第12話 交流

 あれから西園寺と話すことがなく放課後になってしまった。


 今日一日の西園寺人気は凄まじく、休み時間になると西園寺の周りには人が集まっていた。

 それに可愛い転校生がきたと噂を聞きつけた他クラスの男子が西園寺の事を一目見ようと廊下に集まってきていた。


 まあなんにせよすぐに馴染めて良かった。同じクラス知ってる人だからこそ、初めて会う人のフリをしないと行けないのだ。ボロが出てもおかしくない。


 帰る準備をしていると机が暗くなった。

 顔を上げるとそこには西園寺と、トップカーストの女子2人が俺を見下ろしていた。

 西園寺はまだ分かるけど女子2人が何のようだ……


「…………」


「まこと。本当にこいつも連れてくの?」


「うん! 冬馬だったら荷物持ちにちょうどいいからね!」


 1人は俺を無言で見下ろし、もう1人は不満がありそうだ。

 な、何が始まろうとしているんだ。


「あ、あの何のようですか?」


 3人に質問をしてみる。


「雪ちゃんと、希ちゃんが私にこの街案内してくれるんだって! で、私も色々買いたいものがあるし、荷物持ちとして冬馬の出番ってわけよ!」


 黒髪ショートボブの少し垂れ目気味の美少女三鷹雪と、吊り目で金髪をサイドでまとめているつり目気味の美少女が望月希だ。


 どちらもこの高校で人気はあるが、三鷹の方は普段から近寄りがたい雰囲気があるため男と仲良くしている姿を見た事がない。

 望月の方は男女関係なく、仲良くしているが好きな人は多分西園寺なはずだ。西園寺の時だけ明らかに対応が違うもの。本人は彼女がいるとかあまり気にしていないようだ。


「……話は分かったけど、何で俺? 3人だったら立候補してくれる荷物持ちなら沢山いると思うけど」


 ちらりのチラリと横目でクラスを見ると男子達が凄いこっちを睨んでいる。

 アイツらに頼めば荷物持ちとは言わずに金まで出してくれそうだけど……


「あーしもそれ言ったけどまことがアンタがいいって」


 どういう事なんですかね!?


 目で西園寺に訴えるがあははと頬を掻いて笑うだけだ。


「……で、くるの来ないの? どっち?」


 本当は行きたくないけど、西園寺が俺を指名するってことはなんか意味があるってことだよな。


 ……仕方ない。


「……行かせてください」


「ふーん。じゃ、いこっか。まこと! この街に来るのは5年ぶりって言ってわね! 美味しい店もめっちゃあってそこも案内するから! 安心してあーしについてきて!」


「わぁ、楽しみ! 私化粧品も欲しいんだ。いい店あったら紹介してくれない?」


「希さんに任せなさい! ここはあーしの庭だからいっちばんいい店に案内してあげる!」


「……お腹すいた」


 キャピキャピ話しながら西園寺と望月そしてマイペースな三鷹を追いかけるように俺は教室を後にするのだった。


 ……殺意の籠った男子達の視線を浴びながら。



 化粧品店へやってきた俺達だが、店に着くと西園寺と望月はどんどんと店の奥に行って消えてしまった。

 三鷹はというといつのまに買ってきたのかたこ焼きを手に持っていた。


「……………」


 何故たこ焼き? なんて思ったが、つっこめるような仲でもない為、俺は深く考えるのをやめて店内を見てみることにした。

 

 とはいえ化粧品しか置いてない。俺が見ても何のこっちゃ訳がわからない。


「色付きリップって口紅と何が違うんだよ……」


「なに見てんの?」


 色をつけるなら口紅じゃダメなのか? そんな事を思っていると声をかけられた。

 声のした方を向くと望月がいた。


「あ、いや。これ口紅と何か違うのかなって……」


「はぁ、アンタなんも知らないんだね。まっ、見るからにそういうの興味なさそうだし」


 うん、失礼じゃない? でも事実だし言い返せない。


「ご、ごめん……」


「謝ることないじゃん? てか、アンタとまことって付き合ってたりすんの?」


 何でそう思った?


「付き合ってないよ。久しぶりに会ったのも昨日とかだし」


「ふーん。まことがアンタを気にいってるみたいだったから付き合ってんじゃないかと思ったけど違ったんだ。……つまんな」


 おい最後本音漏れてるぞ。絶対揶揄う気でしたよね?


「……ははは」


 言い返してやろうと思ったが度胸が足りなかった。苦笑いでその場をやり過ごす。


「あっ、冬馬に希ちゃん! どう、これ?」


 そろそろ気まずくなってきそうになったその時西園寺がやってきた。


 笑顔で聞いてきたけどなにも変わってない。


 チラッと望月の方を見るとこっちを睨んでいた。俺から何か言えってことか……


「……あー。くちべ……じゃないよな。勿論分かってるよ。うん……」


 口紅って言おうとした瞬間西園寺の顔が真顔に戻った。俺は本能的に危機感を感じて訂正する。


「あれか。ほっぺが少し、赤い……と思ってたけど光の加減か……ごめん、見間違いだった」


「ッチ」


 そして次は真顔から不機嫌そうな顔になってしまった。そして何故か望月までイライラしている。


 多分外したら次はない。唾を飲み慎重に西園寺を観察する。


「……まことちゃんまつ毛綺麗だね」


 横から三鷹が現れた。おかげで助かった。


 まつ毛? 言われてみたら変わってるような……? 分かるかぁ!!


