南常陸侵攻編
第8話 一知半解
佐竹軍は優勢だ。真壁氏幹は智に優れた武将だ。手数の多い戦略により大掾軍を圧倒している。大掾軍はいきなり来た佐竹軍に対応できず、前線が崩壊していた。
「殿、どこの部隊もやられ前線が崩壊しています。なにかご指示を」
そう言われ、大掾貞国は迷う。援軍を待つべくここで耐えるか、徹底するか。
考えていると側近の一人が発言した。
「一度撤退すべきかと」
「理由を聞こう」
他の配下たちは渋い顔をしていたため建前上、そう聞いた。
「援軍が来るかもわかりません。さらに我らは他の軍より出過ぎています。少し下げたほうが」
貞国はその意見に賛成する。
「よし、では一度下げよう。転進、転進だ」
貞国は転進を言い渡し、撤退の銅鑼を鳴らした。遊撃隊を呼び戻し、貞国たちは先に転進を始めていた。しかし、それが仇となる。
「左方敵確認!来ます!」
二千の兵が向かってくる。大関高増だ。貞国は慌てた。戻した遊撃隊の数は千五百人。数はで下回っているし、軍の錬度もあちらが数段上だ。
「逃げよ!とにかくやつらから逃げるのだ」
そう命令を下すも高増たちは速い。陸奥の馬だ。よって貞国たちは高増からの急襲にあった。
なんとかして配下たちは貞国を逃がそうとする。命を投げ捨てる者や相打ちを狙う者たちが突っ込んでくる。
言わば決死隊だ。さすがの高増とて怯み攻撃の手が弱くなる。それに貞国は安堵した。そして、一部の配下を連れ草原を駆ける。
「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろう」
その時だった。
「あの軍の大将だな、貴様」
声がした。振り向くと数騎こちらへ向かってくる。
「と、止めよ。お前たち」
貞国は配下を盾に後ろに下がった。
「部下に死を強制させるなど、愚かな」
向かってくる男───
「幕だ、大掾」
義久は刀を一閃、貞国の首は落ちる。生き残った貞国の配下たちは逃げていった。
「追いますか?」
「よい、戻るぞ」
◇ ◇ ◇
義重は報告を聞き、感心する。予定より早く大掾の首はを
義重は竜頼に伝令を飛ばした。竜頼は伝令から報告を聞き、笑った。
「ふっ、相変わらず凄まじいな」
「そうだな」
英松が来る。竜頼は次の作戦を考えた。
「英松」
竜頼は英松を呼ぶ。
「次の作戦が決まったのか」
「笠間と江戸を呼んでくれ。面倒事は終いだ」
そう言い竜頼は立ち上がる。配下はある銅鑼の前に立った。
「全軍前進!府中城を堕とす!」
ドォーンと前進を合図する銅鑼が鳴った。
それを聞いた配下たちは驚く。
「ふっ、はっはっはっ。あのお方も大胆なことだ!よしお前ら陣を仕舞え、前進だ!」
義重は笑いながらそう言う。
「一戦してまた一戦。それもまた良いかな」
高増は肩を鳴らす。
「恐ろしいお方よのぅ」
身震いしながら江戸重道は言う。
「けけけけっ、ようやく吾輩の出番が来たでぇ」
笠間氏、
皆、違った反応をして軍をまとめ、前進の準備を始めた。
◇ ◇ ◇
「報告、大掾貞国殿討ち死に。敵軍は府中城に向かっています」
結城家当主の
一人先走り、あまつさえ死んだ。そんな間抜けであったかと思う。
しかし、そこで疑問に思ったことがある。貞国はあれでも大掾家の当主だ。そんな男が早々と討ち取られるなどあるものなのかと。
「長原竜頼………と言ったか、まずいな」
油断すれば喰われるのは我々だとそう確信した。そして、配下に命じた。
「おい、───」
「しょ、承知しました」
◇ ◇ ◇
長原軍は現在行軍中だ。辺りは草原に包まれ、心地よい風が吹いている。そんな中、英松は思考を巡らせる。
ここまでの侵攻は順調だった。いやあまりにも出来すぎている。そう思えて仕方なかった。たしかに貞国を討てたのは自分らの紛れもない実力だ。
しかし、何か不気味だ。そう感じた。
