第25話 思い出
ふー、ご馳走様でした」
「ご馳走様でした!」
カレーを食べ終わったが、意外としんどい。西園寺が女体化してから食べる量が減ってしまったと言っていたが、ここまで食べる量が減っていたとは……
7割以上俺が食べたせいで少しの間動きたくないと思ってしまう。
「……これからどうしよっか?」
どこか試すような目で見てくる西園寺。
デートなんだから少しはエスコートしろってことだろうか? まあ一応考えてはいる。
「あー。行きたいところがあるんだけどいいか?」
「え!? 本当!? どこ!?」
パァッと表情が明るくなる西園寺。
「ん? んー? 着いてからのサプライズじゃダメか?」
別に今言っても問題ないような気はするけどどうせなら驚いてもらいたい。
「ハードル上がるけどいいの?」
「……じゃあやっぱり」
「ダメでーす。もう聞きませーん」
わざとらしくプイッと横を向く西園寺が不覚にも可愛く見えてしまった。
本当に今日の西園寺はダメだ。あざとすぎる。もう少し自分の容姿を理解してもらいたい。
「……余計なこと言うんじゃなかった」
それから少し休憩した俺達は西園寺の金で会計を終わらせて目的地へと向かうのだった。
「ここ……」
やってきたのは子供遊園地だ。
遊園地といってもちょっとした遊具がある小さなテーマパークなのだが、ここは俺と西園寺にとって懐かしい場所でもある。小学生の時はよくここに家族ぐるみで遊びにきたりしていた。
「その……まこととはよくここに来てただろ? だから懐かしいかなと思って」
幼馴染とのデートといえば思い出の場所だ。俺の知ってるギャルゲーだって大体そうだ。
……なんてこと西園寺に言ったら怒るだろうけど、今の俺じゃどれだけ考えてもこれ以上のものが出てこない。
「……」
西園寺は何も言わず、俺をジト目で見てきた。
「……なんだよ」
「サプライズなんて言うからもっとお洒落な所に連れて行ってくれるのかなって思ってたのになぁって」
「うっ……」
痛いところついてくるな。
「でもこれはこれで冬馬らしいからいっか」
西園寺は笑顔になり俺の手を引いた。
よ、よかった。これで怒られたら俺の心がもたなかった。
「……懐かしいね。まだあの坂あるんだ」
歩き出して少しすると昔よく遊んでいた坂があった。昔は1番人気の坂でソリをする為に何回も並んだ記憶がある。
今もそれは健在のようで子供達がソリに乗って坂を滑っていた。
「みたいだな。でもあの坂みると嫌な思い出も蘇ってきそうだ」
「そういえば、あの坂で冬馬がソリから転げ落ちて泣いてまことあるよね」
「あん時は痛かったなぁ」
「確かその後おばさんが飛んできて手当してもらったんだっけ?」
「確かそーだったな。でも俺はそれ以上にあの後、まことが言ってきた言葉を覚えてるけどな」
「えっ? 私何か言ったかな?」
うーん? と首を傾げる西園寺に殺意が湧きそうになる。
「どうやったらソリから転げることができるんだよ! ハハハって悪魔のような笑い方してたろ」
「えっ、えっー? そうだったけなぁ? お、覚えてないなー」
顔を逸らす西園寺。こいつ、今の話聞いて思い出したな。
「俺だったら泣いてる幼馴染に追い討ちかけるような真似しないけどなぁ」
意地悪でニヤニヤしながら言ってやる。
「んっん! そんなこと言ったら冬馬だって、わ、私がおねしょした時におむつ履いた方がいいんじゃないか? って馬鹿にしてきたじゃん!」
「……全然覚えてない」
「もう! 冬馬の馬鹿!」
西園寺の手を握る力が強くなる。
「いててて、ごめんって」
「……そういえば昔は私のこと誠って呼んでくれていたよね? なんでやめちゃったの?」
西園寺は思い出したかのようにそんな事を聞いてきた。
「別に理由があったわけじゃないぞ? でもまあ強いて言うなら中学に上がって小学生の時みたいに話すことが少なくなっただろ?」
「うん。私も部活があったり友達が増えたからね」
まあ俺は部活もしてなくて友達も増えなかったんだけどね。
「なのに馴れ馴れしく誠って言うのはいかがなものかなーって思いまして」
実際中学に上がってから西園寺の周りにはいつも人がいたし、俺なんかが声をかけるのもなぁ。と引いていた節もある。理由を挙げるとしたらそれくらいだろう。
「なにそれ……最初に西園寺って呼ばれた時、私何かしちゃったのかなって凄い心配してたのに」
「うっ、すみません」
少しいじけた様にそっぽを向く西園寺に申し訳なくなって謝罪した。まさかそんなことで悩んでいるとは思ってもいなかった。
「……悪いと思ってるなら今日だけじゃなくてこれからもまことって呼んで」
「えぇ!? いや、でも……」
男に戻った西園寺を名前呼びするのはいいとしても女の子のままの西園寺にまこと呼びは色々まずい様な気がする。
それで勘違いする人も出てきそうだし。西園寺はそれでいいのだろうか?
「返事は?」
「は、はい!」
有無を言わさぬ西園寺の圧力に思わず頷いてしまった。
「よろしい。ねっ、あそこ座ろっか」
西園寺が指を向けた方向を見てみると少し地面が盛り上がっていた。芝生が敷かれていてる為地面に座っても汚くはないだろう。
「おう……」
「……子供が多いね」
「まあそういう場所だからな」
ここにいるのは元気いっぱいな子供とその保護者が殆どだ。俺達くらいの年齢の人達はあまりいない。
「…………」
西園寺は黄昏るように子供達を見ている。
「なあ、西園寺っ!」
どうしてお前は男に戻らないんだ? そう聞こうとした瞬間西園寺は俺の唇に人差し指をそっと押し当ててきた。
その動作に俺は固まってしまった。
「……その話は後で私からするね」
ゆっくりと指を引くと西園寺は微笑んだ。
「分かった」
微笑みを見た俺はそれ以上言えなくなり、子供達が無邪気に遊んでいる様子を見る。
「…………」
西園寺は何も言わない。でも不思議と気まずくない。
……この感覚長らく忘れていた。
西園寺とは別に何も喋らなくても気まずくないのだ。不思議な話だが、この感覚になるのは西園寺だけだ。
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