上京編
第27話 壱新紀元
西日本覇権争い。
中国の毛利、土佐の長宗我部、九州の龍造寺、大友、島津。名を馳せた大名たちが西日本にもいる。
島津義弘と
「はっ、織田など我が落としてくれるわ!」
1575年、毛利輝元は織田征伐を表明した。その翌年、信長は
毛利水軍もそれに対応し、両者は木津川口にて対峙した。毛利を援護した軍もあった。小早川水軍や宇喜多水軍である。
戦力差は倍以上。織田水軍は毛利の海戦兵器、
その三年後、信長は石山合戦の一戦として、
「義隆様、毛利・小早川水軍が迫って来ます!」
「引きつけて打つ。早まるなよ」
「はっ」
九鬼嘉隆は迫りくる敵水軍を見渡した。
「前回のようにはいかぬと知れ、愚か者共が」
毛利・小早川水軍が九鬼水軍の鉄甲船六隻を攻撃した。
「やってし───」
「放てぇ!」
義隆の号令が配下たちに伝わる。鉄甲船六隻から大鉄砲や大砲が毛利・小早川水軍の船を襲った。
「何!?」
毛利・小早川水軍の将、村上武吉は驚いた。そして、すぐさま撤退の指示を出す。船はじりじりと後ろへ下って行き、やがて、淡路島へと帰って行った。
「義隆様、勝利でございます」
「当然。二度も負ける我らではない」
波乱の海戦。鉄甲船六隻vs船百隻、第二次木津川口の戦い、勝者九鬼水軍。
◇ ◇ ◇
翌年、本願寺への補給を絶ったがゆえ、
「殿、何用でございましょう?」
「光秀よ、これから長原が来る。お前と秀吉に出迎えを任せる」
織田家家臣の明智光秀は平伏し、答えた。
「承知仕りました」
光秀は部屋から退出する。信長はどっかりとあぐらをかいた。
「しかし、あやつが来るとはな。京には興味がなさそうだったがな」
昨年、後北条氏を討ち滅ぼし、関東や東北辺りを支配するようなった竜頼。そんな竜頼は天下に名を轟かせた。
『常陸に長原あり』
と。他の大名たちも竜頼を注視しており、危険視される存在へと至った。
「まぁ、あやつが来れば、荒れそうじゃな」
◇ ◇ ◇
北条氏直を討った。それすなわち、長原軍の勝利である。歓声が沸いた。長原軍は武器を掲げ、雄叫びを上げている。対する北条軍は武器を捨て降伏し、その場に崩れ落ちた。
今日、歴史が変わった。戦国最強の一角、北条氏の滅亡。そして、新たなる戦士、長原の登場。竜頼はそんな思いに更けている………暇はなかった。
「将虎!ここは任せる」
「ん?あぁ、任せろ」
竜頼は左軍を将虎に任せ、義重のいる右軍へ向かった。その後に続くのは旬率いる近衛師団。竜頼は急いで義重の下へ向かった。
そう距離を離れておらずすぐに竜頼たちは着いた。竜頼は状況を見て、舌打ちする。
「おぉ、若!ご無事で」
「そんなことはどうでも良い!あの軍を止める。俺がやろう」
「お待ちください。儂らには状況がさっぱり……」
竜頼は敵軍を見つめた。
「奴らは………」
竜頼は言った。
「………武田の生き残りだ」
竜頼は走った。続いて近衛師団が走る。皆は呆然とした。武田。その名は戦国最強の名となる。
武田信玄。甲斐国に生まれし猛虎。日本最強の騎馬隊を作り、最も天下人に近かった男である。
その者らの生き残りが今、竜頼たちの目の前にいた。武田軍率いているのは女性だ。竜頼は不思議に思った。
「お討ちなさい!」
武田軍を率いるのは信玄四女の
「姫よ。もう、北条は………」
「黙りなさい!さぁ、討ちなさい。長原竜頼を!」
武田軍は義重率いる第三軍に突撃した。その攻撃は凄まじい。早くも最前線は武田軍が
「焦ることはない。ただ、受け止めよ」
