第5話「学校でのやりとり」
次の日の朝、昨日の約束通り涼子がうちにやって来た。
「おはよぉー! さぁ行くよ小春!」
「お、おはよう……朝から元気だね、涼子」
「あら、涼子ちゃんおはよう。小春の迎えに来てくれたのね、ありがとう」
「ああ、お母さんおはようございます! いえいえ、ちょっと私も心配だったので!」
「ふふふ、涼子ちゃんはいつも可愛いわね、二人ともいってらっしゃい」
お母さんに見送られて、私と涼子は駅へ行く。学校までは電車で三駅移動しなければならない。まぁもっと遠いところから来ている子もいるから、私たちはまだ近い方だと思う。
「小春、体調よくなった?」
「あ、うん、今日は大丈夫……ありがとう」
「そっかそっか、それならよかったよー。
「そ、そうなんだね、心配かけちゃったな……」
涼子が言った凌駕とは、
私たちは、あいば、あめや、あらかわと、出席番号で近くなることが多かったので、席も近くになりやすく、そこでよく話すようになった。
(そっか、凌駕くんにも心配かけちゃったか……でも二人に病気のこといつ話そうかな……)
「……小春? どうかした?」
涼子が私の顔を覗き込んでいた。
「……あ、い、いや、なんでもない……」
「そぉ? なんか深刻そうな顔してたけど……ま、いっか。もうすぐ電車着くね」
学校の最寄り駅に着こうとしている電車の窓から外を見ながら、私はなんだか隠し事をしているみたいで申し訳ない気持ちになっていた。
* * *
私たちが通う
学力的にはこのあたりの学区でも真ん中くらいだろうか。私もめちゃくちゃ勉強ができるわけではなかったので、自分に合った高校を選んだ……んだけど、環境が変わってから私は中等部出身の女の子たちに目をつけられるようになってしまった。
なぜかは分からない。私が何かをしてしまった覚えもない。きっといつもおどおどしていて、からかいやすかったんだろうな、そんなことを思っていた。
最初は本当に、ただちょっとからかわれているだけなんだろうなと思っていたが、そうではなさそうだと気づいたのが遅かったかもしれない。私は鈍感である。
本当は学校に行くのも気が重い時がある……が、涼子や凌駕くんがいてくれるから、私は頑張って学校に行こうと決めていた。
「――あら、相場さんおはよう」
学校に着いて席に着くと、その中等部出身の女の子たちに囲まれてしまった。いつも三人で行動している。今日もそうだった。
「あ、お、おはよう……」
「ふぅーん、簡単に学校休んで、ずいぶんお高くとまってるみたいねぇ」
「やだー、ずる休みなん? マジ自分勝手ー」
あはははと笑う三人。こんな人たちには自分の病気のことは伝える必要がない。ぐっと奥歯を噛みしめて我慢していた。
「……あなた、なんか言いなさいよ。言いたいことあるんでしょ?」
「……あ、い、いや、別に……」
「ふぅーん、じゃあやっぱりずる休みなんだー、きったないことする女だねぇ」
「……い、いや、ちが――」
「まぁ汚いのはずる休みだけじゃなくて、見た目もなんですけどぉー」
またあはははと笑う三人だった。言いたいことは言わせておけばいい……けど、胸が苦しくなってきた。まただ……右手で胸をおさえた。
「なに? 胸が苦しいの? それとも、自分は胸があると自慢したいのかなぁ?」
「……い、いや、そうじゃな――」
「――おーっす、小春おはよぉ!」
その時、大きな声で私を呼ぶ声がした。肩をポンポンと叩かれる。見ると凌駕くんと、隣には涼子もいた。
「なんか楽しそうな話してんなぁ。あ、すまん、小春はそうでもなかったか。お前ら、俺らの小春になんか用か?」
「ほんとほんと、誰かさんたちの笑い声、耳に響くんだよねぇ。あー近くで聞かされる小春がかわいそう」
「……くっ」
三人は凌駕くんと涼子をキッと睨んで、向こうへ行ってしまった。
「……あ、あの、ごめん、ありがとう……」
「いやいや、気にすんなよ。小春はあんな奴らのこと相手にしなくていいからな」
「そうそう、あいつらほんとしつこいよねぇ。私の小春になにしてくれてんだって感じ」
涼子が私に抱きついて、よしよしと言いながら頭をなでてくれた。
「あ、あの、二人に聞いてもらいたいことがあって……今日終わったらちょっとだけ時間もらえるかな……?」
「おう、俺も部活行く前だったら大丈夫だよ」
「うん、大丈夫だよー、あ、そろそろ先生来る頃だね」
こんな感じで、いつも凌駕くんと涼子には助けてもらっている。この二人には病気のことを話してもいいなと思った。
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