第6話 磑風舂雨
「報告、城門が開いたようです」
報告を聞いた東広信は目を見張る。そして、すぐに出発の準備を整えた。
「よし、お前ら。これから広綱様の戦場へ向かい、敵将を討つ!」
急な命令に疑問を抱きつつも配下たちは従った。野営の基地を捨て、城門へと向かう。
先行部隊は砂埃を見た。そして気づく。何かが近づいてきている、と。
「広信様、何かが近づいてきている模様です」
「なに?」
問い返そうとしたとき、馬の足音が聞こえた。一騎、また一騎と人影が見えてきた。
「な、馬鹿な」
唖然とした表情で、見つめる。その先には竜頼たちがいた。
「今のうちに、決着をつける。三十騎先行、それに続き、波状攻撃を加える」
「「はっ」」
素早い命令とともに竜頼の配下は馬脚を上げる。そして、正面とぶつかった。そのままの勢いで中に入り込み広信のいる後方を目指す。
「百騎続け!」
将虎が率いる、重装騎兵百騎が敵兵を貫き、陣形を崩した。広信は唖然とした表情のまま動けず側近たちが指揮をしている。
「右に旋回!あそこの部隊を討つ!」
将虎は戦場を俯瞰し、1番強そうな部隊の下へ進路を変更した。狙いを定め、ぶつかった。
「返り討ちにしてやる!」
広信軍の中でも最も強い、この隊は佐竹軍の中でも精強だ。
しかし、それでも将虎は止まらない。上杉分家の三男でありながらその武は強烈である。三男であったため出世はしなかったが、上杉五本指にも劣らないだろう。
「ぬん!」
三人の兵士が飛ぶ。将虎の持つ刀にて圧倒されている。
「な、なんだ………あの化け物は」
将虎に対し、下級兵たちは恐怖する。そこで、立ち上がったのは猛虎の異名で知られる、
佐竹に下り、半ば人質として生活していた内に佐竹義重に気に入られ側近となった男だ。
今回はお目付け役としてこの地に来ていた。
「恐れることはない」
そう言い、斯忠は自らの配下とともに将虎の配下複数を槍にて貫いた。
それを見た下級兵たちの士気は少し上がり、目に日が灯る。
「いくぞぉー!」
斯忠は笑い将虎たちと対峙する。しかし、
「恐れるべきだったな。猛虎、車斯忠」
竜頼は英松と複数の配下を率い、斯忠に向かい突進する。それと同時に将虎は広信に向かって走った。さらに馬脚を上げ、斯忠に突っ込む。
「英松、頼むぞ」
「あぁ」
竜頼は刀を力強く握る。数メートルで刀の間合いに入ると思われた、その時、パァーンと耳を荒む音が響く。斯忠の配下たちは地に伏した。
「くっ!」
声の出ない怒りが斯忠を襲った。そして、怒りのままに竜頼に突進する。
「ふっ、馬鹿が」
竜頼は少し左にづれながら刀を一閃させた。それを斯忠は受け止めたが、押され受け流すしかなくなる。それを見越してか、竜頼は左手に持っていた火縄銃の引鉄を引いた。
「このまま、敵将を討つぞ」
時間にして、数分。広信の体感時間にして数十分。広信は焦っていた。斯忠の死や自らの軍隊の数が減っていくことに。
「こ、こんなことやってられ───」
「広信様ぁー!」
ぼとり、と首が落ちた。公頼配下の一人が広信を討ち取った。
◇ ◇ ◇
戦場の後処理が終わり、一息つく。竜頼は茶を飲んだ。そして、ため息をつく。
「英松、将虎を呼べ」
「了解」
天幕の中で、竜頼は英松と将虎を呼んだ。竜頼は浮かない顔をしている。
「どうしたんだ、竜頼」
英松が問うと竜頼は口を開いた。
「宗親が死んだ」
その答えに二人は驚く。しかし、すぐ冷静になった。戦場で人が死ぬことは普通だ。
「なんだ、気にしているのか。自分の作戦で死んだことを」
「いいや。ただ、宗親を殺せるほどの男がまだいたのかと思うと油断はできない」
その返しに英松と将虎は理解する。竜頼は悔しさ半分、冷静さ半分の状態だと。
「ここで、佐竹軍を我々は討たなければならない。しかし、今この軍を動かすことはできない」
それを聞き二人は覚悟する。
