第4話 勇往邁進

 1573年3月、佐竹の北部攻略が始まる。北部攻略を任されたのは宇都宮広綱うつのみやひろつな。佐竹家当主の佐竹義重さたけよししげに任ぜられこの地に赴いている。


「退屈だな。とっとと終わらせて帰りたいものだな」


 広綱はゆるい感じでここまで来ていた。上がこうなら下も必然的にだらけてくる。


「とりあえず、三百連れてここらへんの奴らを脅してこい」


「御意」


 副将が三百を連れて奥地へと向かった。


 ◇ ◇ ◇


将虎まさとら、前を頼むぞ」


「応!」


 準備が整った、竜頼軍は突撃態勢に入る。


「深く入りすぎるなよ、切るのは3,4人ほどで良い。そしたら大木の地を目指せ。落馬するなよ」


 全員が頷き、号令を待つ。数分して機が訪れる。


「っし、全軍突撃!」


 その号令とともに将虎が馬を出す。それに続き、百人の軍団が走り出す。

 馬の足音を聞き、広綱の副将も襲撃に気づくが他の者達は気づいていない。


「総員、撤退!撤退だ!」


 そう叫ぶも配下たちは何かわかっていない。襲われるなんて思っていないからだ。自分たちが襲う側だと思っているゆえの固定概念。

 そして、兵の1人が気づく。


「お、おい!あれ。敵が来るぞー!」


 砂煙が見え、ようやく皆が理解する。敵が来たのだと。しかし誰も準備は整っていない。

 そこに将虎が突っ込む。


「はぁぁ!」


 矛で何人かを屠った後、将虎は進路を斜めに変え矛で応戦しながら大木の地を目指す。

 竜頼も刀を振るい、敵を馬上から倒す。

 そして、敵の準備が整ってきたところで、退避の号令をかける。


「もう良い!撤退だ!」


 その声を聞いた竜頼軍は進路を変更し、将虎たちを追いかける。

 それに安堵した敵たちは今度は俺たちがという気持ちで息を巻く。


「上々……だな」


「そうだな」


 竜頼と英松は軽く言葉を交わし、大木の地を目指す。

 一方で、副将はこれが敵の罠だと気づくも兵たちは止まらない。


「止まれ!これは敵の罠だ!行ってはなら───」


 ドゴォンという音がし反対側を見ると敵がいた。竜頼と別れた、増田軍だ。


「百、ここに残す。二百は俺について来い!奴らを追う」


 時上は時を見て判断を下す。


「よし。迂回し館を目指す。気を引き締めろ!」


「「応!」」


 竜頼の指示通り、長原の館を目指す。


「若」


 竜頼は晴仁から声をかけられる。


「なんだ?」


「私はここで殿しんがりをします」


 殿とは軍が退く時、最後尾にあって、追って来る敵を防ぐことのことを言う。

 竜頼は少し考え、苦々しい声で言う。


「……そうか。死ぬなよ」


「承知」


 晴仁は自分の配下を率いて、スピードを落とす。敵はおよそ百五十ほどでその後方からは五十ほどが来ている。


「貴様は何者だ」


 副将は晴仁へと問う。


「私は九条晴仁」


 その時、副将は目を見張る。広綱の副将は鶴殿つるどの家のものだった。九条と鶴殿。つまりはそういうことだ。


「貴様は長原に仕えているものだったな。つまり、長原家は……藤原の生き残りか?」


 晴仁は一度目を閉じ言う。


「そうですよ。長原は藤原の生き残りの一族です」


 藤原とは姓に朝臣を持ち、始祖は天児屋命あめのこやねのみこと、氏祖は中臣鎌足。飛鳥時代から平安まで栄えその後は五摂家へと分かれた。

 しかしまだ、名前に藤原をもつものがいた。それが竜頼の一族である。


「では、行きますよ」


 晴仁は配下に声をかけ、馬脚を上げ竜頼たちを追いながら、敵に向かって鉄砲を放つ。


「全員散れ!ここで奴を討つ!」


 副将はそう叫び、晴仁たちを追う。しかし、そこで横からの襲撃に遭う。

 竜頼たちだ。上に登っていったと思っていた竜頼たちだったが副将の視界から逃れたあと左右に走り、待ち伏せしていたのだ。

 大木の地への誘き寄せをやめた理由はただ1つ、晴仁を死なせないためだ。

 そして、副将は指示を下す。


「我らの方が数は多い。一度平野に戻る!」


 副将が馬を反転させた時、1頭の馬が目の前にいた。


「死ね」


 刀を一閃。竜頼が副将の首を取る。


「……若」


 竜頼は敵、味方、全員に宣言した。


「敵将は俺が討った。投降せよ」


