第7話「一週間後の通院」
初めて橘メンタルクリニックを訪れてから一週間後、私は橘先生に言われていた通りに、またクリニックに行った。
今日もお母さんが車で送ってくれた。診察は午前中に終わる予定なので、午後から学校に行こうと思っている。
受付に行き、診察券を出すと、受付の女性に「今、前に二名お待ちになっております。しばらく待合室でお待ちください」と言われた。
「小春、お薬飲んで一週間経ったけど、体調はどう?」
「う、うーん、まだそんなに変わらないというか、きつい時もあるというか……」
「そっか、先生もお薬の効果が出るまで少しかかるって言ってたもんね。今日は一人で診察室に行ける?」
「う、うん、頑張る……」
私はまた少し緊張していた。無理もない。二回来ただけで全てに慣れるというのは無理なものだ。
しばらく待っていると、奥からパタパタと大山さんがやって来た。
「小春ちゃん、こんにちはー」
「あ、こんにちは……今日もよろしくお願いします」
「うんうん、小春ちゃんはやっぱりしっかりしてるねー。体調に変化はあった?」
「う、うーん、そんなに変わらないかなって思います……きつくて学校を休んだ日もあったので……」
「そっか、小春ちゃん、体調が変わらないことで落ち込んでたりしてない? 急に変わるってことはほとんどないので、そこは気にしないでね」
私の心を読まれているようで、ドキッとした。橘先生だけでなく、大山さんも心が読める人なのかな……?
さらにしばらく待っていると、大山さんから「診察室に入ってね」と言われたので、私は一人で診察室に行く。コンコンとノックをして、ドアを開けた。
「こんにちは小春さん、どうぞどうぞ、さぁ座ってください」
橘先生に座るように促されたので、「し、失礼します……」と言って座った。
「さて、あれから一週間経ちましたが、さっき大山に聞いたところによると、体調はそんなに変わらなかったみたいですね。学校には行けましたか?」
「は、はい……あ、一日お休みした日があります……」
「そうですか、いいんですよ、無理をしないことが一番です。他の日は行けたというのは、とても大きなことですよ」
橘先生がニコッと笑った。笑顔を見ると若そうな感じを受けるが、やはりお父さんと同じくらいの歳なのだろうか。
「前回もお話しましたが、心の状態にも波があります。小春さんは今その波が大きく、さらに波が下の方に来た時に、しばらく停滞してしまうようになっているみたいです。そういう時は無理をしないこと。また浮上して来る時が必ずありますので」
そう言って橘先生はポチポチとパソコンを操作した。私のことが色々と書かれてあるのかなと思った。
「……そうだ、小春さんは学校にお友達はいますか?」
橘先生が手を止めて、私に訊いてきた。友達……か。すぐに涼子と凌駕くんの顔が思い浮かんだ。
「あ、は、はい……小学生の時から、仲良くさせてもらっている友達が二人います」
「そうですか、それはいいことですね。お友達に病気のことは話しましたか?」
「は、はい、話しました……」
「そうでしたか、きっと勇気がいったと思いますが、お友達なら分かってくれるはずです。周りの人に支えてもらうのも大事なことですよ」
橘先生がまたニコッと笑った。私の病気のことを聞いても、涼子も凌駕くんも今まで通り普通に接してくれる。私はそれが嬉しかった。
「は、はい……いつもと変わらず接してくれて、嬉しいというか……」
「そうですか、いいお友達がいますね。あと、夜は眠れましたか?」
「あ、はい、なんか寝付けない時がなかったというか……」
「そうでしたか、よかった、睡眠薬が効いているみたいですね。睡眠薬はすんなりと効いてくれることが多いのですが、他のお薬はもう少し時間がかかると思います。でも、焦らないようにしてくださいね。前にも言ったように、気分の波はどうしてもあります。動けないからといって必要以上に気にすることはありませんよ」
「は、はい……あの、ちょっと調べたのですが、躁状態の時は人を傷つけることがあると……私はそこまではないと思っているのですが……」
「そうですね、躁状態の時はなんでもできそうな気分になって、色々なことを実行しがちです。小春さんの場合、学校に行けている時が注意ですね。小春さんの性格上人を傷つけることは少ないと思いますが、一応気をつけておいてください」
先生がゆっくりと説明をしてくれた。やはり気分が上がった時が危ないのだな、涼子の言葉を思い出していた。
「今日は前回と同じお薬を出しておきます。また一週間様子を見ましょう。何度も言いますが、無理をしないことが一番です。きつい時はきついことを受け止めて、学校も無理に行こうとしないでください。僕との約束です」
「は、はい、分かりました……」
橘先生と、次の診察の予約を話し合った。また一週間後、ここに来ることになる。私は橘先生と話すことで、少し心が軽くなった気がした。
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