第7話優しい言葉より、地位と立場を





「在り得ない!!!」

 家のリビングで、

ダン、とビールジョッキを叩きつけながらメヌエラさんが言いました。

「話が纏まっていない段階から見物人が出入りしてるってのがまずおかしいんだけど!!!」


 そんなに怒ることなのでしょうか。

そうは思うものの、彼女が言うのなら、本来怒ることなのでしょう。

なんだかよくわかりませんが、それでも私の苦労を気遣ってくれることが嬉しく思いました。


「右も左もわからない異星人に、地位も与えずに放りだして、比較させて、何の権力も持たせずにただ並べてたら、そりゃ、虐待じゃないの!! いじめだわ!!!そのじいやも何なの?なにぼんやり突っ立ってるの?」

「うーん……そういうものなんですかね」

「わざと人を呼んでるんじゃないの? ってくらい陰湿じゃないの!」

「うーん……そういうものなんですかね」

「そ・う・い・う・も・の・な・の!! 良い? この世界じゃね、よそ者に舐められたら駄目なんだから」

ソファにどっかりと腰掛け、足を延ばしながら、メヌエラさんは酒をあおります。

「うーん……、あまり飲み過ぎないでね」

「私は大丈夫、ヤワな内臓してないから」




 大黒柱さんとのお話はまたあとで語りますが、それから後日、私はさっそくメヌエラさんに出来事の報告に行きました。ニコニコと出迎えてくれたと思ったら、話始めた途端に顔が曇り、イライラしていきました。私のせいですが。


「よその人って、私に、意思を確認するものなんですね」

「あぁ、そうね……」

ぴょこぴょこ、目のまえで動いているくまさんを見ながら、メヌエラさんが頷きます。

「それは、リンちゃんの代わり?」

「はい」

 彼女はなんだか波長が合うのか、代理人さんが居なくても自然と話すことが出来たのですが、

それでもやはり、お守りみたいなもので、せっかく畔沼さんがくださったので、今日も同行してもらっています。

「でも、そいつ、大丈夫なの? 相手の評価は相対的に自分の評価にもなるって、全然わかってないようだけど」

「……うーん、私は、大黒柱さんと、畔沼さんを応援したくて来ているつもりでしたから、それに、ほら。くまさんも頂きましたし」

「やれやれ、その程度で人間を信用するなんて、人が良いわね」

「よく、わかりません……信用とか、好き嫌いとか、概念的に」


 くまさんは、ひょこひょこと動きながら、メヌエラさんに手を振ります。

彼女はやれやれ、という目をしたまま、握手に応えていました。


「しかし、理解が出来ない」


握手をおえるとさっそく出回っている地域新聞などの束をどこからか出すと机に投げ、

彼女は毒づきます。


「これだけ、化け物、怪物、宇宙人、人の物を横取り、と散々記事は書いておいて、

それが自分の評価に返ってくるって発想は無いのかしら?

 畔沼氏の体面としても『化け物好きの変人』になってしまうのはどうなのかと思うけど」


「さぁ? でもいつの間に、こんなものが……あまり良い評価を見かけませんね。やはり、珍しい生物が居たので遊んでいると言うような扱いなんでしょう。周囲にもそのように言っているのかもしれません」


メヌエラさんが、がっ、と両肩を掴み、揺さぶります。

「他人事ね!? あんたはそれでいいの!? そんな話が出来たって、付き合う人をそんな風にしてしまうヤバい奴ってことだよ!!?余計に奇人度が爆上がりじゃない!!!」



 確かに、こうやって聞いていると、畔沼さんの奇人度が爆上がりしていることに気付かない民衆も変だし、体面の為にお見合いを薦めるなら、私に対して変なイメージを付けたところで、それが畔沼さんに間接的に返って来る仕様だというのに、一体何がしたいのだろうか。





「う、うーん……でもでも、自己評価って、どうやって評価すればいいんですか!?」


くまさんが、私を見た。


「……?」


『とりあえず、プロフィールを考えてみよう。リンちゃんの話題抜きで』



おぉ。


「いっそ百合にする!? それであいつ倒しましょう!!」


「メヌエラさん頼もしい……! でも、せっかく知り合えたので、もう少し話してみたいんです」




「それで自己評価できるようになるならいいわよ」


「吐かないように、人並みの自己評価を付けるべく頑張りますね!」



けど、自己評価……か。

右も左もわからない異星人が早々に他人に利用されようとしている。

人間社会のことなんて、今まで考えたこともなかったけど、地位も与えずに権力者と比較する場に放置すると言うのは古典的ないじめの一種。

もしもそうだとするのなら、そんなものを受けていては自己評価の場合ではないかもしれません。


「少なくとも貴方を愛するという殿方のする行為では無いわよ。絶対に。隣に並べ立てないなら他者に好かれる意味など無いのだから」


確かに畦沼さんは家の事が好きなので実際私などどうでもいいのですけど、その辺を詳しく語るとブチギレそうだなぁと、少し躊躇してしまいます。


「いい?優しい言葉なんて幾らでもかけれるんだから。無料で都合のいい立場を得られるんなら誰だって言えるの。けど、地位や権力はそうはいかない」

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