第5話 気炎万丈

 広綱は戦況を見極める。怠惰だが戦上手だ。


「畳み掛けろ」


 配下たちは、破城槌を取り出す。それを見た公頼は城壁から火矢を放つ。破城槌に火矢が刺さる。木造でできている破城槌は燃え盛る。しかし、それでも止まらない。


「突撃せよ!」


 広綱の号令とともに城門へ突撃する。

 公頼は笑った。


「あれを落とせぃ」


 指示を受けた数十人の配下は動き出す。破城槌は城門に到達し門を破壊しようとした。その時、


「お、おい。上!」


 ドゴォォォ!大きな音が戦場に響く。巨大な岩を破城槌に向けて落としたのだ。破城槌やその周辺にいた兵士たちは潰される。


「はっはっは、良くやった!お前ら」


 ……。


「……」


 戦場は静寂に包まれた。


「岩を落とした……だと。一度、退げろ。立て直す」


 北佐竹軍へ一度、攻城を止め城から距離を取る。広綱はどう攻めるかを考える。並大抵のことでは勝てない。それを知った広綱は正面からの力技に出る。


「火矢を放て!奴らを火祭りにあげてやれ!」


 兵士たちは矢に火をつけ城に向かって打つ。無数の火矢が城に刺さった。

 東佐竹軍、西佐竹軍も同様に火矢を打った。まさに集中砲火である。


「公頼様、どうしますか」


 火矢を放たれながらも落ち着いた声で公頼の側近は問う。


「問題あるまい、あいつがうまくやる」


 公頼はにやりと笑った。


「出陣の準備だ!」


 兵士たちの士気が上がる。


「はっ」


 数分が経ち火が城内にまで押し寄せて来た。そろそろ潮時かと公頼は思い、指示を出す。


「皆のもの我々はこれから、城門を出たら正面の敵と対峙する。だが、すぐには仕掛けるなよ、やつが見えたらだ」


 一呼吸置いて、城門を開けるよう指示を出した。

 ガガガがァァァァと大きな音を開け、門が開いた。


「っ!門が開いた。突撃せよ!」


 開門に気づいた広綱が号令を下す。それを合図に千の兵士が公頼たちを目掛け走り出す。


「血祭りだぁ!」


 隊長格らしき男が公頼めがけ矛を振る。それを公頼は刀にて打ち返した。隊長格の男は目を見張った。その隙を見逃す公頼ではない。


「戦場で隙を見せるなど甘いわぁ!」


 右凪一閃、隊長格の男は絶命する。しかし、佐竹軍は止まらない。公頼たちの下に突進してくる。


「殺せ」


 広綱の号令とともに、複数の兵士が刀を振りかぶる。


「ふっ」


 広綱の後ろに影が浮かんだ。


「死ぬのは貴様だ」


「っ!」


 後ろの軍に気づいた広綱の側近たちは刀を抜き、応戦する。その数、五人。


「将虎、晴仁」


 竜頼の指示に従い、将虎と晴仁が前に出る。スピードに乗り刀を一閃、しかしその一撃は側近たちに止められる。


「この首、そうやすやすとれると思───」


 竜頼は飛ぶ。馬上からの飛翔は広綱には予想の範囲外だったようだ。


「じゃあな」


「舐めるなよぉぉぉぉぉぉ」


 竜頼は広綱の太刀を払い、地面に着地。振り向きざまに手首を切り、刀を落とす。

 そして、心臓一突き。広綱の意識は暗転し、倒れた。


「貴様らの大将は討ち取った。投降するなら命の保証はする」


 敵兵たちは竜頼を睨めつける。


「くっ、仕方あるまい……とでも!」


 一人の男が竜頼に向かって、刀を振るった。それを竜頼は打ち払う。男はよろけながらも、言う。


「貴様らはたった千人ほど我らは、ここに四千いるのだ!踏み潰してくれる!他の連中を呼んで来い」


「そうか、やってみろ」


 刺突二撃、男は死ぬ。勢いに乗った公頼軍は佐竹軍を蹂躙する。しかし、何人かは包囲網から抜け援軍を呼びに行った。


「放っておけ、奴らは西の城壁へ向かった。あそこは正道たちによって指揮系統が崩れている。我らはここでこいつらを蹂躙し、東へ向かう」


「「御意」」


 公頼軍、佐竹軍を蹂躙。抗っていた兵士たちも、段々と表情が暗くなっていく。そして、1人の男が武器を落とした。


「……降参だ……」