 敵兵は投降の意を示す。竜頼たちは、全員を拘束した後、館を目指し始める。


「若、なぜ私を助けたのですか」


「俺にはお前は必要だったからだ」


 即答すると、晴仁は険しい顔をした。必要だと言われても、自らの主を命の危険にさらしたからだ。戦場で戦い、死んだのならしょうがないが作戦を変更してまで決行したのだ。


「……」


「行くぞ」


「……はい」


 一度野営し、翌朝、行軍を再開し館を目指した。その後数時間ほどして、館にたどり着く。

 最初に出迎えたのは、途中で分かれた時上だ。


「竜頼殿、ご無事で何よりでございます」


「お前もな」


 その後、他の者たちもぞろぞろと出てくる。

 夜は竜頼の初陣、初勝利を祝して祝杯を上げる。竜頼は父、公頼に戦の顛末を話す。


「いや~、それにしても、圧勝とはな」


 酒を飲みながら、公頼は感心する。そういう公頼も初陣では大手柄を上げている。


「父上、飲み過ぎでは」


「良い、息子が大活躍だったのだぞ。飲まなければやってられん」


 そこから、深夜まで飲んだ公頼は酔いつぶれた。


 ◇ ◇ ◇


「申し上げます。鶴殿殿討ち死にしたと」


 佐竹陣営には緊張が走る。鶴殿は佐竹軍の中でも1位2位を争うほどの武将だからだ。たった三百のみだったとはいえ誰も死ぬとは思っていなかった。


「また、敵は長原を筆頭に菅、増田、蓮田がいます」


「数は?」


「合わせ、千人ほどです」


 広綱は皆に向かって言う。


「全軍で潰す、進軍せよ」


「「はっ」」


 佐竹軍は進軍する。目指すは長原の館。


 ◇ ◇ ◇


「次はどう来ると思う」


 公頼は竜頼に問う。


「全軍を向けてくるてましょう。ですが、相手は宇都宮広綱」


 竜頼は不敵に笑う。


「勝てる可能性はあるかと」


 皆も竜頼に釣られ笑う。


「それで、作戦は?」


「佐久早城を使い、迎撃します」


「それだけですか?」


 単純すぎて将虎は思わず声を出す。


「あぁ、それと──」


 神妙な顔をしている。誰かが何かを言う前に間髪入れず竜頼は立ち上がる。


「佐久早城へ向かおう。早く着いたほうが良い」


 数十分して皆の準備が整い、佐久早城へと向かう。


 佐久早城、ここはもともと佐久早君麻呂さくさきみまろにより作られた城だ。しかし、君麻呂の死後、民たちからの評判が落ち下剋上。佐久早配下、民たちは共倒れし廃城となっていた。


 竜頼は出陣の準備が終わり、公頼の下を訪れる。


「では父上、ここはお任せします」


「うむ。任せよ」


 竜頼は胸の前で手を合わせる。


「武運を」


「武運を」


 2日して広綱率いる佐竹軍が佐久早城に攻撃をしかける。佐竹軍は全軍の四千に対して公頼率いる長原連合軍は千人程度。


「だが、耐えるだけなら可能!さぁ、矢を放て城門には近づけるなよ」


 公頼は指示を下す。そして、時より自分も矢を放っている。


「よし、そろそろだな」


 公頼の前にいるのは、菅正道と蓮田宗親むねちかだ。


「頼むぞ」


「「御意」」


 ここ佐久早城には地下通路がある。正道たちはそこを通り、外に出る。出た場所は城から数百メートル離れている林の中だ。


「宗親、行くぞ!」


「応!」


 正道たちは南佐竹軍の背後から突撃する。ちなみに城門は北にあり他3方向からは城壁を登って攻めている。

 それに夢中になっていた、南佐竹軍は急襲に慌てふためいていた。


「ど、どういうことだ」


 南佐竹軍の将は焦る。戦場での動揺は命取り。

 すなわち、


「覚悟!」


 最後列にいた南佐竹軍の将は正道と対峙する。将は襲ってきた影に気づき応戦する。


「なめるなぁぁぁ!」


 刀を鞘から抜き振りかぶる。しかし正道の刀に反応が遅れたため、鮮血が溢れる。

 南佐竹軍の将、討ち死に。


「ここ一帯の敵兵を蹂躙しろ」


 頭を失った手足は、烏合の衆。その号令とともに南佐竹軍は壊滅した。


「とりあえず終わったな」


 正道たちは怪我人を出しながらも、敵兵を全滅させた。そして、次は西佐竹軍の下へ向かう。

 正道たちは味方のフリをし、西佐竹軍に加わる。

 反撃の、その時が来るまで。


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