第22話 困惑

「この金どうすればいいんだよ。今は渡し辛いし……」


 封筒を見ながら帰宅していると家の前で誰かが立っていた。

 不審者かと思ったが、近づくに連れてはっきりしてきた。クロエだ。クロエが俺の家に用事なんて嫌な予感がする。


「…………」


 俺はなるべくクロエと目を合わさないようにする。


「ねぇ、なに無視してんのよ」


 が、無駄だった。


「よ、よぉ。な、何かようか?」


 和解したと言っても昔の思い出があるせいで少し怖い。


「アンタお兄ちゃんとデートしなさい」


「……え?」


 俺の聞き間違いだろうか。それともクロエの頭がおかしくなったのか?


「だからお兄ちゃんとデートしなさいって言ったの!」


「……なんでぇ?」


「なにバカみたいな顔してんのよ! お兄ちゃんから今日あったことを聞いたわ」


 はっ、あまりの出来事にぼーっとしていた。


「今日あった事と西園寺とデートすることは関係ないだろ?」


 なんでこいつはそれが理由みたいな言い方をしているんだろう。


「なに? 文句あるの?」


「い、いえ……」


 あまりの迫力に反論ができない。


「今週末開けときなさいよ。お兄ちゃんには伝えてあるから。じゃあね」


 それだけ言うとクロエは自分の家へと帰っていってしまった。


 まるで嵐みたいな奴だ。




「……………」


 あれから土曜日になり俺は遊びに行く為に着替えをしていた。

 クロエはデートとか言っていたが、結局は遊びに行けってことだと思う。そこで西園寺の悩みを聞き出せってことだろう。


 事実、あれから今日まで西園寺とは気まずかったし、今日のことはお互いに触れないようにしていた。


 そんなことを考えていたら着替えが終わってしまった。


「……偶には俺の方から行ってみるか」


 今まで基本的に西園寺が俺の家に来てどこかに行っていたが、今日は俺も時間に余裕があるし偶にはいいだろう。



 西園寺の家につきチャイムを鳴らす。


『はい。あら、冬馬くん。今日は誠と遊びに行くのよね?』


「あっ、はい」


『ちょっと待ってて誠呼ぶわね』


「はい」


 それからしばらくすると玄関が開いて、西園寺がこっちへ歩いてきた。

 服装はこの前クロエと仲直りする時に俺が選んだワンピースだ。


「……おはよ」


 西園寺は何故かしおらしい。普段ならおはよう! って元気に挨拶してくるはずなのに。


「お、おう。おはよう……あー、その服着てきたんだな」


 少しの気まずい沈黙の後俺は口を開いた。


「う、うん。冬馬が選んでくれたから……」


「……そっか」


 西園寺が変な雰囲気を出しているせいで、俺まで気恥ずかしくなってきた。


「……その、今日はどうするの?」


「あ、あぁ。クロエからはデートに行けって言われたけど要は遊んでこいってことだろ? 適当に飯でも食ってボーリングとか行くか?」


 西園寺は体動かすことが好きだろうと思っていたからその提案をしたのだが、なんかむすっとしている気がする。


「……きょ、今日はそのデート、だからちゃんと考えてくれたら嬉しいな」


 西園寺の発言に言葉を失ってしまう。西園寺自らデートって……


「……西園寺」


「それと今日は苗字禁止で……ってクロエが言ってたよ。あはは……」


 ……びっくりした。クロエの指示か。


「分かった……まこと。これでいいんだろ?」


「う、うん! 実はさ前から気になってる店があったんだけど着いてきてくれない?」


「あ、おう。別にいいよ」


「じゃ、いこっ」


 西園寺は俺の手を掴むと恥ずかしそうに少し前を歩いた。


 ……やばい。今日の西園寺は普段より可愛く見える。


 今日一日のことを考えると不安になってくるのだった。

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