第11話 転校生

「ふぁぁぁ。いってきまーす」


「いってらっしゃい」


 次の日俺は学校に登校していた。


 あれから西園寺の家族は西園寺が本物だと信じてくれた。

 西園寺しか知らないことを答えたりしたのも大きかったが、1番大きかったのは人見知りの犬マルスがすぐに尻尾を振って西園寺に向かっていったことだろう。


 そのおかげで西園寺は自分の家に戻れることができた。多分今頃家で寝てるのだろう。少し羨ましくはある。


 平日でも学校を休んでいられるのはかなりでかい。代償もデカいけど……


「それじゃあホームルーム始めるぞー」


 クラスについてしばらくするとホームルームの為に先生がやってきた。

 クラスの雰囲気はやはり暗い。みんな西園寺の事を気にしているんだろう。


 まあ俺は元々1人だったし、みんなのテンションなんて関係ないけどな。


 あっ、自分で言ってて辛くなってきた。


 そうこうしていると先生の話も終盤になってきた。どうせ今度ある中間試験の為に勉強しろとかって話だろう。


「じゃあ最後になったがみんなにはいいお知らせがある。このクラスに仲間が増えるんだ」


「それって転校生ってことですかー?」


 西園寺と仲がいいお調子者のクラスメイトが手を挙げて尋ねた。


 転校生なんて珍しいな。


「そうだ! さっ、入ってきてくれー」


 ガラガラと扉が開くと俺の眠気は一気に覚めた。


「初めまして! 西園寺まことです! 誠の従兄弟で誠を探す為にこちらに引っ越してきました! 誠とは同じ名前ですけど、私はひらがなであっちは漢字です!」


 そこには化粧までして、さらに可愛くなった俺の幼馴染がいたからだ。


 空いた口が塞がらないとはまさにこの事を言うのだろう。


「あ……おぉぉぉぉぉ!!!」


 そしてクラスのみんな。特に男子が歓喜した。


 漫画の世界でしか見れない転校生の美少女がやってきたからだろう。


「お前ら、うるさいぞ。静かにしないか。西園寺さんはそうだな。空いているあそこの席に座ってくれ」


 教師が指したのは元々西園寺が使っていた席だった。


「あの席……」


 西園寺は少しショックを受けているようだ。


「本当は誠くんが使っていた席なんだが、誠くんが見つかるまでの間はあの席を使ってくれ。誠くんが帰ってきたら新しい席を作るから」


 こいつ人の心とかないのかよ! 酷くないか!? 教師だろ!?


「分かりました!」


 笑顔で対応する西園寺の方が大人に見えてきた……


「じゃあ以上だ。西園寺さんと仲良くするようにな」


 そう言って先生は帰ってしまった。


 西園寺にどう言うことか聞かないと……


 俺が立ち上がった瞬間には既に西園寺はほとんどのクラスメイトから囲まれていた。


 座っているのは俺と同じで大人しめの人だけだった。


「まことちゃん! 誠と同じ名前なんだね!」


「まことちゃんって彼氏いるの!?」


「西園寺さん髪の毛綺麗〜どんなシャンプー使ってるの?」


「西園寺さんってモデルみたいだけど、雑誌に乗ってたりするの?」


 といった感じで俺の入る隙なんて1ミリもない。


「…………」


 仕方ないけど、次の休み時間まで待つしかないか。


「みんなごめんね。私もみんなと話したいんだけど、それより先に話したい人がいるの」


 西園寺の声が聞こえてきた。……話したいって思ったけど。みんなの注目を集めながら話したい訳じゃない。


「えっ!? だれだれ! もしかして俺だったりする」


「俺だろ!?」


 何人かの男子が立候補し始めた。


「冬馬! 久しぶり!」


 そしてその男子達を無視して西園寺が俺の方へやってきた。


(何を考えてるんですかね!?)


 口をパクパクさせて伝えるが向こうは笑顔のままだ。


「は?」


 そして次に来るのは男子達からの冷たい視線だ。西園寺の周りに行ってなかった奴らにまで睨まれている。


「ここじゃ話しづらいし、ちょっと場所移さない?」


「……そうだな」


 どちらにせよここじゃ話せない。俺は西園寺を連れて屋上に行くのだった。



 屋上に着いたが朝1番だからか人がいない。それを確認してから念のため鍵を閉めておく。


「で、どういうつもりなんですかね!?」


「どういうつもりってなんだよ? 話したそうにしてたから冬馬のところに来たんだよ」


「そりゃ、聞きたいことはあったけど……注目は集めたくなかったんだよ!」


「そりゃ……悪かったな」


 反省してるみたいだし今回はいいか。それよりも聞きたいこといっぱいあるし。


「はぁ、まあいいや。で、西園寺はどうやってここに入学したんだ?」


「あぁ、それはお父さんがなんとかしてくれたんだ」


「……お前の父さんって何者?」


「さぁ? あんまり仕事のこととか教えてくれないからなー」


 まああんな豪邸に住んでくらいだし、只者ではないよな。


「じゃあその化粧は?」


「お母さんが教えてくれたんだよ。女の子なら可愛くしないとって」


「前のままでも十分可愛かったと思うんですけどねぇ!?」


 こいつ本気で男に戻る気あんのか!?


「……あ、ありがと」


 照れてんじゃねぇ!


「はぁ……じゃあ久しぶりっていうのは?」


 西園寺は普通に話しかけるんじゃなくて久しぶりなんて言ってきた。


「それは俺が久しぶりにこっちにやってきたって設定になってるからなんだ。それまで県外にいたけど俺、誠の行方不明を機に帰ってきたってことで、俺と冬馬は昔からの仲って設定だ」


 それ、日向さんの時に使った言い訳じゃん。


「……分かった。じゃあ俺はその設定に従えばいいんだな」


「おう! 頼む! あっ、そろそろ授業が始まるぞ! 戻ろうぜ!」


「……うっす」


 今までの平穏な高校生活が全て潰れそうな気がする。

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