第2話 武者修行

 数日たち、信綱のぶつなと別れた、竜頼たつよりたちは会津を目指し馬を走らせる。

 道中はまた狩りや試合をしていた。ゆえに、竜頼の刀の腕や動きにはかなりの磨きがかかり、強くなっている。


 ◇ ◇ ◇


 それから数ヶ月して会津に着いた。ここには会津軍略会というものがあり、そこにはたくさんの軍師や軍師を志望する若者たちが集まっている。

 そして今日から竜頼もそこの一員になる予定だ。


「では若、私はこれにて」


「うん」


 ここに通うのは竜頼のみだ。

 竜頼は会津軍略会の正門をくぐり、中へ入る。


「人が多いな」


 約3000人もの人が会津軍略会にいる。会津出身のものだけでなく違う国から来たものもいる。


「止まれ」


 館の入口的なところに着くと、声をかけられる。                槍を持っていた。警備兵のようだ。


「今日から入る。長原竜頼だ」


 そう言い、巻物を見せる。今でいう、入学届的なものだ。それを確認した警備兵は槍を下げ入館を許可する。

 中に入ると、より一層熱気を放っていた。竜頼は案内人に案内された部屋に来た。そこには竜頼と同じ新入生たちがいた。数分待っていると、数人の大人が入ってきた。


「新入生の諸君、よく来た。俺は試験官を務める、塩松与兵衛しおまつよへえだ。よろしく頼む」


「これから、お前たちには試験を受けてもらう。それに受かれば、晴れて今日からここの生徒になる」


 そう言い、試験部屋へと案内される。皆の顔を見るに、試験のことは伏せられていたようだ。相当不安そうな顔をしている。

 試験官に名前を呼ばれ続々と部屋に入っていく。呼ばれなかったのは竜頼を含め、4人だ。


「君たちはこっちに入ってね」


 新しい試験官が来て、違う部屋に入れられる。そこで、まず行われたのが読み書きと算術だ。竜頼にとっては簡単すぎたようだ。

 幼少期より父、公頼から読み書き、算術は叩き込まれていたからだ。

 顔を上げると、もう1人も終わって退屈そうにしていた。残り2人はできないのか、苦戦しているのかわからないが、かなり険しい顔をしている。

 時間になり、紙を回収され採点される。

 読み書き、算術の試験は無事に合格した。また、退屈そうにしていた奴も合格していた。

 その後も試験がいくつかあったが無事全て合格した。

 部屋で待機していると試験官の与兵衛が入ってきた。


「そなたらは全ての試験に合格した。よってここ会津軍略会の一員として認める」


 新入生は竜頼のほかに、英松えいまつの2人だけだった。


「はい、これが鍵だ」


「「鍵?」」


 2人はすぐに理解できずに聞き返す。


「今日からお前たちはこの屋敷で生活してもらう」


「いや、鍵は1つしかないんだが」


 与兵衛は笑みを浮かべる。優秀な2人ならばもう理解しただろう。


「2人は同部屋だ。仲良くするんだぞ」


 与兵衛が部屋を出ていった後、2人ほ見合う。最初に声をかけたのは竜頼だ。


「俺は竜頼、お前は」


「俺は英松」


「そうか、よろしく」


「あぁ、よろしく」


 軽い挨拶を交わすと、英松が竜頼に質問した。


「竜頼、君はなんでここに来たんだ?」


 竜頼はキョトンとした顔で答える。


「軍略を学ぶため、だろ。お前は違うのか?」


 そう聞き返すと、


「俺はなんとなくで来たから」


 淡々と英松は答える。


「そう。まぁ、それもいいんじゃないか」


 そう言うと英松は笑って、そうかもな、と言った。


 ◇ ◇ ◇


 それから月日が経ち、あれから3年後の1570年。竜頼と英松は1流の軍略家にまで上り詰めていた。1流の軍略家は月1である、軍略大会の成績に応じてつけられる階級のことだ。

