第15話 妹
あれから1週間と少しの時が過ぎた。
この期間は西園寺と登下校を共にしたり望月にパシられたり音もなく現れる三鷹に驚かせられたり、謎の殺気を感じたりして大変だった。
「やっぱりこの場所で食べるご飯がいちばん美味しいな」
教室なんかで食べるよりも日陰で少し冷たい風にあたりながら食べるご飯が美味しい。
「あっ、本当にこんなところで食べてるんだ」
卵焼きを頬張っていると西園寺が声をかけてきた。
「何故バレた」
いつもご飯に行く時は隠れてここまで来ていたのに。
「千尋が教えてくれたんだ」
態々聞いたのかよ。
「そっか。で、どうしたんだ?」
弁当を持ってないみたいだし食事をしに来たわけではなさそうだ。
「その、実は……」
西園寺はベンチに腰掛けると気まずそうにし始めた。
「クロエのことでちょっとお願いがあるんだ」
「西園寺妹の?」
「うん。最近上手くいってなくて……なんか避けられてる気がするんだよね」
お兄ちゃんがお姉ちゃんになったら普通戸惑うけど、相手はあのクロエだぞ。俺の印象では超絶ブラコンな妹だったはずだ。
「気のせいじゃないか? 避けられてるって思ったきっかけとかあるのか?」
「うん。服を一緒に見に行こうって誘ったら断られちゃってさ」
「それくらいあることだろ。西園寺妹も用事があったんじゃないか?」
「それ以外にも私が話しかけようとしたらすぐに自分の部屋に戻っちゃうし……クロエとの間に距離があるように感じるの」
西園寺がクロエに話しかけてクロエの方から話を終わらせている姿を想像できない。
「確かにそれは避けられてるかもな」
「でしょ? 何回も遊びに誘ってようやく明日の朝からクロエと遊びに行く約束が出来たんだけど冬馬も一緒に来てくれない?」
「俺が行っても無駄だと思うぞ。西園寺妹に嫌われてるし」
「そんなことないって! 多分クロエも冬馬が居たら話しやすいと思うから、お願い!」
俺への信頼凄過ぎない? でも西園寺が思っている以上にクロエに嫌われてるんだよなぁ、俺。
「俺より望月さんとか三鷹さん、日向さんの方がいいんじゃないか?」
「じゃ、頼んだから! 今日の放課後詳しいことは教えるね!」
西園寺は俺の言葉を聞くことなく校舎へと戻っていってしまった。
「……話聞けよ」
残っている弁当を食べながらごちるのだった。
次の日、アラームの音で目を覚ました。
今日は土曜だから学校は休みだ。その代わり西園寺との約束? がある。
放課後聞いた話によると今日の行き先はショッピングモールらしい。そこで服や靴などを見る約束をしているそうだ。
「とりあえず着替えるか」
時計を見ると9時40分だった。確か10時に家に来ると言っていたはずだ。
準備が終わるとちょうど家のインターホンが鳴った。カメラを見るとそこには西園寺と不満そうな表情のクロエの姿があった。
「今行く」
『うん、分かった』
西園寺の奴俺が行くってことちゃんと伝えてたのか? そんな事を思いながら家を出るのだった。
「おはよ! 今日はありがとね! クロエも挨拶して」
「オタクになんか挨拶したくない! おに……お姉ちゃんも先にこいつが来るなら教えてくれたらよかったのに」
やっぱり言ってなかったかー。にしても本当酷い言われようだ。
「おはよう。別に俺は気にしてないからいいぞ。じゃあ行くか」
そんなこんなでショッピングモールへと向かったのだが、空気は最悪だった。
西園寺がクロエに話を振るがクロエは気まずそうに答えるだけで、普段よりも会話の距離は遠いし、クロエは俺が話を振っても基本シカト。もしくは舌打ちで返してくるだけだった。
「わぁ、この服クロエに似合いそうじゃない?」
まず最初にレディース専門の服屋に俺達は入った。
西園寺が手に取ったのはぶかぶかの長袖だった。
「……そう? お姉ちゃんがそういうなら試着してみようかな」
「西園寺妹にはデカ過ぎるんじゃないか?」
着なくても分かる。たとえ西園寺が着たとしてもぶかぶかになるであろう服を薦めるなんて正気か?
