第10話「動けない自分」
週が変わって月曜日、今日からまた学校……なのだが、私はベッドから起き上がれずにいた。
まただ……身体が重い。心が苦しい。でももう起きる時間を過ぎている……起きなきゃ……と思うが、どうしても身体が動かない。
なんとか伸ばせた手でスマホを取り、布団の中で見る。涼子と凌駕くんとのグループRINEにメッセージが来ている。私も何か送らなきゃ……そう思いつつ眺めるだけで何もできなかった。
コンコン。
その時、部屋のドアがノックされる音が聞こえた。かすかな声で「は、はい……」と言うと、お母さんが入って来た。
「小春、そろそろ起きる時間だけど……もしかして体調悪い?」
「……う、うん……起き上がれない……」
「そっか、大丈夫よ、学校には連絡しておくわ。もう少し横になってなさい」
「……ごめん、ありがとう……」
「いいのよ、お父さんとも約束したでしょ、小春がきつい時は無理をしないこと。お腹が空いたら起きてきてね」
「……うん、分かった……」
お母さんが部屋を出て行った。私は申し訳ない気持ちになる。
なぜ私は動けないんだろう。
なぜ私は心と身体が重いんだろう。
なぜ私は嫌なことを言われているんだろう。
なぜ、なぜ、と次々に考えても答えは出てこない。私は力を振り絞って、グループRINEに『今日は休みます』と一言だけ送った。その後は意識がなくなった――。
* * *
ふと目を開ける。ああ、あれから眠ってしまったのだなと頭が理解するのに少し時間がかかった。外は明るい。夜というわけではなさそうだ。時間を見ると夕方くらい。そんなに寝ていたのか。
私は起き上がってみることにした。上半身はなんとか動く。下半身は……と思って立ち上がってみる。少しふらつくが動けないことはない。よかった。
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。誰が来たのだろうか。お母さんの声が聞こえた……と思ったら、こちらに歩いてくる足音が聞こえて、すぐに部屋のドアをノックする音が聞こえた。「は、はい」と言うと、お母さんが入って来た。
「あ、小春起きたのね。涼子ちゃんと凌駕くんが来たわよ。どうする? きついなら無理して会わなくてもいいけど」
「あ、だ、大丈夫、上がってもらってもいいかな……」
「分かったわ。あ、小春何も食べてなかったわね。ちょっと待ってね、雑炊作るわ」
そう言ってお母さんが出て行った後、私の部屋に涼子と凌駕くんが入って来た。
「小春、大丈夫? 今日休むってRINE来て、気になって来てみたよ」
「あ、ありがとう……どうしても動けなくて……」
「そっか、うん、無理したらよくないよ……って、凌駕? なんでそっち向いてんの?」
涼子が凌駕くんに話しかける。凌駕くんは私の方を見てなくて、机の方を見ているようだった。
「あ、い、いや、小春が、その……パジャマが……」
「え……? あ、ご、ごめん!」
ふと自分を見ると、パジャマがはだけていて胸が見えそうになっていた。私は慌ててパジャマを着なおした。少し顔が熱くなってしまった。
「あはは、凌駕も年頃の男の子だねぇ。ねえねえ、小春の胸見てドキドキしたんでしょー?」
「そ、それを俺に訊くな……! で、でも、小春が起き上がれたならよかった」
「う、うん……でもさっきまで寝てしまってた……なんか申し訳ない気持ちでいっぱいで……」
「いいんだよ、今小春は鬱状態が重いんだよ。申し訳ないとか思わなくていいよ」
涼子が私の頭をよしよしとなでた。
「う、うん……変な夢も見てた……なんか、ちゃんと眠れてるのかそうでもないのか……」
「そっか、まぁいいじゃねぇか、身体を休めることも大事だよ。あ、今日の授業のノート、写真撮っておいたから小春に送るよ、あとで見ておいてくれ」
凌駕くんがRINEで私に送ってくれた。
「あ、ありがとう……あれ? そういえば凌駕くん、部活は……? まだ部活があってる時間じゃない……?」
「ああ、監督や先輩に事情を話して、早めに上がらせてもらった。友達が今苦しんでるから、見過ごせないって」
「え、あ、ご、ごめん……」
「気にすんな、俺がやりたいと思ってやってることだからさ」
「そうそう、小春はちゃんと休んで、心と身体をしっかり治さないとねー」
そう言って二人がニコッと笑った。
「あ、ありがとう……私、なんでこんなに落ち込んだままなのかなぁってぼんやり考えてた……もし病気が治らなかったらどうしようって……」
「……小春、不安になる気持ちも分かるよ。そう簡単には治らない病気だっていうのも私も理解した。でも大丈夫、小春はまた元気になるよ」
「おう、今はきついかもしれねぇけど、大丈夫だ。また心も身体も上がってくるよ」
「う、うん……こうやって考えるからよくないんだね……今の状態を受け入れなきゃ……」
私は二人に申し訳ない気持ちになったが、そればかりではダメだと考え直した。今はきついかもしれない。でもまた元気になる時が来ると。その時に改めて二人にお礼をしようと思った。
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