第13話 日常

「まことちゃんが来たわよー」


「はーい」


 次の日の朝。母さんの声で下に降りる。


 昨日別れ際に迎えに来ると言っていたがまさか本当に来るとは思ってなかった。


 ちなみに母さんには日曜日に西園寺の正体を打ち明けた。1番びっくりしたのは簡単に受け入れていた事だ。この事実を知っている誰よりも理解が早かった。


「こら、待たしちゃ悪いでしょ! 早くしなさい!」


「分かってるって! いってきます!」


「いってらっしゃい」


 外に出ると西園寺がいた。


「おはよー」


「おはよう」


 一緒に登校するのなんていつ以来だ? 中学から西園寺が部活を始めて時間が合わなくなったからそれ以来か。


「てか、本当に来たんだな」


「当たり前でしょ! 私が嘘なんてついたことある〜?」


「割と嘘つきなような気もするけどな」


 どうでもいいよな嘘を西園寺はよくつく。


「酷い! たった1人の幼馴染にそんなこと言われるなんてもう生きていないよ」


 ヨヨヨとなくふりをするが、ある違和感に気づいた。


「その口調どうしたんだ?」


 2人の時はいつも普段の口調だったのに、何故か人前の喋り方になっている。


「昨日お母さんとお父さんに普段通りの喋り方だとボロがでたらいけないから直した方がいいって言われたの。……おかしい?」


 なるほど。確かに気が抜けた瞬間に男口調になったら目も当てられない。


「いや、そっちの方がいいかもな」


「でしょ? だからまあ、そのなんていうか……改めよろしくね」


「今更じゃね?」


「うっさい! 冬馬の馬鹿!」


 恥ずかしくなったのか西園寺が早歩きになった。


「あっ! まことに平じゃん!」


 声のした方向を向くと望月がいた。


「希ちゃんおはよ!」


「朝から一緒に登校ってマジで仲良しじゃん」


「住んでるところが隣同士だからだし、幼馴染だからね!」


 いつのまにか西園寺の隣には望月がそしてその少し後ろに俺という構図が出来上がっていた。

 そこからは時々2人に話を振られてそれに相槌を打つという形になるのだった。



「冬馬! どうしよう!?」


 休み時間、廊下に連れ出された俺は何故か西園寺に詰め寄られていた。


「……顔近いって」


 西園寺の顔が目と鼻の先にある。西園寺はかなり興奮しているようだ。


「あっ、ごめん。で、どうしよう!」


 少し離れた後、同じことを聞いてきた。


「次の授業、体育でしょ!」


「それがどうしたんだよ? てか俺服着替えないと……あ」


 そこで気づいた。

 着替えは男女違う教室でするのだが、西園寺は女子、という事は……


「俺、じゃなくて私無理だよ! み、みんなの裸を見るなんて」


 顔を真っ赤にしながらモゴモゴ喋る西園寺。


 くそ、羨ましいぞ。合法的に女子の裸が見れるチャンスじゃないか。とはいえ西園寺も望んで女子になったわけではない。仕方ない、策を伝えるか。


「……ちゃんと目に焼き付けとけよ」


 肩に手を置きサムズアップをする。


「……馬鹿!」


「ぐへっ!?」


 ビンタをされたと思ったら西園寺はどこかに行ってしまった。

 俺は西園寺を追うことを諦めて服を着替えるために教室に戻るのだった。



「……………」


 着替えが終わってグラウンドに向かうと空を仰いでいる西園寺の姿があった。


「おい、大丈夫か?」


 声をかけるが、無視されてしまった。


「……更衣室を出てからずっとこの調子」


「うおっ!?」


 いつのまにか隣にいた三鷹の声に驚いてしまった。


「……どうしたの?」


「あ、いや何でもないよ。着替え中はどんな様子だった?」


「……ずっと天井見てた。着替えづらそうだった」


「西園寺は大人数での着替えに慣れてないらしいからそれでじゃないかな。おい、起きろ」


 肩を軽く揺すると西園寺はハッとした様子だ。


「もう授業始まるぞ?」


「あっ、うん。ごめん。夢を見てたみたい」


「……夢?」


「雪ちゃん!? 夢っていうのは例えでそれくらいぼーっとしちゃってたってこと!」


 三鷹にも気づいていなかったのか。


「……なるほど?」


 深く突っ込まれなくて助かった。


「よし。じゃあ体育始めるぞ。今日は2クラス合同での授業だからまずはクラスごとに並んでくれ!」


 そういえば、今日の授業は日向さんのクラスと一緒だけど姿がない。どこにいるんだ?


「冬馬、早くならばないと怒られちゃうよ」


「お、おう」


 すでに三鷹は列に並んでいた。そして俺達も列へ並ぶのだった。



「ごめん。今日1人で帰るから……」


 放課後帰る準備をしていると深刻そうな顔をした西園寺が声をかけてきた。


「あ、あぁ。それはいいけどどうしたんだ?」


 女体化する前はそもそも別々で帰ってたし、何かを言うつもりはないけど表情が気になる。


「何があるわけじゃいんだけど、用事があってさ。女の子になると色々大変なの」


 絶対嘘だ。長年一緒にいた俺の勘がそう告げている。


「じゃあね、また明日」


「おう」


 西園寺が教室を出たのを見計らって俺も立ち上がるのだった。


 ストーカーみたいで嫌だけどあの表情普通じゃない。尾行しよう。



 しばらく西園寺をつけて歩いていると西園寺はある家の前で立ち止まった。そしてしばらくすると家の中に入って行ってしまった。


 その家の表札を見ると日向と書かれていた。


「西園寺……」


 今日、日向さんは授業にいなかったしおそらく学校を休んだのだろう。

 そして西園寺もまさか見舞いに来たわけではないだろう。


 俺は近くの電柱に寄りかかってスマホゲームを始めるのだった。


 

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