三分間天地創造
ヤマケン
三分間天地創造
神には三分以内にやらなければならないことがあった。
天地の創造である。
天地創造の施工予定期間は七日間あった。
一日目、神はまず葡萄酒を飲み、そして寝てしまった。
覚醒と酩酊を繰り返す中で、神は自分の先延ばし癖と仕事の遅さを呪いつつ、まだまだ大丈夫と言い聞かせ、また葡萄酒を飲んだ。
二日目から六日目は、変化の無い様子なので省略する。
七日目、神はついに天地創造に着手する気力を抱いた。だが、数日間の飲酒とともにあった怠惰な生活は、神の心身を蝕み、猛烈な眠気をもたらしていた。
「まだ……時間ある」
神は寝てしまった。
そしてついに、神は目を覚ました。
目をしばたたかせて、安物の丸い目覚まし時計を手繰り寄せ、時間を覗き込む。
上司が創造された世界を確認しに来る三分前であった。
「……ぁぁあああ!!!!」
奇声を発した後、神は目覚まし時計を放り投げて寝床から飛び出し寝間着のまま杖を掴み取った。その表情は鬼気迫るもので、眼球は血走り、口から泡とよだれが垂れていた。口臭は葡萄酒臭かった。
「おぉあああ!!!!」
手首のスナップを利かせ凄まじい勢いで杖を前に突き出しながら振った。
杖がシュシュシュと空気を着る音を発するうちに、約二十秒、前方空間に暗がりが大きく広がって、真っ黒い大宇宙と赤黒い原始地球が出現した。
「次だッ!!」
神は杖を放り出して寝床の戸棚から何やら書類を引っ掴んで持ってきた。破れそうな勢いでバラバラとページをめくる。
「空……空!! 大地と海と植物も……!」
神はまた杖を掴み原始地球に向かって突き立て、何やらもごもごブツブツと唱えた。するとどうだろう。原始地球に青い空が広がり、地殻が隆起と沈降を経て、大地と海となった。そして大地には、青々しい植物たちが芽吹き、美しく豊かな星の姿となった。一分十秒ごろのことである。
神は次に、おもむろに床に落ちていた赤いボールを掴んだ。その次に白いボール。器用に二つのボールを片手で持ち上げ、もう一方の手には杖。
神はボールを投げ上げ、杖で打った。
「むんッ!!」
赤いボールは凄まじい球速で黒い宇宙の闇を突き進み、凄まじい上回転によって上昇に転じたかと思うと、まるで爆発したかのように燦然と輝きだした。
太陽である。
「とうッ!!」
白いボールは強烈な下回転で地球の裏側に行き、そのまま地球の周りを巡り始めた。
月である。
今度は神は、何やらおもむろに袋を取り出した。袋の中には銀色や金色の細かな粒が一握りほど入っている。神はそれを手に引っ掴んだ。
「おらッ!」
細かな粒が宇宙へばらまかれたかと思うと、各々散りばめられた先で輝きだした。
星である。
二分を過ぎたところで、大宇宙と地球、それを巡る星たちは完成された。
「次は何だ!? 魚、鳥か! 獣と家畜もだッ!」
神は目を見開いた。するとどうだろう。目が激烈な閃光を放ったかと思うと、指向する光の一閃が、地球を貫いた。まばゆい、あたたかな光が地球を包み込んだかと思うと、動物たちの息吹が聞こえてきた。地球は瞬く間に、動物たちの生きる生命の星となったのである。
「最後は、人だッ!」
神は……鏡を覗いて、なにやら呟いた。
そしてついに、天地創造から三分が経過した。
そのスーツの男は、何の前触れもなく神の部屋に現れていた。
「やぁ神よ、出来ているかね?」
「上司様! いや今、呼びに行くところでした」
「あぁ、大丈夫大丈夫……天地創造は、出来ているようだね」
「えぇ、まぁ……」
「うーーーーんと……」
スーツの男は、しばし思案顔で宇宙空間を眺めていた。
一分後。
「この太陽、ボロボロで殆ど寿命ないよ、どうやって設置したの? 月がさぁ、この軌道だとしばらくしたら地球に落ちるよ。星空がバラバラ過ぎて全然星座作れないじゃん。地球の環境もさ、植物が全高五キロメートルなんだけど。山は宇宙に出ちゃってるし、逆に海が平均水深三十センチなんだけどどういうこと? 魚浮いてんじゃん。ていうかこれ深海魚だよね? あとなんで鳥がニワトリしかいないの? え? 家畜と兼用? はぁ……それから獣もさ、バッファローしかいないじゃん。凄いよ。群れで突進して森林とか破壊しまくってるよ、滅茶苦茶だよ。五キロメートルの植物なぎ倒してるよ。こいつら破壊するものが無くなるまで突き進みそうだよ」
まくし立てられ、神は唇をかんでいた。
「ところで、人間どこ?」
「あ、あの、そこに」
「あ、いたいた、あ……」
上司は神にそっくりな容姿をした全裸の人間が、バッファローに跳ね飛ばされ空中をおかしな姿勢で舞う瞬間を見た。
「あれは、あのデザインでいいや」
上司の横顔は明らかに笑っていた。
神が寝床から起きて五分後、天地創造のやり直しが決定した。
私たちの宇宙が完成するのは、もう幾度か、後のことである。
三分間天地創造 ヤマケン @yamaken_21th
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