第19話 放課後

「それでさぁ、雪ちゃんが忍みたいに立っててさびっくりしたんだよね」


「へー……」


 その日の放課後西園寺と帰っていたのだが、なんか気まずい。あの告白を見てしまったせいか。


「ねぇ、話聞いてる?」


「……ちゃんと聞いてるよ」


「じゃあ私が二つ前に話したことは?」


「えっ……あの、弁当の話だっけ?」


「そんな話してないよ!?」


 上の空であることがバレてしまったようだ。


「……ごめん」


「そんなに私がモテてることが気になったの?」


「ブフッ!」


 衝撃の一言に吹き出してしまった。まさか俺達が見てたこと知ってたのか?


「希ちゃんが後から教えてくれたんだ」


 シンプルに心を読んで会話するのやめてほしい。


「あっ、そうなんだ……その、ごめん。気になっちゃって」


「別にいいよ」


「それにしても大変だな。告白とかされたら断るのも大変だろ?」


 告白されるくらいモテるっていうのは羨ましいけど、付き合う気のない相手から告白されたら振らないといかないし、しんどそうだ。


「最初は辛かったけど、もう慣れたんだよね」


「最初は? まだ5人だけじゃないのか?」


 今日で6人目か。されたことないから分からないけど、そんな簡単に慣れるもんなんだ。


「……男の時にも結構告白されてたから」


「そ、そうか」


 なんか男として負けたような気がする。


「うん」


 ……気まずいな。話題を変えるか。


「そういえば女体化してそろそろ1ヶ月が経つけど色々慣れたか?」


「……うん。困る事は無くなってきたかな。自分の体を見ても何も思わなくなってきたし」


 ……西園寺の体。


 西園寺を改めて見るが、やはりモデルになれそうな体型だ。


「……変なこと考えてない?」


 ジト目で俺を睨む西園寺。


「や? 考えてないっすよ?」


「ふーん。そういえば私この体になってから男子の視線がよく分かるようになったんだけどなぁ」


「……すみませんでした」


「よろしい。許してしんぜよう」


 王のような振る舞いをする西園寺が少しおかしくて笑ってしまう。


 だが同時に申し訳なさも感じる。この1ヶ月間色々とネットで調べたりしたが、西園寺が女体化した原因が一切わからないのだ。

 日向さんも色々調べてくれているみたいだが、結果は奮っていない。


「ん? どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「そうっすか」


「ん? なんで敬語?」


「んー? 冬馬の真似。冬馬って言い訳する時とか怒ると砕けた敬語になるよね」


「え? あー。そう? そんなことないと思うけど……」


 無意識だからそこまで覚えていない。


「そうっすよ。……私さ、女の子になって良かったなって思う時があるんだ」


 西園寺は突然そんなことを言い始めた。

 少し興味がある。温泉に行く時とか女子更衣室で着替える時とかかな?


「へー……どういう時なんだ?」


「こういう時っす。……ほら、私達って中学校に上がってからゆっくり話したりしてなかったでしょ? 昔に戻ったみたいで、嬉しいなって」


 !? 危なかった一瞬告白されたかと思ってしまった。モテないやつはすぐ勘違いしそうになるから困っちゃうぜ。


 ……って西園寺は男だぞ。なんで告白されるって選択肢が入ってんだよ。最近の西園寺は女子よりも女子っぽい為俺の中の認識もあやふやになってきているようだ。それに多分、今日の告白を見たのも原因だろう。


「……まあ、昔みたいに時間も合わなくなってきたからな」


「それはそうかも。私が部活始めちゃったからね。……そうだ! どうせなら2人で部活作ってみる?」


 いや、部活とか作れないだろ。


「それはいいかもな。どんな活動をするんだ?」


 だが、ここでマジレスするほど俺もコミュ障ではない。


「んー。そうだなー。私みたいに女の子になってしまった子達を助ける部活なんてどう?」


「なんだそれ……じゃあまずは女体化した奴を見つけないとな」


「うん。見つかるまではゲームをしたり、話をしたり遊んだりする部活って事で!」


「ただ、遊びたいだけじゃねぇか!」


 少し真面目に聞き返して損した。遊びたいだけかよ。


「バレたか。やるね、ワトソンくん」


「なんで探偵の相棒なんだよ……」


「失礼、少しいいですか?」


 他愛もない会話をしていると突然黒スーツにサングラスといういかにもな見た目の人に声をかけられるのだった。

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