 それを期に他の兵士たちも降参していった。


「拘束し、佐久早城へ入れろ」


 竜頼は配下に命令する。しかし配下はすぐには承服しなかった。それもそうだ、なぜなら佐久早城は『絶賛猛火中』であるからだ。


「若、流石にそれは……」


 配下は異を唱える。あまりも酷だと。しかし、竜頼の決定は覆らない。


「俺は広綱を討った後、奴らに降伏を勧めた。だが、それでも奴らは向かってきた。助けが来るかもと在りもしない希望をいだいて」


 竜頼は、ならば───と続ける。


「ならば、奴らは俺の宣告を蹴ったも同然。然るべき処分が必要だ」


「で、ですが、」


 まだ、それでも承服しない配下に竜頼は努めて冷静に言う。


「戦場で甘さを見せれば、そこにつけ入ってくる奴らが出る。だから甘さを捨てなければならない。将として、戦場に出るのならば『義』より『利』を取るべきだ」


 それに、公頼も同意する。


「竜頼の言っていることは正しい」


 公頼の言葉を聞き、配下は膝をつく。


「承知しました」


 ◇ ◇ ◇


 城門が開く音がした。

 宗親は配下たちとともに敵将の近くまで来ていた。一方、正道とその配下たちは副将らしき男の下まで向かっていた。


「そろそろだ、心せよ」


 正道は刀を抜く。そして、馬を走らせた。


「狙うは敵の副将だ」


 数十騎の馬が西佐竹軍の副将へと突っ込んでいった。それに気づいた西佐竹軍は交戦する。

 刀の金属音が響いた。奇襲により数人を倒したものの、副将には届かない。正道は顔をしかめる。


「全騎反転!引き返す」


 素早く判断を下す。それに従い配下たちは馬を反転させ、林へと戻っていった。

 しかし、敵の副将もおめおめと逃がすことはなく配下たちに正道たちを追わせた。


「奴らを逃がすな!必ず捕らえろ」


 自らも正道たちを追う。それが、正道の作戦とも知らずに。


「よし、追ってきたな。全騎散開、的を絞らせるなよ」


 配下たちは四方八方に逃げていく。敵の副将は舌打ちする。それほどの数を連れてくることはできずさすがに全員は捉えられないと悟ったからだ。


「まぁ、よい。数十騎ついてこい。あの将らしき男を追う!」


 敵の副将は正道に狙いをつけ、後を追った。しかし、ここで邪魔が入る。

 散開した一人の兵士が槍を構え特攻して来た。


「はぁぁぁ!」


 高速の突きを連射する。副将の配下たちはその攻撃を体で受け止めた。そして、副将は上段からの唐竹を放つ。


「死ね、小僧!」


 しかし、その攻撃は空を斬った。敵将を殺せないと判断した一人の兵士は馬から転げ降りたのだ。

 それを好機だと思った副将の配下たちは串刺しにしようと、狙い放つ。しかし、正道の配下が兵士を抱えて脱却する。


「ちっ、ちょこまかとぉ!」


 副将たちは正道たちを追うがなかなか追いつかず焦りを見せる。戦場での焦りは命を落とす確率を上げる。


「全騎───」


 正道たちは火縄銃を構えていた。


「───放てぇぇ!」


 パーンと幾重にも重なり荒んだ豪音が鳴り響く。副将は自らに空いた腹を見る。


「がはぁっ」


 その他配下たちにも鮮血が溢れた。正道たちはトドメは刺さず、元の戦場へと戻っていった。


「く、くそがぁ」


 宗親は正道が離れていくのを見て、覚悟を決めた。そして、北の城門へ向かおうとした西佐竹軍の将、水嶋清重みずしまきよしげへの奇襲を仕掛けた。

 清重の側近たちは一瞬にして倒れる。残るは清重ただ1人。


「覚悟!」


 宗親は刀を振るう。清重はそれを受け止めた。


「そなたがな」


 首が落ちた。


 ◇ ◇ ◇


 竜頼は公頼たちとともに、東の城壁へと向かっていた。東の将、東広信あずまひろのぶを討つために、馬を走らせる。


 佐久早城は燃えていた。ただひたすら、朱く朱く輝きながら、燃えていた。

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