第10話 一触即発
織田信長。尾張に生まれし魔王である。1534年に誕生し『尾張の大うつけ者』と馬鹿にされた。
信長は桶狭間の戦いにて
その後、美濃攻略、姉川の戦い、石山戦争、比叡山延暦寺焼き討ち、
また、配下に柴田勝家や佐久間信盛、丹羽長秀、
現在、最も天下人に近い男、それが織田信長なのだ。そんな信長が今、常陸国を目指し、行軍している。
長原城は騒然としていた。信長が侵攻に向けて対策を練っている。しかし、そこに竜頼の姿はない。幹部筆頭の佐竹義重は配下の真壁氏幹と佐竹義斯、佐竹義久に命じ、防衛線を敷く。
「竜頼殿はどこにおられる?」
配下に問うも誰も知らなかった。義重は焦り竜頼がいつもいる天守閣へ向かった。
無礼を承知で障子を開く。すると、そこには竜頼と英松がいた。
「はー、はー、若!何をなさっているのです。あの信長がくるのですよ!」
義重は息を切らしながら、竜頼に言う。しかし、竜頼は動かない。
「知っている」
端的にそう言った。義重はその態度に少し腹を立てる。しかし、言い返すことはできない。
「義重、お前は織田信長という男をどう見る?」
竜頼の問いに義重は答える。
「とにかく強く、新たなものを好み、奇天烈で柔軟な発想の持ち主。そして臣下にも自分にも厳しい、魔王のような存在………かと」
竜頼は笑う。
「そうだな。お前の言ったことは大体あっている」
義重は首を傾げる。何を言われているか分からなかった。そんな義重に竜頼は新たな質問をした。
「お前なら織田信長に仕えるか、家臣にするか。どうする」
義重は考え、答えを出した。
「どちらも取らない………でしょか」
竜頼は義重を見つめた。義重に緊張が走る。
「まぁ、そうだろうな」
「若なら違うと?」
義重は問うた。竜頼は一度目を閉じ、手を握った。
「俺なら家臣にする。俺は織田信長という存在を強く推している」
義重にその意味はわからなかった。しかし、目の前の男がとんでもないことを言っていることは分かった。が、義重は反応に困った。
すると竜頼は立ち上がる。
「義重、信長を招く準備をしろ。宴だ」
竜頼はそう言い残し、天守閣を出ていった。英松もそれに続いていく。
◇ ◇ ◇
1576年、織田信長常陸国到着。
竜頼の配下たちは声も出ない。信長は圧倒的なまでの覇気を放っていた。地面が裂け、天が割れるよえな、それほどまでの存在感を発揮している。
長原城は開門する。すると中から竜頼たちが出て来た。その口元には薄っすらと笑みを浮かべていた。そのまま、竜頼たちは信長の下まで歩いていく。
信長配下は無礼な、とそう思う。しかし、信長は笑った。そして、馬から降りて竜頼に向かって歩いていく。
「お初にお目にかかる、上総守殿」
竜頼は頭を下げる。
「そなたが、長原竜頼であるか」
信長は問うた。竜頼は頭を上げ、答える。
「某が長原竜頼でございます」
竜頼は丁寧に言った。
「こんなところでの立ち話もなんだ、中へ入ろうぞ」
「承知しました」
竜頼はそう言い、信長のあとに続く。すると、信長の配下たちも下馬し、城の中に入って行った。
城では宴会が始まる。そんな中、信長と竜頼は天守閣にて対面していた。二人以外には誰もいない。
「はっはっはっ、そうかしこまるでない。普段通りで良いぞ」
その言葉を聞き、竜頼は笑った。
「そいつはありがたい」
さっそく、信長は竜頼に問うた。
「そなたがここ常陸国にて活躍していることはこの儂の耳にも入っておる。そこでだ、儂と同盟を組まないか」
信長の急な申し出、しかし竜頼はそれを読んでいた。ゆえに、答えはもう決まっている。
「条件次第では今すぐに結びたいものですね。しかし、家臣ではなく、あくまで同等の立場………ですか」
