第3話なんでこんな嘘つかなきゃいけないんだ!わかんない!もうヤダ!普通に働かせてください!!!



「でも、家だって、『彼』のことを知っているだけで、恋愛向きかはわからないわよ」


……それも、そうです。

家に、恋愛感情があるのか。私にはわかりません。

なんでこんな嘘つかなきゃいけないんだ!わかんない!もうヤダ!普通に働かせてください!!

恋愛以外ならしますから。


 

   始まりは私が星から漂着して、この街に住み始めたことでした。

宇宙船が治るまでの間、星のことを知るために、まず家を買って住むことにしたのですが……

保証人なしでも買える家というのが無く、仕方ないのでその辺の草原で寝ていたんです。

それが何日か。

いや、そんな話は別に、良いですね。

 翌朝、肩を叩かれて、見上げると、変わり者の池野おばさんが笑顔を向けて立っていました。

そして「とりあえず、世帯があった方が街に馴染めるからお見合いしたら?」と突然、話を持ち掛けて来ました。なぜ、そのとき、異邦人の私にそんな提案をしたのか、この時は知りません。

彼女なりの優しさだったのでしょうか。

それで、第一話の話となります。



 しばらく、池野さんのお宅に居て、その後、ややあって、メヌエラさんと知り合い「古い倉庫だけどね」という家の管理代わりにお借りして……

そこで、星空を見ていたり、百科事典を見ていたり。

 知らないことを少しでも埋めようとしての行為でもありました。


 池野さんはよく、『そういう人の方が都合が良い』という、怪しいお見合い話を持ってきてくれたのですが、


今もまだ、ヒトの暮らしに慣れ切って居ないので、何から何まで知らないことだらけ。

いきなり知らない人に、その知らないことを繕いまくっている日常を知られても、どうしろっていうのでしょう? 何回も断りました。


「で、でも、最近コンロがやっと触れるようになったところなのに、家事のたびに火事のことを思い出さないといけない上に笑顔で愛情を提供するより、

よっぽど給金のこととタスクを考えて事務的にこなす方が精神的に! 優しいと思います……」


神様。

私が、いったい何をしたっていうのでしょう。

どうして、詐欺に加担しながら、ハード過ぎる、精神崩壊しそうなタスクが追加されるのでしょう。いや、さっさと、星に還るのが一番なんですけれど。


「包丁も、やっとまともに直視出来るようになったところだったしね。指示を聞いて、さらに愛想を振りまくなんて、あなたには重い荷かもしれない、けど……」


取り乱す私。メヌエラさんはさすが2500年以上の時を過ごしているだけあってか、落ち着いた動作で私の背に優しく手を置きます。


「いっそのこと、そのお見合いをあえて受けて、恋は気持ちだけじゃ成立しないと、証明してきて差し上げなさい!」

「あえて、受ける……?」

「そ、家に行って、ドジってコンロで火事でも起こして来たら、本当に嫌いになってくれるかも」

「う、うう……それもそれで怖いけど、少なくとも何かやらかせば、二度と詐欺に加担させようなんて言ってこないかもしれないですね! ただ、それは最終手段……家のことが好きなら、家に、好きですと伝えないと、と思うんです」

「何が出来るかどうかなんて、関係ないぞ!」


唐突に言えの窓が開いて、剥げた知らないおじさんが出てきた。



「大事なのは、愛情なんだ!」

「家のことを恋愛対象に思っている人の愛情ですか!?」



家が好きだから、家の為に、私とお見合いするだなんて、なんて自己犠牲なのだろう。

だからこそ、家と幸せになってもらいたい。


「そこじゃないわよ、何他人んちの窓開けてんの!?」 メヌエラさんが驚く。

「ジョギングしていたら話が聞こえたんだよ! お見合いをするらしいな!」



「そ、そうですけど……家に性的な感情がある人が、私の愛情なんてあるんですかね?」


ぶっちゃけ感情とかどうでもいいのだが。


「お前さんの気持ちはどうなんだ?」

「話聞いてたんじゃないんですか!?」

でかい剥げが、腕組みをする。


どっちだよ!!!!!

「気持ちなんてわからないですよ! 呼吸をして、食べるものがあって、行動がある! それだけが世界を回してるんです!!! 誰かを好きになりなさいだとか、そういうことを命令された日なんて、星に居た頃はぜー---んぜんなかったのに!!!!ひどすぎる!!!!!」


 うわぁっ、と、その場に蹲る。


「掃除をしなさいとか、これを食べなさいとかならわかるけど、なにその、漠然とした指示!!!!!何すればいいのよ!!!!!!!なんでこんな嘘つかなきゃいけないんだ!!!!嘘つくのって苦手なのに!!!!!!!!!」



「うーむ……」

「ね? この子には、いろいろと欠如しているのよ。むしろあり過ぎるのかしら……」

メヌエラさんと、剥げがひそひそと話し合う。聞こえてるぞ。




みんなに嘘を吐けと言われた事、結局何をさせられるか分からない事、家を好きな事、そもそも相手が謎な事、全てがストレスを予感させていた。



「今までは、何をしていたんだ?」


男が聞いてきて、私はいつも通りに答えた。


「普通に過ごしてますが……全部私の行動は代理人がやるので。食事や睡眠や、何か学習とかくらいです。対人とかはやるべき仕事があるとしても、今まで外のみんなは勝手に私を避けていくので、そもそも会話しないし、代理人が運んでくるものを食べて、私の代わりに代理人が言葉を話してくれました! 今回のワープに、代理人も居ないことが初めてなんですけど、お見合いは代理人がしないのかな?」


「代理人? それは何の文化なんだ? この国には無いが……」


そう。

なんと、この国?には、本気で代理人が居ない。


 今まで、あれをやりたいと思うと率先してやって、食べたいと思うと率先して食べて、

言いたいと思うと率先して自分の代理をしてくれる人。

 昔居たところでは代理人のリンちゃん、と呼んで、画面越しの世界のように、代理を眺めて、行動した結果、に伴うリンちゃんを通してあらゆることをしていたのだけれど。


「と、とにかく、食べるとか、寝るとかしか、わからない……」

「まぁ、そう深く考えること無いわよ。当たって砕けろっていうし!」

落ち込みかけた私の肩を叩いてメヌエラさんが豪快に笑う。

おじさんもジョギングに戻っていった。

「そうよね!」

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