「はぁ……冬馬、これはこういう服なの」
西園寺は呆れたように言った。
「あ、そうなの?」
「フッ、どうせアンタはゲームばっかしてたからファッションの事なんて分かんないんでしょ」
クロエはクロエですごいバカにしてきた。
キレそう。だが、落ち着け。相手は年下だ。今まで通り多少の無礼は許してやろうじゃないか。
「こら、クロエ冬馬に失礼だよ。確かに冬馬はファッションセンスないけどストレートに言っちゃダメだよ」
「お前は俺の味方か敵なのかどっちなんだよ」
「んー。クロエの味方」
「忘れてた。お前もシスコンだったな」
「シスコン?」
「いや、なんでもない。今度は逆に西園寺妹から西園寺に似合いそうな服選んであげたら?」
一応今日の俺は2人の仲を取り持つということで来ている。来たからにはちゃんと仕事もしないとな。
「えっ……」
クロエは困ったような顔をした。
「それいいね! クロエお姉ちゃんに似合う服選んでくれない?」
「……分かんないからいい。私、試着してくるね」
クロエは逃げるように試着室の方へ走っていった。
……来る途中でも思ったがやっぱりクロエは西園寺のことを避けているようだ。
「……クロエ」
西園寺は辛そうな表情を浮かべている。
「……あー、なんだ。今日はまだ始まったばっかりだし、帰るまでには仲直り出来るように頑張ろう」
「うん。ありがと……クロエを待ってる間冬馬が私に似合う服選んでくれない?」
「お前ちょっと前に俺のファッションセンス貶したばっかじゃん」
「別にいいの! 純粋に冬馬の趣味が気になるから聞いてるんだよ。ほら、モデルは私最上級の美少女だよ! 冬馬が好きな服選んでみて!」
「自分で美少女とか言うなよ……でもまあ西園寺なら白のワンピースだな。……これなんていいじゃんないか? フリルがついててお姫様みたいで」
昔から金髪美少女には白のワンピースって相場があるんだ。異論は認めるけどな。
「ふーん。それ貸して。クロエの試着が終わったら着てみるから」
「え? 別にいいけど本当に着るのか?」
「うん。何か問題ある?」
まさか本当に着るとは思ってなかった。
「いや、西園寺妹の試着ももう終わる頃じゃないか?」
「そうだね。行ってみよっか」
俺と西園寺は試着室に移動するのだった。
「……どうかな?」
試着室に到着するとちょうどクロエが試着室から出ていた。
「似合ってると思う」
「アンタには聞いてない!」
「さいですか」
西園寺よりも答えたせいなのかそんな事を言われてしまった。
「似合ってるよ! でもそれだと……下は黒の方がいいかも! ちょっと行ってくるから少し待ってて!」
西園寺はかけだして行った。
……気まずいから2人きりにするなよな。
「前から西園寺とは服を買いに行ったりしてたのか?」
とはいえ俺が話さないとクロエから話すことはないだろうと思い口を開く。
「……基本的に私が着てる服はお兄ちゃんが選んだ服ばっかりよ」
少ししてからクロエが口を開いた。意外だ。西園寺の事になると話してくれるみたいだ。
「へー。じゃあ西園寺妹は俺と一緒でセンスないかもなんだな」
「うっさい。アンタと一緒にしないで!」
……怒らせてしまった。どうやら俺は会話をミスったようだ。
「お待たせー! って2人でどんな話してたの?」
西園寺が黒色のズボンを持って帰ってきた。
「大した事じゃないよ」
「そうね、大した事じゃないわ」
「教えてくれてもいいのにいじわるだなー。はいっ、これ着てみて」
「分かった」
クロエは西園寺からズボンを受け取ると試着室に入っていった。
「試着室空いてるし私も入っちゃおうかな」
「それがいいかもな」
「じゃあ私が出てくるまでクロエに待っててもらってね!」
そう言って西園寺も試着室に入っていった。
「お待たせ。ってお兄ちゃんは?」
少しするとクロエが先に出てきた。
「西園寺なら俺が選んだ服を試着してる。出てくるまで西園寺妹も待っててくれだってさ」
「げっ、アンタが選んだの?」
「げってなんだよ。げって。西園寺妹が選ばなかったからだろ?」
「……選べるわけないじゃないお兄ちゃんなのよ」
聞こえるギリギリの声でクロエはつぶやいた。
「なんで?」
「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんなのよ! なのに女物の服着て、可愛くなって……」
クロエが西園寺と微妙な雰囲気になっている理由はやっぱり西園寺が女体化したからか。
仲を取り持つと無理やり約束させられたがこればっかりは時間が経たないと解決できないんじゃないか?
「まあ突然兄ちゃんが姉ちゃんになったらビビるよな。別に西園寺妹の困惑も普通だと思うぞ?」
「……オタク」
励ましの言葉をかけるとクロエは驚いた顔をした。なんで驚いてんだよ。
「お待たせ〜! どう? 似合う?」
すると試着室から西園寺がスカートをひらひらさせながら出てきた。
そしてめっちゃ似合ってる。ただ、ワンピースは俺が思っていたよりも胸の露出が少し多いそのせいで目の付け所に困る。
「……おう、似合ってると思うぞ」
俺はできるだけ胸を見ないようにして話しかける。
「あのね、そんな視線してたら逆に不自然だから。他の女子には絶対しない方がいいよ」
どうやら俺がどこを見てたかバレたらしい。
「どこ見てんのよ! オタク! ちょっと見直した私の気持ちを返しなさい!」
「無理だろ!? 俺だって男なんだよ! いくら西園寺でもそれだけ露出したら見ちゃうって!」
「そうかな? これくらい普通だと思うけどなぁ? ん! クロエもそのズボン似合ってるね!」
お前の普通がおかしいのはよく分かった。それとも俺がおかしいのか?
「……ありがと。お姉ちゃんも、似合ってると思う」
クロエは少し暗い顔で西園寺を褒めた。
「本当!? クロエにも褒められちゃったしこの服買おっかなー?」
西園寺はクロエの表情に気づいたのか普段よりもテンションを高くしてから元気を出しているみたいだ。
そんな2人を見ているとなんとかしてやりたいと思う気持ちが少し大きくなるのだった。
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