第15話「いじめの実態」
月曜日、今日はなんとかいつも起きる時間に起きることができた。
うん、身体も動くようだ。これなら学校に行けそうだ。先週は休んだ日もあったから、行ける時にはちゃんと行っておかないといけないなと思った。
朝ご飯を食べて、制服に身を包んだ。鞄を持って、お母さんに見送られて駅まで歩いて行く。今日もしとしと雨模様だった。でも私はちょっとだけ雨が降った後のアスファルトのにおいが好きだった。変な人かもしれない。
電車に乗り、窓から外を眺めながら、自分のことを考えていた。動ける時と動けない時、差があってちょっと悲しくなるが、涼子も凌駕くんも今を受け入れることを大事にした方がいいと言ってくれた。二人には迷惑をかけてしまうかもしれないが、今は甘えておこうと思った。
電車が学校の最寄り駅に着き、学校まで歩いて行く。この道は桜の木が並んでいて、春は桜が咲いて綺麗だ。来年また笑顔で見ることができたらいいな、そんなことを思っていた。
学校に着き、席に着く。一時間目は数学か、準備をしようと思って教科書などを出していると、
「――あら、相場さんおはよう」
と、声をかけられた。中等部出身の女の子たちだ……私は胸がきゅっと締まったような感覚になった。
「お、おはよう……」
「ふぅーん、今日は来たみたいね。まぁ来なくても全然いいんですけどぉー」
「ほんとほんとー、いてもいなくても一緒っていうかー」
女の子たちがあはははと笑う。またか……私は何も言うことなく、教科書に目をやった。
「……あんた、私たちが話しかけてあげてるんだから、こっち見なさいよ!」
女の子の一人が、教科書を持って床にバシッと叩きつけた。
「……あ、ご、ごめ……」
「ふぅーん、謝ることはできるみたいね。ほら、早く拾いなさいよ」
私が教科書に手を伸ばすと、女の子の一人が教科書を蹴った。その後またあはははという笑い声が聞こえた。
何を言っても、何をやってもこの人たちには意味がない。だんだんと胸が苦しくなってきた……私は右手で胸を押さえた。
「なに? また胸が苦しいの? 私が胸触ってあげるから、ちょっとこっち見なさいよ」
「やだー、そんなにない胸自慢して、何が楽しいのかなぁー。あ、でも触ってみないと分かんないか、ほら、ちょっと胸出しなさいよ」
「……や、やめ……」
「――おーっす、小春おはよぉ!」
その時、大きな声が聞こえてきた。見ると凌駕くんがいた。隣には涼子もいる。
「……あれ? なんで教科書が床に落ちてんだろうなぁー、あ、小春が落としただけか、ほら、小春……って、なんで教科書に足跡がついてんだろうなぁ?」
「ほんとだー、あ、凌駕、教科書踏んづけた、足癖の悪い汚い人がいるんじゃないかなぁー」
「ああ、そうだな、下品なのは前から知ってたけど、足癖も悪かったなんてなぁー、俺も目が悪くなったのかなぁ。マジで人としてどうかしてるっていうか」
「……そ、そんなことしてないわよ、相場さん、そうよね?」
女の子の一人が訊いてきた。私は何も言えずにいると、
「あれぇー? なんか小春、制服のリボンのとこ、ぐちゃってなってないー? まさか引っ張ろうとした人がいるとか、まさかねー」
と、涼子が言って私のリボンを整えてくれた。
「ああ、寄ってたかって手出してるんか、人数いればなんとかなるって思ってる、最低な奴らがこのクラスにいたなんてなぁ。やっぱ俺目が悪くなっちまったのかなぁ」
「……くっ!」
女の子三人は凌駕くんと涼子を睨むと、向こうに行ってしまった。
「……ちょっと目を離すととんでもないことしてきやがって。小春大丈夫? ごめんね私たちが来るのが遅かったから」
リボンを整えて、涼子がよしよしと頭をなでてくれた。私は胸の痛みで何も言えなかった。ありがとうって言わなきゃ……でも、感情が不安定なのか、目に涙が浮かんできた。な、なんで泣いているんだろう、しっかりしなきゃ……と思うほど、目からぽろぽろと涙があふれてきた。
「ああ、よしよし、小春、大丈夫だから、私も凌駕もいるよ。怖かったね、嫌だったね、私が抱きしめてあげるから」
涼子がぎゅっと私を抱きしめた。私は涼子の胸の中で涙を流し続けた。
「……ごめん、あり……がとう……」
「……よし、教科書とノートは綺麗になったぜ。ここに置いておくな。まったく、とんでもねぇことしやがる。小春、大丈夫だぞ、俺も涼子もいるぞ」
「……で、でも、二人も……嫌なことされたら……」
「ううん、大丈夫だよ、私と凌駕はあんな奴らには負けないよ。小春をしっかりと守らなきゃいけないからね」
「おう、俺は野球部で鍛えた体力と気力があるからな。それと、小春を守るくらい、なんてことないよ」
「……ごめん、ごめん……」
私は謝ることしかできなかった。それでも涼子は私を離さなかったし、凌駕くんもよしよしと頭をなでてくれた。私は二人に支えてもらってばかりだ。申し訳ない気持ちになるが、胸の痛みと涙はしばらく止まらなかった。
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