「我々で、やるしかない。俺の配下百人と将虎の配下百人。計二百で敵軍を討つ」
「「承知」」
◇ ◇ ◇
午後三時過ぎ、平原には八百の佐竹軍と二百の竜頼軍がいた。両者にらみ合いながらも手を出すことはない。
「潮時か。よし、波状攻撃で押す。第一陣用意!」
竜頼軍が飛び出す。まず最初に出るのは上杉将虎だ。重装騎兵三十騎を連れ突撃する。
「前進しろ」
竜頼たちも前に詰め、敵軍を威圧する。そして、将虎は敵と衝突する。勢いに乗り将虎は佐竹軍をなぎ倒していった。
しかし、清重も対策を打ってくる。巨兵隊にて、応戦した。その体躯は二メートルほどある。
「左中央へ弓を放て」
竜頼の指揮が光る。的確な指示に清重は苦戦する。
「ちっ」
その苛立ちが一瞬の隙をつくる。その隙を竜頼は見逃さなかった。
「鶴翼、展開!」
その号令とともに、竜頼の配下たちは陣形を作りながら佐竹軍に突撃する。
「うおぉぉぉぉ!」
「止めろぉぉぉぉ」
ドォン、とけたたましい音を上げ騎馬がぶつかった。大柄な兵士を先頭に竜頼たちは錐形を保ったまま清重の下まで走る。
『鶴翼、ならば後退し距離を取れば良い。そして、そっから潰す。ふっふっふっ、こちらの方が数は多いのだからな』
清重は考える。そして、配下たちに命令した。
「後退だ、一度後退せよ」
佐竹軍は乱戦を解き下がっていく。しかし、奥深くまで入っていた竜頼たちは止まらない。
「止まれぇぇ!」
竜頼の右前方から攻撃が飛んでくる。
「弱い」
刀にてその攻撃をはじき配下が斬り伏せた。完璧なコンビネーションで進んでいく。
清重は全軍の後退を諦め、近場にいた二百と五十人を連れ、全速力で後退していった。
「残った兵を狩る。包囲し一人残らず叩け」
数分して竜頼たちは残兵を全滅させた。清重に追撃するかと思われたが、
「よし、戻るぞ」
呆気なく撤退していった。かなりの連戦で兵士たちは疲れていた。それを見兼ね撤退を指示したのだ。
「ふざけおって!」
その行動に清重は憤慨する。しかし、追うことはせずその場をあとにした。
「いいのか、あいつら厄介だぞ」
燃えている佐久早城へと向かいながら将虎は竜頼に問うた。
「疲弊している状態で追っても返り討ちに遭う。一度下がって体制を整える」
そうか、と言って将虎は離れていく。竜頼は自分の頬を触った。刀傷がついている。
「若、報告が」
一人の配下が竜頼の下にやってきた。報告を聞き竜頼は安堵した。
「そうか、それは良かった」
◇ ◇ ◇
「竜頼!無事であったか」
「えぇ、父上」
野営地に帰ってそうそうに公頼が出迎えてきた。
「正道が戻ったそうですね、大丈夫ですか?」
先程、正道が帰還したと報告を受けていたのでまずはその話を振った。
「大丈夫だ、命の危険はない。そういうお前も連戦続きで疲れてるんじゃないのか、中で話そうか」
そう言い天幕を指差す。竜頼はそれに了承し天幕の中に入った。
「しかし、宗親が死んだ………か。まだ信じられんな。あやつはなかなかの剛将、武には他の追随を許さぬほどの男だぞ」
常陸国の北では蓮田宗親の名は有名であった。
「宗親を討った将と戦いましたが、そうでもありませんよ。次は必ず討ち取ります」
その心意気はよし、と公頼は頷いている。その後は事務的な報告をし、解散となった。
「最後に一つ、いいか?」
公頼は天幕を出ようとした竜頼に声をかけた。
「えぇ、もちろん」
竜頼は座り直し、公頼を見る。その目はいつもより深みがあった。
「ここに向かってくる軍がいる」
間を空けて、竜頼は問うた。
「それは?」
「伊達氏当主───伊達輝宗」
◇ ◇ ◇
「そろそろか、のぉ、お前ら」
「はっ、あと数刻ほどで」
独眼竜の父、常陸に参る。
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