北条編①
第11話 油断大敵
「な、なぜ、こんなことになった!」
北条氏照は焦っていた。ここが攻められると思ってもいなかったのだろう。そこで脱走を図ろうと成田八郎を探すが見当たらない。
舌打ちし、今度は配下たちに命ずる。
「ほら、戦え!俺様が逃げる時間を稼ぐんだよ!」
氏照の指示に配下たちは嫌々ながらも従った。ここで氏照に下剋上を仕掛けようとするやつもいたが隊長に止められる。
「我らは北条に使えるもの。たとえあのお方があんな方だろうと殺せば足軽たちは混乱する。敵軍に命を売るほど我らは落ちぶれてなどいない!そうだろう、同士よ」
その言葉を聞き、冷静になった。しかし、たとえ兵の状態が回復しようと竜頼たちは止まらない。日は落ちているのにもかかわらず、猛勢を仕掛けてくる。
氏照の怒りは頂点に達していた。しかし、戦う力は持っていない。そんなとき兄がいれば、とそう嘆く。
竜頼は矢に火を付ける。暗闇に一つの灯火が現る。そして、一つ、また一つと増えていく。合計数千もの火矢が湲城に放たれた。
城内は炎上し、民たちに動揺が広がる。しかし、民たちはこの戦の前に東地区に避難させてあり、被害はないだろう。
竜頼は期を見て、破城槌を取り出した。数十人が一斉に走り出す。
ドォーンと鈍い金属音が鳴り響く。それを数回行い、城門は崩壊した。
「千騎突入。中の敵を討て」
雷覇率いる第一部隊が突入する。すると、中から数百人ほどの北条軍が襲ってきた。
しかし、騎馬相手には全くと行っていいほど歯が立たない。北条軍は蹴散らされ、散っていく。
「第二部隊、突入」
竜頼の無情の攻撃が湲城───北条軍に牙を剥く。だがしかし、北条の名は伊達ではない。
先程の隊長率いる精鋭部隊が第一部隊雷覇、第二部隊盾家を襲う。
騎馬対騎馬。この場合は膂力と経験の差が勝敗を分ける。北条精鋭部隊は強かった。そのどちらも北条に軍配が上がっている。
だがしかし!竜頼はそんなこと百も承知で送り出している。雷覇と盾家は奥の手を出した。
「銃撃用意ぃ!」
後方にいる者たちは火縄銃を取り出し、前に突っ込んだ。前方にいる者たちは後ろに下がりながら応戦する。
「テーッ!」
パンパンパン、と幾重の轟音が闇夜に鳴り響く。最前線で戦っていた北条軍の者たちは倒れる。
隊長は驚いた。馬の上から銃撃など思いもよらないことをこいつ等はやったのだ。
さらに、それで終わりではない。火縄銃を撃った後方の者たちは刀を抜き前線に出る。そして、前線にいた者たちは後ろに下がり、火縄銃を取り出した。
それを見た隊長は焦る。次が来れば兵士たちの士気は持たないと。しかもまだ、敵は全員ではない。つまりこれを倒してもまだ、いるということだ。
隊長は判断できかねていた。そこに隊長の親友が来た。
「我らは誉れ高き北条の家臣。敵に屈することはない」
隊長は笑った。そして、覚悟を決める。
「全軍………突撃!」
その号令とともに北条精鋭部隊は馬に進める。狙うは、
「狙うは敵の首魁、長原竜頼!」
将虎はその気迫に悪寒が走った。そして素早く配下たちに命令する。
「やつらを止めろ!勢いをつけさせるな、ここまで来るぞ!」
止まらない。死をも厭わない北条兵はただただ目の前の敵を斬り伏せていく。そして、竜頼軍の中腹まで来た。
あと少しで竜頼の下にたどり着く。晴仁と将虎は刀を抜き、覚悟を決めた。
しかし、それより早く竜頼は馬を前に出した。
「見事な覚悟だ。存分に挑むが良い!」
竜頼は刀を引き抜き、火縄銃を取り出す。本気の構えだ。
「覚悟!」
隊長は上段から刀を振り下ろす。それを竜頼は刀で受け止めた。そして、力任せにそれを押し返し、今度は竜頼が斬りかかる。
それを隊長は受け止める───ことはできず態勢を崩した。その隙をつき竜頼は火縄銃の引鉄を引いた。
