍感そうだから、たぶん気づいてないと思うけど」
「そ、それが……私はこんな状態だし、もっと元気になってからがいいんじゃないかなって……それに」
この先を言おうか迷ったが、思い切って言うことにした。
「……わ、私、これからも三人で一緒にいたい……私が気持ちを伝えて、うまくいかなくなるのが怖い……」
やはり三人がいい。そう思った私は、この気持ちはもうしばらく自分の中に留めておこうと思った。それを聞いた涼子は、
「……そっか。大丈夫だよ、私たちはこれからもずっと一緒だよ。小春が気持ちを伝えたからって、変わるもんじゃない。まぁ凌駕はどう思っているか分からないけどさ」
と、言ってニコッと笑った。
「そ、そっか……涼子にも嫌な思いさせるんじゃないかなって思った……」
「ううん、私は小春と凌駕がくっついてくれると、嬉しいんだけどねぇ。前から言ってたじゃん? 凌駕さんはいかがでしょうって」
「あ、う、うん……」
「それとさ、小春の体調と、恋は関係ないよ。小春が恋をするのは、とてもいいことだよ。自分の気持ちを大事にしてね」
そう言って涼子が私の頭をよしよしとなでた。私は「う、うん……ありがとう」と言うのが精いっぱいだった。
涼子に話したことで、少し心が軽くなった気がした。さすがにすぐに凌駕くんに気持ちを伝えるのは難しいが、涼子の言う通り、自分の気持ちを大事にしようと思った。
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