第23話 服屋

「……………」


「……………」


 ……なんで手を繋いでんだ? これもクロエの指示なのか?


 この前野口さんが言ってた、精神が体に引っ張られるって話。まさかとは思うけど西園寺は俺のことが……


 いや、いくらなんでもないか。俺らは昔からの幼馴染だし、俺に惚れる理由なんてないしな。それに今の西園寺なら仮に女として生きても男なんて選び放題だ。


「なぁ」


「あの」


 ……お見合いか! なんで同じタイミングで話すんだよ!


「冬馬の方からいいよ」


「あー、じゃあ聞くけどさ。デートってなにすればいいんだ? ギャルゲみたいな感じで遊園地デートとかすればいいのか? んで最後には観覧車でちゅーとか」


 西園寺に言われてた通り少し真剣に悩んでみたがなにをしたらいいか分からない。

 ゲームでは百戦錬磨の俺も現実じゃただの陰キャだ。


 すると西園寺の手を握る力が強くなった。


「怒るよ?」


 それもう怒ってんじゃん。


「……ごめん流石にふざけ過ぎた。でも実際なにをすればいいか分からないっていうか……女子と2人で遊びに行ったことないっていうか……なんか自分で言ってて悲しくなってきた」


「はぁ、まあ仕方ないよね。冬馬が女の子とデートしてるところなんて私も想像つかないもん」


「それはそれでムカつくけど実際女子と手を握るのも初めてだし、甘んじてその評価を受けよう」


 まあ西園寺を女子と換算してもいいのか分からないけど……


「そ、そうなんだ! わ、私が初めてか。そっかー」


 西園寺は少し嬉しそうに喋り出した。

 もしかて俺のこと馬鹿にしてんのか。


「……で、今どこに向かって歩いてるんだ? 目的地は決まってるのか?」


 この話題だと馬鹿にされ続けそうだと思った俺は話題を変えることにした。


「ん? 服屋さんだよ?」


「ずっと服買ったばかりじゃん。まだ服いるのか?」


「今日は私のじゃなくて冬馬の服だよ。この前約束したでしょ。この件が解決したら服を買いに行こうって……まあ解決はしてないけど、区切りがいいかなって思って」


 あー、そういえば約束してたような気がする。


「別に俺の服なんて気にしなくていいぞ? 服はいっぱいあるし」


 タンスの中には沢山服が眠っている。わざに買う必要はないだろう。


「黒ばっかりでしょ? 今日だって黒のシャツだしもっと明るい色も買おうよ」


「って言ってもなぁ……あっ、そういえばこれ渡してなかったな」


 今日出会った時に渡そうと思っていたこの前西園寺が忘れて帰った封筒を取り出す。


「あっ、これ……」


 西園寺は忘れていたのか思い出したかのような表情をしていた。

 こんな大金忘れるなよな。まあ話のインパクトがデカ過ぎたし仕方ないか。


「……今日のデートはこのお金使おっか。私が冬馬の服を買ってしんぜよう」


 なんか変なスイッチ入ってる。


「いや悪いしいいよ。自分の服くらい自分の金で買うよ」


「私が払うって! これまでのお礼もあるし、このお金手元に置いておきたくないからパーっと使いたいんだよね!」


 まあ気持ちは分からんでもない。貰った理由が理由だし、気味が悪いのは確かだ。


「じゃあお言葉に甘えようかな」


「ふふっ、まかせなさーい! 私のお金だったら私好みの服を買っても文句言われないしね!」


「……最後本音が漏れてんじゃん」


 そんなこんなで俺達は服屋に向かうのだった。




「いらっしゃいませー!」


 やってきたのはチェーン店じゃない個人店のような場所だった。

 内装はそこまで大きいわけではないが、おしゃれな服やズボンが幾つも飾っている。


 そして店員の1人が入ってきた俺達に気づいて元気に声をかけてきた。

 男の人だが、髪型とか服装が凄い。チェーン店の店員では見れないくらい奇抜な格好だ。だけどおかしくは見えない。むしろ格好良く見える。


 俺は店員に声をかけてくるなよと念じつつ近くにあったジーパンを見る。


「そのズボン気に入った?」


「いやそうじゃないけど、さ……まことは分からないかもしれないけど店員に声かけられたくないんだよ」


「なんで? 店員さんに聞いた方が似合った服をお薦めしてくれるじゃん」


「やっ、なんか気まずいじゃん。それに店員さんの何着ても褒めてくる感じが苦手なんだよなぁ。だからこうやって話しかけるなオーラをだしてるんだよ」


「……冬馬は本当に人見知りだよね。でももう遅いかもよ」


 えっ?


「お客様ー! そのズボンが気になりますか?」


 さっき元気に声を出していた店員さんがいつのまにか俺の横にいた。


「あー、やー。……はい」


 最悪だ。ただでさえ場違いなのに声をかけられてしまうとは、驚きのあまり否定するのを忘れてしまった。


「……そうなんですね! お似合いだと思います! そちらの方は彼女さんですか?」


 店員さんが一瞬微妙そうな顔したあと笑顔になった。

 絶対会話のできない陰キャだと思われたじゃん。本当嫌になる。だから話しかけてほしくなかったのに。


「あっ、いや」


「そうです! 今日は私が彼氏の服を選んであげようと思って!」


 否定しようとしたら西園寺が言葉を被せてきた。


 なんで? とも思ったが、これは西園寺からの助け舟か。俺が店員が苦手って言ったから助けてくれているのか。


 なんてできた幼馴染なんだ。


 これで会話も終わらせることができただろうと思って移動したら店員さんが着いてきた。


「彼女さんオシャレですもんねー! その服は自分で選んだんですか?」


 ……なんで着いてきてんだよ。まあ西園寺に話しかけているみたいだし、俺は関係ないか。


 ……でもなんか嫌だな。西園寺の顔と体だけを見て判断しているだけの男が馴れ馴れしくしているのは。


 って何考えてんだ俺。


「彼が選んでくれたんです。それと彼の服は私が選ぶので着いてこなくても大丈夫ですよ。もし困ったことがあったらこっちから声をかけますね」


「ぁ〜はい。分かりました」


 店員さんは笑顔の西園寺から何かを感じ取ったのかそそくさと違うお客さんの方へ歩いて行った。


「ねぇ、仮にもデートしてるんだから助けてよね。あの人私のこと狙ってたよ。胸とか弄るように見てきたし」


 そんな胸元の空いた服着てるからじゃんと喉元まで出かかったがなんとかそれを飲み込む。

 今の西園寺にそれを言ったら何を言われるか分かったもんじゃない。


「あー、ごめん……」


「それと冬馬もチラチラ見てるの分かってるからね」


 ……確かに何回かおっぱい見てたけどバレてたのか。


「……っすー。本当すみませんでした」


「……うむ! よろしい! でも次はないからね?」


 目がマジだ。


「……はい」


「じゃっ、冬馬の服選んじゃおっか!」


「そうだな」


 俺達というか西園寺は店内の服を一つずつ確認していくのだった。

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