第4話「その後の話と友達と」
結局、橘先生と四十分くらい話していただろうか。まぁ私が言葉に詰まって話せなかった時間もあるのだが。それでも橘先生は、「無理しなくていいですからね、ゆっくりと」と声をかけてくれた。
橘先生は優しい笑顔で、なんだか話しやすい人だなと思った。言葉も丁寧だし、私に無理に話をさせようとしない。「ゆっくりと」という言葉を何度も聞いた。
私とお母さんはお礼を言って、診察室を後にした。お薬は一週間分出た。橘先生は最後に、「お薬の効果が出るのはだいたい二週間くらいかかるので、今回は小春さんの落ち込みも大きいようですし、申し訳ありませんが来週また来てもらえますか」と言っていた。大山さんも「小春ちゃん、ゆっくり休んでね、お大事に」と言っていたので、私はお礼を言った。
その日の夜、お父さんとお母さんと私の三人で、病院に行ったことの話をした。
「小春、どうだった?」
「う、うーん……私、双極性障害の可能性があるって言われた……な、なんとなくしか分からないけど、『心の風邪』だって言ってた……」
「そっか、心の風邪なら、ゆっくり休んで治さないとな。院長先生とはよくお話できた?」
「う、うん、私が言葉に詰まる時もあったけど、『ゆっくりと、自分のペースで』って言われた……なんか、言葉も丁寧だったし、話しやすかったかも……」
「そっか、よかった。小春のことが気になって今日は仕事中も上の空だったよ」
そう言ってお父さんがあははと笑った。ま、まぁ、気にしてくれるのはありがたいというか、なんというか。
「ふふふー、診察終わって、小春とデートしてきちゃった~、楽しかったねー」
「う、うん、ショッピングモール行ってきた……ストロベリーフラペチーノ、美味しかった……」
「そっか、そうやって気分転換するのも大事だよね。前にも言ったけど、学校は無理しなくていいからね。小春がきつい時は休むこと。これは約束してくれるかな?」
「う、うん、分かった……」
「そうよー、小春の身体が一番大事だからね。それと、誰かに嫌なことされたら言いなさいね。あ、お父さんにも」
「だ、だからついでみたいに言うのやめてくれないかな、お母さん……まぁいいか。小春、それも約束できるかな?」
「う、うん……」
「……よし、この話はここまでにして、あとはのんびりしようか。小春も疲れただろう。部屋でゆっくりしておいて」
私は「おやすみなさい」と言って自分の部屋に行った。ベッドに転がり、今日のことを思い出していた。
(双極性障害……か、私、病気だったんだなぁ……)
そう思うと、少し心が沈むというか、また重くなった気がした。気にしすぎる必要はないのかもしれないが、まだ全てを受け入れきれずにいた。
ピコンッ。
その時、私のスマホが鳴った。見るとRINE、メッセージアプリにメッセージが届いたようだ。
『小春~、大丈夫? 今日も学校休んでいたけど、体調悪い?』
送ってきたのは、
『うん、ちょっと病院行ってて。時間かかったから学校には行けなかったよ』
『そっかー、病院行ったならよかったよー。私の小春に何かあったらどうしようかと……』
『な、何かってなに……? まぁいいか。明日は学校行くから』
『オッケー、じゃあ朝小春の家に行くねー、一緒に行こうよ~』
『うん、分かった。あ、そういえば英語の課題がなかったっけ……?』
『あー! ヤバい、忘れてたー! 明日一時間目から英語じゃん! やっておかないと』
『RINEしてる場合じゃなさそうだね、私もやっておくよ』
『ちぇーっ、せっかく愛しの小春と話してたのにー。まぁ仕方ない、頑張りますかー。じゃあまた明日ねー』
涼子がそう送ってきた後、『おやすみ』という文字が布団に書かれた犬のスタンプを送ってきた。私はクスっと笑った。
(そうだった、英語の課題やらないと……でも、涼子に病気のこと話せなかったな……まぁそれは会った時に話した方がいいのかもしれないな……)
ぼんやりとそんなことを考えながら、英語の課題に取り組むことにした。しばらく勉強した後、ふと気になってスマホを手に取った。ブラウザを立ち上げ、『双極性障害』と検索する。色々と出てきた中で、一つのページを開いた。
(だいたいのことはここに書かれてあるな……友達に訊かれたら、ここを見せるのもありかもしれないな……)
そのページには、躁状態の時は『本人は気分がいいのですが周りの人を傷つけ、無謀な買い物や計画などを実行してしまいます』と書いてあった。そこまでの躁状態は今のところないと思うが、元気な時もあるのは間違いない。気をつけておこうと思った。
今は鬱状態の時の方が大きいのかもな、そんなことをページを見ながら考えていた。
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