前線近くにいる義斯は兵士たちを落ち着かせた。義斯は信じている。
『あやつなら必ずやる』
その想いが届いたのか、松姫のいる武田本陣が奇襲された。
「攻撃を止めよ、武田。我らに交戦の意思はない!」
義久が本陣近くへもぐった。
「それはできませんわ。あなた方はここで討たせていただきます」
「それは、無視できぬ話だ。まぁ、それも、殺るのはみどもではござらぬが」
「何の話で───」
松姫の側近たちが一斉に倒れた。松姫は驚く。そして、その首に刀が突きつけられた。
「攻撃を止めよ」
武田軍はだんだんと攻撃の手を緩め、ついには武器を捨てた。
「良くやった、朱魔」
「はっ」
竜頼は戦いが終わったのを見るに、松姫の下に現れた。本陣を襲った部隊は朱魔率いる魔那の一族である。
「やはり、か。行軍中の死体もお前たちがやっただな」
清重を討った後だ。行軍中に多くの死体が転がっていた。竜頼は怪訝に思っていたが、無視して行軍した。しかし、完全に無視したわけではない。
朱魔たち魔那の一族に軍を壊滅させた軍を追わせたのだ。そしてたら、見事武田へたどり着いた。
「あの死体は、死んでから日が浅かった。お前たちは処理すべきだったのだ。あの死体を。まぁ、今言ったところで詮無きことではあるがな」
松姫はくっ、と竜頼を睨む。竜頼はそれに気づいたのか、松姫を正面から見据えた。
「もっと徹底的になるべきだったな。お前のような子どもが戦場に出るものではない」
※竜頼19歳、松姫18歳。
「あなただって、子どもでしょう!それに、妾だって武田の娘ですわ」
「俺は一国の王だ。お前とは立場が違う。早々に
松姫も武田を治める人物ではあるが、武田は今、甲斐守ではない。
「この戦いに参戦するのなら、命賭けろよ。これは喧嘩じゃないんだ。歴史に残る一戦だ。それに軽々しく足を踏み入れるなら───」
竜頼は松姫の目の前まで来た。
「───死ぬ覚悟くらい、できているんだろうな」
竜頼は炎魔を抜き、松姫の首筋に当てた。
「えぇ、も、もちろんですわ。妾は武田の娘で───」
竜頼は炎魔を振るった。
「姫ぇぇぇ!!!」
松姫の首は落ち………はしなかった。松姫は閉じていた目を開ける。竜頼はすでに炎魔を鞘に仕舞っていた。
「殺しは………しませんの?」
「自分の身は大切にするものだ。失せろ」
竜頼は義重に合図する。義重は兵を退げさせた。竜頼たち近衛師団も去って行く。
その後、竜頼は長原軍を率いて、小田原城を陥落させた。北条氏は一人残らず処刑された。残された北条の家臣や民たちは小田原城にて、監視している。そして、小田原城城主兼相模守に、江戸重道を任命した。重道の役目は主に北条の生き残りの監視と近隣国への防波堤である。
隣には駿河国がある。そこを治めているのは徳川家康。信長と同盟を組んでいるとはいえ、無視できぬ存在なのは確かだ。防衛戦に
そして、下総国、上総国、
それにより、竜頼は常陸国と星火国、相模国を支配する百五十万石の大大名へとのし上がった。また、土地が増えたため、戦力の増強や作物の豊作、税の徴収も捗り、今では豊かな土地へと変貌していた。
(相模守も星火守も竜頼が信長へ打診し、信長が朝廷に推薦して、重道、義重の二人は一国の守へとなった)
竜頼は馬に乗る。隣には英松と将虎、晴仁がいる。その後ろには為信や雷覇、朱魔たちがいた。
「さぁ、行こうか。京へ」
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