 だが大天使三鷹に乗らせてもらうぞ。


「雪ちゃん! ありがと!」


「まつ毛な! 俺も思ってたんだよ! 似合ってると思うぞ」


「……………雪ちゃん、希ちゃん。行こ」


 うっ、ジト目が痛い。バレてるよな、これ。


「うん」


(ばか)


「いつっ!?」


 ついて行く三鷹と俺の方を見て口をパクパクさせてから脛に蹴りを入れてから西園寺の方へ走って行く望月。




「んー! これ美味しい!」


「でしょー! 知る人ぞ知る、牧村のクレープ! 最近できた店であんまり知られてないんだよねー」


「……匠の味」


 前を歩く3人の美少女はクレープを食べながら俺の少し前を歩いている。

 俺は食べてないのかって? 食えないんだよ。手が西園寺の買った服の袋やら靴の箱で一杯一杯だからな! つれぇよ! 甘いもの好きなのに。俺の分は西園寺が持ってくれているが、家に着く頃には溶けてしまう。


「……うぅ。重い」


 化粧品店を出てから西園寺の機嫌が悪くなってしまった。原因はわかっているが男の俺にあの違いを見抜いてもらったとしてもアイツも嬉しくないだろうに。


「……食べないと、損」


 1人ごちっているといつのまにか三鷹が俺の横にいた。そしてクレープを差し出してきた。


 嬉しいけど……くっきりと三鷹の歯形が残っている。これを食べると言うことは間接キスになる訳だが、気にしてないのか? 俺の気にしすぎか?


「……いいんですか?」


 緊張のあまり敬語になってしまった。


「匠の味、堪能あれ」


「それじゃあ……いただきます」


 どうやらいいらしい。俺は口を開けて少し頂く。


「……うまい」


 いちごの酸っぱさを生クリームの甘さで中和するだけじゃなくもちもちの生地がその二つを包み込んでいる。

 3人が褒める理由がわかった気がする。


 三鷹はサムズアップするとまた前に戻っていってしまった。


 取っ付きにくい印象があったけど意外といい人なのでは?


 それからしばらく歩くと分かれ道までやってきた。


「私と冬馬はこっちなんだ」


「そっか。あーしらはこっちだからここでお別れだね」


「うん。今日はありがとう! 色々教えてくれたりして助かったよ!」


「まことは可愛いんだからもっと可愛くならないとね!」


 言いたいことは分かるけど、なんか馬鹿っぽい。


「そ、そんなことないよ! でもまた色々教えて欲しいな」


「望月さんに任せなさい!」


「ありがと! じゃあまた明日ね!」


「ばいばーい!」


「……うん」


 西園寺と望月は手を振り合っている。そしてお互いの姿が見えなくなったところで西園寺は手を下ろした。


「今日、どうだった?」

 

「え?」


「だから今日どうだったか聞いてんだよ。可愛い女子3人と遊んだ感想だよ!」


 自分も頭数に入れてるんだ……


「……わちゃわちゃしてたな」


 うん。キャピキャピしすぎて俺の入る余地なんて無かったしな。


「はぁ……冬馬はそういう奴だよな。あの2人のこと気にならなかったのか?」


 ……まさかこいつ。


「お前女子の立場使って俺に女子と遊ぶ機会を作ったのか?」


「正解! 最後の方とか雪ちゃんといい感じだったじゃん!」


 本当にお節介な奴だ。


「そんなんじゃないよ。でもまあ……普段は取っ付きにくいけど優しい人なのかなとは思ったけど……」


「おっ、好感触じゃねぇか!」


「何でお前が喜んでんだよ。てか俺のクレープくれ」


「そりゃ、ついに冬馬にも春が来たのかなって思うとな。ほれ」


 西園寺は俺が食べやすいように口の近くにクレープを近づけてきた。


「うん。うまい」


 いちごも美味いがやっぱりチョコバナナだよな。


「って、おい。口についてるぞ」


 西園寺はポケットからティッシュを取り出して口を拭いてくれた。


「あ、ありがとう」


 そして目があった。

 ……やっぱり女の西園寺は可愛いな。俺はすぐに目を逸らした。


「もしかして照れてんのか〜」


 ウゼェ!


「違うって……つーか、何で今日キレたんだよ。別に俺が気づかなくても気にならないだろ。てかお前男なんだし、可愛くなる必要ないじゃん」


 化粧品店での話を切り出す。


「あぁ? そりゃ俺も女体化してすぐは凹んだけどよ。普通に生きてて女体化する事なんてないんだし、楽しまないとだろ?」


 ポジティブ過ぎません?


「……でも何でムカついたんだろ?」


「何だそりゃ」


 本当に何だそりゃだ。


「あっ、そういえばさ……」


 それからは今日会った事などを雑談しながら家に帰るのだった。

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