隊長は力尽きたように落馬する。
「天晴だな、北条兵」
竜頼は笑った。
「だが、貴様らの隊長は討ち取った。そして、そろそろ俺の配下が貴様らの主をも討つだろう。降伏せよ、命は保証してやるぞ」
竜頼はそれとも、と続ける。
「それとも、まだやるか?それなら付き合ってやるぞ」
挑発するように竜頼はぐるりと見回す。しかし、北条兵は悔しそうな顔をしながらも、武器を捨てた。
一通り拘束が終わり、将虎と晴仁が竜頼の下に来る。その顔には呆れの表情があった。
「若、もう怒ることはしません。しかし、あれは………」
晴仁は頭を抱えながら近づいて来た。一方で将虎はジト目で竜頼を見ている。
「俺がやりたかったんだがな」
拗ねていた。竜頼は笑う。そして、城を見た。
「そろそろ、か」
そう言い、配下たちを連れ、湲城に入城していく。
◇ ◇ ◇
竜頼がまだ、攻城戦をしていた時、英松は数人の配下を連れ湲城へ侵入していた。地下からの侵入だ。先頭を行くのは湲城城主の成田八郎だ。戦が始まる前に城から抜け出し、英松たちを城を入れる手引きをしていたのだ。
そして、城内の北条兵たちは城壁に登り竜頼たちへ応戦している。ゆえに城内には兵があまりいなかった。その隙をつき英松たちは氏照の下へ向かう。
「城主殿、後どれくらいで?」
英松は八郎に問う。それに八郎は答えた。
「あれです。あそこに北条氏照がいます」
八郎は前の部屋を指差す。その中からは氏照の声がしていた。英松は配下たちを一度止め、刀を抜く。そして、音を立てずに部屋の前まで来た。
「行くぞ」
静かな声で英松は言い、障子を突き破った。それに気づいた氏照は驚き腰を抜かす。
「な、貴様!」
氏照は八郎に気づく。しかし、腰が抜けて動けない。そんな氏照に英松たちは近づいた。
「や、やめろ!来るな!俺様が誰がわかっ───ひっ!」
英松が刀の切っ先を氏照の首にやると、氏照は後ろに手をつく。
「城主殿、どうしますか?」
英松はそう問うた。聞かれた八郎は少し考え、言った。
「英松殿に任せます」
「そうですか。では死んでいただきましょう」
「やっ、やめろ!」
ボトリ、と首が落ちた。英松は刀の血を取る。そして、部屋を出た。
英松は入城して来た竜頼と合流した。
「
「あぁ」
竜頼はそうか、と言いご苦労と労う。そして、この城の城主と会った。
「この度は感謝いたします。私は湲城城主の成田八郎と申すものでごさいます」
「こっちこそ、こちらに組みしてくれて感謝している。頭を上げてくれ」
竜頼は優しくそう言った。八郎はその気遣いに心の中で深く感謝していた。そして、竜頼は北条軍並びに南常陸軍についての情報を聞き出そうとした時、伝令兵より報告があった。
「佐竹義重殿が布陣いたしました。そろそろ開戦するかと思います」
「そうか、ご苦労」
そう言い伝令兵を下げさせる。その後、八郎より情報を聞き出した。
◇ ◇ ◇
義重は下野国に入り、武茂兼綱のいる
二日後、宇陽手前に布陣する。そして、開戦のときを待った。
そして、ついに湲城落城の知らせが届いた。期は熟したとでも言うかのように義重は恭しく言った。
「さぁ、始めるぞぉ。これで下野も終わりじゃろうて」
第一峰、大関高増率いる宇留野軍が突撃する。武茂兼綱はそれに対応する。
しかし、高増たちは止まらない。ぐんぐんと奥深くに入り込んでいく。
「どうした、そんなものか!」
高増は声を上げ、相手を挑発する。それに乗ってきた敵兵を斬り伏せその場を蹂躙した。
「その場で応戦。少し入りすぎた」
そう言い、柵を立て火縄銃での応戦に切り替えた。敵の騎馬隊はどんどん数を減らしていく。
下野侵攻が佐竹義重の下始まった。
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