第13話 胸中成竹
箱を開けるとそこから出てきたのは、一本の刀だった。それは光に照らされ煌めいている。竜頼はその刀を手に取った。
それだけで理解したのだろう。その刀のすごさを。重量感や鋭さ、持ちやすさ、何もかもが計算され尽くした設計だった。
「………すごいな」
竜頼は思わずそうつぶやく。この刀は『
しかし、陸奥は朝廷に恭順していなかったためあまり蝦夷刀は使われていなかった。
そんな刀を竜頼は持ってみて実感する。そのすごさに。これは一級品であると。
「こちらは、あの山の高くにある玉鋼を使わせていただきました。硬さは一級品。わしが造った中での最高傑作じゃ」
「それは良い」
竜頼はまだ刀を眺めている。そして、その刀を鞘に仕舞い腰にかける。家宣はそれを見て、言った。
「その刀の名は、『炎魔』という。魔の炎さえ絶ち斬るという意味を込めた名だ」
竜頼は笑う。そして言った。
「炎魔か、使わしてもらうぜ」
その後、竜頼は家宣にもう何本か刀を打ってくれるよう頼んだ。すると、家宣は快く受け入れてくれた。
「それと、陸奥へ来たのなら占いでもされてはどうじゃ。東和の方には、占い師がおられまするぞ」
竜頼はならば、と言い、東和へと向かい始めた。
◇ ◇ ◇
黒石や胆沢、和賀を抜け、竜頼と英松、輝宗、梵天丸、その配下たちは、東和へと来ていた。目的は占いだ。
皆にとって初の占い、竜頼はワクワクしていた。そして、古い館に着いた。竜頼たちは近くにいた老人に話を聞く。
「少し良いか?」
そう問うとその老人はこちらに振り向く。
「客人か、久しぶりだ」
「ここで占いができると聞いたのだが、本当か?」
「わしがやっておるぞ、その占い」
その老人はフォッホホ、と笑いながら手招きする。竜頼たちは老人のあとに続き、館の中に入っていく。
古びた空間だ。ところどころ、穴が空いている。廃墟のように見える。竜頼はそう思った。
「ここじゃ」
竜頼は少し警戒していたが、それを解く。理由は老人の目だ。その目はまるで、自らをしっかりと見ているようだった。
「占いは時間がかかる。占いの間は正座していてくれ」
老人はそう言いうと、奥から巫女服を着た女性が出てきた。その女性は竜頼の前に立ち、手を合わせる。占いが始まった。
「お名前は?」
「竜頼、長原竜頼だ」
一時間ほど立ち、その巫女は動きを止める。正直、竜頼には占われた実感はなかった。ゆえに、そろそろ、なにか起こるのかとそう予想する。
それは当たっていた。巫女は竜頼の頭に手を当て、何かを唱えた。
がくん、と竜頼の体から力が抜ける。竜頼は床に手をついた。
『なん………だ。これは、っ!』
竜頼の頭の中には情景が浮かぶ。それは、戦の情景だ。
『戦っているのは、俺と上杉のとこの女。次は俺と外套を纏う男が戦っている?』
竜頼は汗を出す。かなり、疲弊していた。それでも、さらに情景が映し出されていく。
『これは、信長が───』
竜頼は倒れる。すると、巫女も倒れた。力尽きたのだ。この占いは、陰陽術だ。巫女は陸奥でも有数の陰陽師だ。
そんか陰陽術は呪力を使う。使いすぎれば、気絶する。竜頼は生気を使いすぎただけだ。命に別状はない。それを聞き、皆は安堵した。
数十分して、竜頼と巫女は目を覚ました。
「竜頼様、大丈夫でしたか?」
巫女は起きてすぐ心配していた。その心配具合から見て、自分も気を失うのは初めてなのだろう。
「いや、特に問題はない」
竜頼がそう答えると、巫女はほっと息を吐く。竜頼は疑問に思ったことを聞いた。
「さっきの情景は何だったんだ?」
「景色が視えた、のですか!?」
巫女は驚いていた。