「静か過ぎる。嵐は近くまで来ているのか」
考え込んでいる英松を竜頼は見かける。
「どうした、英松」
竜頼にそう問われ英松は現実に戻ってきた。
「いや、」
歯切れが悪い英松に竜頼は疑問に思う。
「どうした、なにかあったか?」
英松はこのことを話すか話すまいか悩んだ。
「なにか言いたいことがあるなら言ってくれ」
その言葉に英松は覚悟を決める。
「そうか、分かったよ」
そう言い、英松は話し始める。その内容を聞いた竜頼は唸る。
「確証はない」
「あぁ、俺の勘違いかもな」
英松の言葉を竜頼は否定する。
「だが、お前がそう感じたのなら、無視はできないだろう」
竜頼は笑い、前方を見る。
「存外、近いのかもな」
そう言い、火縄銃を取り出した。英松は何事かと思い、竜頼に問おうとしたその時、
「て、敵襲!」
竜頼は火縄銃を真上に撃った。そして、大声を出す。
「全軍、散開!」
竜頼麾下の配下はすぐに散らばる。その他、軍の精鋭たちはその命令の意味を理解し、行動したが下級兵たちは戸惑う。
「将虎を呼べ」
数分して将虎が竜頼の下へ来た。
「どうしたんだ、この非常事態に」
「
右前方に走るぞ、とそう言われる。将虎は問い返すことはせず、すぐに行動に移った。
準備が整う。竜頼の隣には英松がいた。その後ろには将虎と雷覇、盾家がいた。雷覇と盾家は竜頼が見つけた優秀な配下だ。
「竜頼様、これからのどうするのですか」
雷覇は竜頼に問う。
「これから、千騎で敵兵を叩く。この戦の踏ん張り時だ。気合入れろよ」
竜頼はそう言い、馬を走らせる。そのまま馬脚を上げ草原を駆けた。それに英松が続く。
皆は誰を叩くのか分かっていない。しかし、ここにいるのは竜頼が育てた精鋭中の精鋭だ。皆、竜頼を信じて進んでいく。
竜頼は目を光らせる。そして、笑った。火縄銃を構える。
「銃撃戦が臨みか」
パァーーンと轟音が鳴り響く。竜頼の撃った弾丸は敵の胸を穿った。しかし、竜頼も左に負傷を負った。
「
命令に従い、竜頼の配下たちは旋回していく。すると草むらに隠れた敵兵を見つけた。
そいつらは旗を持っている。伝令兵なのだろう。竜頼たちを狩り場に誘うべく逐一、主に報告していたのだ。
「なるほど、そうゆうことでしたか」
伝令兵を殺せば相手は竜頼たちの居場所を正確に知ることはできない。つまり奇襲が失敗する。
そして、こいつらの捕らえることで逆に奇襲を仕掛けることができる。要は現代で言う逆ドッキリ的なものだ。
竜頼は負傷しながらも逃げていく方角を確認する。そして誰もが予想しない行動に出た。
「盾家、百騎連れて付いてこい」
そう言い戦場を抜け出す。伝令兵ははっとした。その方向にはあるものがある。
しかし、竜頼は速い。ぐんぐん加速する。
「竜頼様、これは?」
盾家は問うた。それも当然、何が起こっているか側近の英松たちですらわかっていないのだ。
「敵将の首を取る」
走っていくとポツンと一つの天幕を見つけた。その前には二人の兵士がいた。
「まさか………」
盾家はそんなまさか、とそう思う。
「っ!てきしゅ───」
見張りの兵士は瞬殺され天幕は裂かれた。竜頼たちは馬の上から敵将を見下ろす。
「っ!な、馬鹿な!」
敵将───結城晴朝は絶句していた。竜頼は盾家に命じ、晴朝以外を殺す。ドサッ、と首が落ちる。
「お前は何者だ」
「ゆ、結城、晴朝でございます」
晴朝は平伏していた。勝てないと悟ったのだろう。そして、ある行動に移る。
「わ、わしは、情報を持っています。何卒、何卒助けてくれんでしょうか」
見事なまでの命乞いだ。しかし、それを見た竜頼は笑う。
「……良かろう。情報を寄越すなら、命だけは保証してやる」
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