 竜頼たちは軍略を学んで3ヶ月でこの大会に出場し、それから毎回好成績を修めている。

 そして、昨日は会津軍略会の卒会の日。最後は超1流の軍略家との対決だった。

 結果は惜敗。だが、彼らを最後の最後まで追い詰めた。まさに一進一退の攻防だった。


「ふぅ、負けたか」


「負けたね」


 2人は悔しそうな、嬉しそうな、そんな表情をしていた。負けて悔しいが、強い相手と戦えて嬉しかったのだろう。

 これまではあまり歯ごたえのある戦いではなかった。ゆえに超1流と戦えて満足したのだろう。

 部屋に戻り、座敷に座る。そこで、竜頼が英松に話を切り出す。


「なぁ、英松」


「なんだ」


「お前、俺に仕えないか」


 英松は急にそう言われ戸惑う。冗談言ってんのかと言いたかったが、竜頼の顔は真剣だった。


「理由を聞いてもいいか」


 話を引き延ばすようにそう言う。


「俺は後2年、諸国を周るつもりだ。そして、2年経てば家へ戻る。それから数年したら長原家の当主になる」


 竜頼は淡々と話す。だが、一度ここで言葉を止めた。そして、竜頼は英松の目を見る。


「そして俺は……天下統一を目指す!」


「っ!!」


 英松は竜頼の熱気に押される。すぐに悟ったのだ目の前の自分より年下のこの男が本当に天下統一を目指していることを。


「そのためにお前が必要だ、英松」


「俺なんかで良いのか。もっとすごいやつだっているだろ。別に俺じゃなくてもいいんじゃないか」


 話から逃げるように視線もそらす。しかし、竜頼はそれでも諦めない。


「いいや。俺にはお前が必要だ」


「で、でも、大会だって全部、竜頼のおかげだ。俺はお前の横に立っていただけだ」


 少し声を荒げ、英松は反論する。自分では力不足だとそう言って。


「俺が欲しいのは、お前の戦略じゃない。いや、お前の戦略も欲しいが、第1はそこじゃない」


「じゃあ、何なんだよ。お前の欲しいものは」


 竜頼は息を吸い一呼吸置いて言う。


「俺が本当に欲しいものは、『英松の思考、英松の視点、英松が放つ俺への助言』だ。お前は自分で言った通り、大会での戦略はほぼ俺が決めた。そして、圧勝した試合が数回あった。それは全部お前の助言があったからだ。お前のおかげで圧勝できた」


「俺のおかげ……」


 英松の呟きに竜頼は大きく頷く。


「そうだ。お前のおかげだ。だから俺はお前が欲しい。お前と一緒なら天下を統一できる」


 涙を流しながら、英松は竜頼に問う。


「ほ、本当に天下を統一できるのか」


 聞かれた問いに笑みを浮かべ、竜頼は言った。


「無論だ!」


 それを聞いた英松は覚悟を決める。


「この英松、竜頼様に仕えたく存じます」


 ひざまずきそう言う。


「あぁ、よろしく頼む。あと、口調とかはそのままでいい」


「わかった」


 ここに、最強コンビが誕生する。


 ◇ ◇ ◇


「久しぶり、晴仁はるひと


 約4年ぶりの再会だ。大きくなった竜頼より晴仁は感激する。


「お久しぶりでございます、若。して、隣のお方は?」


 晴仁は英松に気づき、竜頼に問う。


「英松だ。俺直属の配下だ」


「そうですか。私は九条晴仁、若の顧問をしております。幾久しくよろしくお願いします」


「えぇ、よろしくお願いします」


 2人とも頭を下げ、挨拶を交わす。

 英松が修行の旅に加わる。次に目指すのは越後国、上杉謙信の下へ向かう。

 現在、日本の情勢としては、織田信長の入京や足利義昭の征夷大将軍任命、稲葉山城の落城などがあった。今は武田信玄や上杉謙信、織田信長を始め毛利元就や長宗我部元親、浅井・朝倉などが台当してきている。


「長宗我部氏が安芸城を落としたらしいぞ」


 越後に向かっている途中に英松が竜頼に話しかける。安芸国虎率いる安芸城が長宗我部元親により、落とされたのだ。


「土佐の長宗我部か。さすがだな」


「俺たちは今、越後に向かっているんだろう。上杉謙信に会うのか?」


 越後で何をするのかと英松は竜頼に問う。


「いや、上杉謙信には会わない。というか、会えないだな。まぁ、やることは上杉謙信の戦を観る」

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