第14話「あの頃を思い出して」

 次の日の土曜日、今日は早くに目が覚めてしまった。まぁそういう時もあるか。昨日は早めに寝たおかげか、そんなにきつくはない。ゆっくりと起き上がり、深呼吸をしてみる。うん、今日はなんとか動けそうだ。


 リビングに行くと、お父さんとお母さんがいた。


「小春、おはよう。もう起きたのか」

「あ、おはよう……うん、なんか目が覚めちゃって」

「小春、おはよう。朝ご飯食べられそう?」

「あ、うん……大丈夫」


 私はパンと目玉焼きを食べることにした。ゆっくりと噛みしめて味わうようにして食べる。

 食べ終わった後、お薬を飲んで、リビングのソファーに座った。タブレットで恋愛小説の続きを読むことにした。うん、純愛物語が心に響く。とてもいいものだな。


 ピンポーン。


 しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。何か宅配便かなと思ったが、玄関に出たお母さんが何やら話し込んでいる。しばらくしてから、


「小春、涼子ちゃんと凌駕くんが来たわよ」


 と、リビングに戻って来たお母さんが言った。私は慌てて玄関に行く。


「あ、小春おはよぉー! 体調はどう?」

「お、おはよう、元気だね涼子。今日はだいぶいいかな……」

「そっか、だいぶいいか、安心したよ。あ、小春が動けるならなんだけど、近くの公園でキャッチボールでもしないかなと思ってな」


 そう言って凌駕くんがぽんぽんとボールを手で弾ませた。グローブは持っていないから、柔らかいボールなのかな。


「あ、う、うん、行こうかな……」

「よっしゃ、行こうぜ。たまには身体を動かすのもいいんじゃないかな」


 私は両親にちょっと出かけてくると伝えて、家を出た。家の近くに大きめの公園がある。私たちは小学生の頃、よくここで一緒に遊んでいた。そういえば大山さんも適度な運動も大事って言ってたっけ。


「小春、無理してない? きつかったら言ってね」

「あ、大丈夫……ありがとう涼子。今日は早く目も覚めちゃって、なんだか元気みたい」

「そっか、もしかして睡眠も不安定だったりするのか?」


 凌駕くんが軽く私にボールを投げてきた。私は両手でキャッチする。


「う、うん、たまに眠れない時があったんだけど、睡眠薬も飲んでるから、最近はだいぶ安定してきたかな……」


 私は涼子にボールを投げた。なんか久しぶりにボールを投げた気がする。


「そっかー、まぁ眠れないこともあるよねー、私もさ、弟や妹の相手してたらギンギンに目が冴えちゃって、眠れないことあるよー」

「おいおい、それは小春と一緒にするなよ、涼子の自業自得だろ」

「うっさい! 私だって悩みの一つや二つありますよーだ」


 涼子が凌駕くんにボールを投げる。ちょっとそれたが凌駕くんは簡単にキャッチした。さすが野球部だなと思った。


「あ、あはは、涼子と凌駕くんは相変わらずだね……」

「あっ、小春ー、ちょっとバカにしたでしょー。小春めー、可愛いからって許されないぞぉー!」


 涼子が私に抱きついて、私の頬をツンツンと突いた。


「ご、ごめん、バカにしてるわけじゃなくて……」

「あはは、お前らも仲いいよな。なんか見てて安心するぜ」


 凌駕くんが軽く私にボールを投げた。私はまた両手でキャッチする。


「なんかこうしてるとさー、小学生の時思い出すねー。野球好きな凌駕に色々教わって、こうやってキャッチボールしたねー」

「ああ、懐かしいな。俺らあれから身体は大きくなったけど、心はそんなに変わってないような気がするな」


 凌駕くんの言葉を聞いて、私は胸がチクリとした。たしかに二人は変わってないような気がするが、私は……病気になってしまったことで、心の方は以前とは違う気がしたからだ。


「……私は変わっちゃったな……こんな状態になってしまったし……」


 涼子にボールを投げた後、私はぽつりと口に出した。


「……小春、そんなことないぞ。小春も変わってない。おとなしくて、笑顔が可愛くて、優しい心を持っている小春はあの時のままだよ」

「そうだよー、小春も変わってないよー。たしかに病気にはなったかもしれないけどさ、優しい心を持っている小春は、私たちの中で一番繊細でさ。そんな小春が大好きだぁー!」


 そう言ってまた涼子が抱きついてきた。そうか、繊細な心を持っているからこそ、傷つきやすいのもあるのかもしれないなと思った。


「あ、ありがとう……二人がいてくれるから、私頑張れる……学校に行くのも、病気の治療も……」

「うんうん、小春は頑張り屋さんだもんね。私たちがよく知ってるよーって、凌駕、あんたも『小春が大好きだー!』って言いなさいよ」

「ええ!? あ、い、いや、恥ずかしすぎるだろ……」

「あれぇー? 凌駕さん? 顔真っ赤にしちゃってー! 可愛いところあるんだからー」

「か、からかうのやめろ……! ま、まぁ、俺らがいるからな、安心してほしいっつーか」


 恥ずかしそうな凌駕くんを見て、私と涼子は笑った。

 それからしばらくキャッチボールをして楽しんだ。こうやって身体を動かすのもいいなと思った私だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る