竜頼は探るようにそう言った。しかし信長は腹のさぐりあいなどしなかった。
「そなたはその若さでそれほどの力がある。素直に言えば家臣に欲しいがのぅ。放っておくのもまた一興」
竜頼は確信した。目の前の男の最強たる所以を。ゆえに竜頼は言った。
「下野、上野、武蔵、相模。北条は俺が潰します」
信長は豪快に笑った。そして大きくうなずく。満足した答えが得られたような、そんな顔をしていた。
そこから数時間、色々なことについて話し合った。時代の流れや戦、領土、経済などについて嫌と言うほど話し合っただろう。
しかし、二人はまだ満足していなかった。
「すまんのぅ、儂の馬鹿どもがしくじりおったわい。それで上杉まで出てきた。これは防がなければなかろうて」
信長はそう言い、一度安土へ帰っていった。
◇ ◇ ◇
信長到来より数ヶ月が経つ。竜頼は次の戦の準備をしていた。
「我らが次に攻めるのは、下野国。討つべき将は武茂兼綱。兵は二万で攻める。残りはここで待機しろ」
竜頼の配下たちは真剣な面持ちとなった。そろそろ、下野攻略の将校が発表されるからだ。
「次の戦は義重。お前が大将となり綱家と重道、この二人を率いて、必ず勝て」
竜頼の言葉に皆は唖然とする。理由は一つ、竜頼がこの戦に出向かないからだ。
それに気づかない竜頼はそのまま話を進める。
「作戦は義重に任せる。だが、上田城には手を出すなよ。真田昌幸とは和平を結んでいる」
一通り説明が終わり。義重は質問した。
「若は行かれないので?」
その問いに竜頼は顎に手を当て考えた。
「俺も出向こうと思っていたんだが、気がかりなことができた」
そっちを調べる、とそう言った。義重はそれ以上深く追求せず、手を胸の前で揃えて言った。
「この義重、必ず下野を堕として見せまする」
「頼んだぞ」
義重らは出陣した。竜頼は英松と将虎、晴仁を呼ぶ。そして、今からすべきことを伝えた。
「
「本気か?今はそっちに手を出す気はなかったんじゃないか」
「状況が変わったんだよ」
竜頼はそれだけ言い、部屋を出ていった。英松たちも部屋から退出し、戦の準備を始める。
そして、義重たちが出陣した2日後、竜頼たちも湲城へと向かった。
◇ ◇ ◇
湲城城主、
「ほら、この俺様が来てやったんだ。感謝しろよ」
傲岸不遜なその態度に八郎は憤るも表には出さない。氏照は腐ってもこの時代に名を馳せた
5年前に亡くなっているが北条氏の当主は息子の
◆ ◆ ◆
『ちょっと待った〜』
誰だね君は?
『私は北条氏親。君の説明には一部違う点がある』
何?そんなはずは………。
『ふふふ、君もまだまだだね。違う点は北条氏というところだ』
ん?どういうことだ?
『実際は北条氏ではなく後北条氏だ。北条氏は鎌倉時代、執権として大きく活躍した者たちだ。例を上げると北条時宗は北条氏だ。しかし、我々、氏康や私、氏親、氏照といった戦国時代の北条は鎌倉時代の北条とは違うため、区別するために【後】が付くようになったんだ』
へー。
『っておい。聞いていたのか。ったくよー。それじゃあ私はここで御暇させておらう。さらばだ』
◆ ◆ ◆
八郎は氏照には逆らえなかった。だから、助けを求めたのだった。そう、竜頼に。
氏照にバレずに配下を送り、助けを求めていた。しかし、竜頼はそれを疑い。一度は無視した。
それでも八郎は配下を送ってきた。ゆえに、竜頼は雷覇と盾家を調査に向かわせたところ湲城付近にはどの軍もいないとの報告があり、出陣を決意した。
それに、氏照は戦は上手ではない。それを知っていた竜頼は罠ではない可能性が高いと踏み、ここまで来る。
武茂兼綱vs佐竹義重、北条氏照vs長原竜頼。決戦が始まる。
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