第24話 映え

「……疲れた」


 あれから西園寺の着せ替え人形になること1時間弱。俺は死にかけていた。

 来た服を見せては新しく持ってきた服を着ての繰り返しでここまで体力使うとは思ってもいなかった。


「じゃあ、これとこれあとそれとあれとあれもだね。全部買っちゃおうか!」


 西園寺はいくつかの服を取り出して買う服を選んだようだ。

 まあ別に俺の金じゃないからいいか。


「すみません。これお願いします」


「かしこまりました!」


 さっきと違う店員がレジに立っていてその店員は西園寺から服を預かると慣れた手つきでバーコードを通していった。


「…………」


 レジで表示される額が増えていくにつれて俺の口が少しずつ開いていく。


「こちらでお会計が5万8千円になります! お支払いは現金かカードどちらになさいますか?」


「ご、5万!? な、なあ、西園寺! やっぱ悪いよ。5万は高すぎる」


 5万あればゲーム機が買えるぞ。

 いや、そうじゃなくても何回外食できるんだよ。いくらなんでも服に5万は勿体無い。


「これくらい買ったら普通だよ。あとまことって呼ぶって約束したでしょ。現金でお願いします」


 西園寺は俺の忠告を無視すると封筒からお金を取り出した。


「6万円から頂戴します。2千円のお返しになります!」


「あの、この服着ていってもいいですか?」


「勿論ですよ。じゃあタグは外しておきますね」


「ありがとうございます。じゃあ、冬馬着てきて」


 タグの外された服とズボンを渡されてしまった。


「あっ、おう……」


 勢いに流されてしまい、俺は渡された服とズボンを試着室に持っていくのだった。



「ありがとうございましたー!」

 

 買ってもらった服を着て店を出るが足元が変な感じだ。


「なんでこのズボンぶかぶかなんだよ……なんかスースーする」

 

「なんでってそういうデザインだからでしょ。偶には黒以外の服もいいでしょ? 似合ってるよ」


 突然俺の顔を覗き込んできた西園寺。

 褒められた恥ずかしさと西園寺の顔が近くにきたことによって恥ずかしくなってしまう。


「えっ、あっ、ありがとう……」


「……もしかして照れてる?」


「お、おかしいかよ」


 おかしいのは分かってる。西園寺は男だ。なのに心臓が破裂しそうだ。まるで女子と話しているみたいだ。


「そ、そっか」

 

 西園寺の顔もよく見ると赤い。もしかして西園寺も恥ずかしいのか?


「…………」


 気まずい沈黙が流れる。


「こ、ここで立ってたら迷惑だよね! 移動しよっか!」


 少しして西園寺がそう言った。確かに西園寺の言う通りだ。いくら歩道とはいえここじゃ迷惑になる。


「そ、そうだな! 腹減ったしご飯に行くか!」


 俺達は逃げるように移動するのだった。



「ここ来てみたかったんだー!」


 西園寺に連れてこられたのはお洒落なカフェだった。周りはカップルばかりで浮いているか気になったがよくよく考えれば今の西園寺は女だ。

 周りから見れば俺達もカップルにしか見えないだろう。


「結構有名なのか?」


「うん! SNSで話題なんだよ! ここの特別メニューが凄い映えるらしくてそれ目当てのお客さんが多いんじゃないかな?」


「特別メニュー?」


「うん、男女でこないと頼めないメニューなんだって」


「あー、それで……」


 通りで客がカップルばかりなわけだ。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 そんな話をしていたら店員さんが水を持ってやってきた。ピッチャーごと渡してくれたがピッチャーの瓶もお洒落だし、上にミントとレモンが乗っている。


 ……俺がよくいくラーメン屋じゃ絶対見ない光景だ。


「特別メニューでお願いします!」


 西園寺は頼むものが決まっていた為、即答した。俺まだ決めてないんだけど……


 急いでメニューを見る。


「あー、俺は」


「あっ、冬馬。特別メニューは2人分の量で作ってくれるから大丈夫だよ!」


 なんだそうだったのか。


「あっ、じゃあ以上で……」


「特別メニューのドリンクはどうされますか?」


「私はホットのコーヒーで」


「コーラとかあります?」


「はい、ありますよ」


「じゃあそれでお願いします」


「飲み物は食後か同時かどちらにされますか?」


「あ、俺は一緒で」


「じゃあ私も一緒で」


「かしこまりました」


 店員さんは注文を聞き終わると他の席の掃除を始めた。


「ごめんね。先にメニューのこと教えておいたほうが良かったよね」


「や、別にいいよ。むしろこんなにメニューあったら悩んでただろうし助かったくらいだ」


 メニューを見るとグラタンやらパスタ、オムライスなど沢山の種類があった。

 普通に決めていたらかなり時間がかかったはずだ。それにこの店で1番有名なメニューならそれ食べてみたいし。


「……冬馬って優しいよね」


「ん? 急に何んだよ? 怖いんだけど……」


「昔から知ってたはずなんだけどなぁ……」


 なんで急に黄昏れてんの!?


「お、おう? 大丈夫か?」


「……こっちの話だから大丈夫」


「そ、そうか。ならいいんだけど……」


 それからメニューが来るまで他愛もない話をするのだった。


「お待たせしました! 特別メニューのらぶらぶオムカレーです!」


 しばらく待っているとでかい皿でカレーがやってきた。

 上にはオムレツが乗っていてハートがケチャップでかけられている。

 そしてサラダが皿の淵の部分に盛られていた。


 ……確かにお洒落だけどこれは食べづらそうだ。


「こちら取り皿とドリンクになります! ごゆっくりどうぞー!」


 大きめのスプーンも一緒に渡された。これで取り分けろってことか。

 スプーンを持つとパシャリとカメラを撮った音が聞こえた。


「……なにしてんの?」


「写真。せっかくきたんだからミンスタに上げないとね」


 SNS用に写真を撮っていたようだ。

 ……男の時はそんなことしてなかったのに、もしかして望月に影響されたのか? まあ別にいいけど。


「ふーん。フォロワーとかいるの?」


「うん! 1000人くらいいるよ!」


「せ、1000!?」


 まだ1ヶ月しか経ってないのに、なんだそんなにフォロワーがいるんだ。


「んー。でも相互の人もいるしこれくらい普通だよ」


 普通……昔俺がやった時はフォローしてくれたの西園寺だけだったような……

 やめよう。考えたら悲しくなってきた。


「そ、そうか。もう食べてもいいか?」


「うん! 待っててくれてありがと!」


 その言葉を聞いてカレーを掬う。


「じゃあいただきまーす」


 カレーとオムレツを同時に掬って口に入れる。半熟の卵とカレーの相性は完璧だ。


「うまい……」


「うん! 美味しいね! 人気になってる理由がわかるね!」

 

 西園寺も美味しそうにカレーを食べている。


「そうだな」


 正直映えで作られただけかと思っていた料理のあまりの美味しさに俺は食べることに夢中になってしまうのだった。

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