「あぁ、そうだが」
竜頼はあっさりとそう答える。老人も驚いていた。
「視えた者は始めてだ」
普通は断片的には見えるが、くっきり視える者はいない。いない───はずだった。しかし、竜頼がその常識に囚われない。っていうのは大袈裟な表現だ。
実際は、竜頼の中に膨大なまでの呪力を秘めていた。他の者にも呪力はある。それでも精々、陰陽師の五分の一程度だ。
老人と巫女は見合い、竜頼に聞いた。
「な、なにが視えたのですか?」
「主に戦の情景だな。色んなやつと俺が戦っていた」
「竜頼様、こちらに」
巫女は竜頼を呼び、皆と、少し離れた。そして、話し始める。
「これから言うことは、大事なことです」
竜頼は巫女を見つめる。真剣な面持ちとなった。
「今、竜頼様が視られたのは『未来の出来事』なのです。この占いでは未来を示し、より深く自分を知れるのです」
「未来の……出来事、か」
竜頼は考える。今、竜頼が視た占いには信じがたい出来事が映っていた。竜頼は厳しい顔をしていたが、頭を振る。
「変えるしか、ないだろ」
竜頼は密かに決心した。
「あ、あの、竜頼様。他にはどのような、未来が視えたのですかぁ?」
巫女は頬を赤らめ、迫ってくる。竜頼は少し下がりながら答えた。
「戦のこと以外なら、誰かは分からないが、俺の隣に人がいたな。何かを見ていたようだ」
巫女はなぜか興奮していた。竜頼は引いている。そして、巫女は竜頼の手を取る。
「申し遅れました、竜頼様。私は
竜頼は押しに押されていた。それはそれは、もう剣筋が自らの首に据えられているくらいに。竜頼は立ち上がり、皆の下に戻っていく。
巫女───結妃もその後ろについていった。そして、先程の空間に戻ってくる。
「大丈夫か、竜頼?」
英松は心配そうな顔で聞いてきた。竜頼はそれに笑みを浮かべ答える。
「大丈夫さ」
竜頼の言葉を聞いた皆は安堵する。波乱?の占いは終了した。
◇ ◇ ◇
かつて、陸奥は蝦夷と言われ蔑まれていた。人ではない、と。そう言われ続けてきた。しかし、それも奈良・平安時代からだんだんと変わってきた。
都に出て正四位上をもらい、近衛中将に任ぜられた、
伊治城にて蝦夷の先頭に立った男、
それを受け継いだ、胆沢の
それらを支えた物部氏。
また、和賀の
それほどの者たちがいた地域だ。竜頼はその話を聞いたとき、是が非でも治めたかった。
そして、今その念願が叶った。竜頼は陸奥を制覇した、とその報告を聞いたときは自然と笑みが浮かんだ。
それほどまでに素晴らしい土地なのだ。上手く統治してみせると竜頼は息巻いた。
◇ ◇ ◇
竜頼たちは伊達氏の本拠地、仙台城に向かっていた。新しい顔が二つある。
老人───
また、竜頼たちは辰治より、陸奥の馬をもらっていた。陸奥の馬は速い。夜を経て仙台城に入城する予定だったが、なんと数刻で仙台城に着いた。
これには皆、驚く。そして、竜頼や英松も仙台城に一日泊まることにした。
竜頼は部屋から出る。英松は今、配下とともに周辺の土地の調査をしている。竜頼は一人だった。
竜頼は浴場へと向かう。今日はかなり、走った。疲れが溜まっている。ゆえに、湯船につかろうとしていた。
「ここか」
竜頼は服を脱ぎ、タオルを持つ。体を洗って、湯船に浸かった。竜頼は今後について、考えていた。
北条を堕とすと決めた。しかし、占いでは上杉と戦っていた。それは、上杉と戦わなければならないのか、北条と戦ったあと上杉と戦うのか。
「分からない、がやるだけだ」
竜頼は一人、そう覚悟した。
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