第10話 告白

「ふわぁぁ、もう朝か……」


 昨日は結局何も喋らなかった西園寺だが、ぐっすり眠れているようだ。


 体を伸ばしながら少しストレッチをする。流石に2日もベッドで寝れないと体が痛い。


 昨日は俺がベッドで寝て西園寺に椅子で寝るように頼もうと思っていたのだが、あの状況の西園寺にそんなことを言えるわけがない。


「ん、んん……おはよう」


 どうやら西園寺も目を覚ましたようだ。

 それに多少は顔色も良くなっているみたいで安心した。


「おはよ。朝ご飯持ってくるけど、パンかご飯どっちがいい?」


「ん……パンで」


 まだ少し寝ぼけているのか返事がふにゃふにゃだ。

 どうやら西園寺は寝起きが弱いらしい。昔はそんなことなかったのにな。


「分かった」


 俺はご飯をとりに下に降りるのだった。



「……パンってメロンパンでよかったか?」


 食事を持ってきたはいいが、西園寺は何も喋らない。黙々と手を動かしてパンを口に放り込むだけだ。


「あぁ、これでいいよ。ジュースもありがとな」


「……あー、今日なんだけどどうする? 母さんにはの方は俺が説得するし、今日も泊まって行っていいんだぞ? ゲームだってたくさんあるし、時間を潰すのには困らないと思うぞ」


 朝も母さんには帰すように念を押されたが、西園寺を1人にするわけにはいかないしな。


「……それなら必要ない」


「でもそうなったらお前は1人で」


「言うよ」


 西園寺が俺の言葉に被せてきた。


「言うってなにを?」


「俺の家族に……こうなったって」


 西園寺の瞳には強い意志が感じられた。


「言うつもりがないって言ってたのにどうして……」


「昨日、千尋に会っただろ。このままじゃいけないと思ったんだ。家族も心配してるだろ? だから言う事にした」


「そっか。そう決めたんならそれがいいと思うよ」


「おう。ありがとな! 色々と。冬馬がいなかったら俺」


「それは何回も聞いたって。それにまだ終わってないだろ? 俺も付いてくよ。おばさん達に報告に行くの」


「そこまでしてもらうなんて悪いだろ? ……なんつーか、冬馬にはたくさん助けられできたわけだし」


 そう言いながらも西園寺はずっと震えていた。

 1人で行くのが怖いのだろう。


「なーに言ってんだ。俺達、3歳からの仲なんだろ? 今更水臭いこと言うなって。それに言うだろ? 遠足は帰るまでが遠足って……ここまできたんだ。最後まで付き合うよ」


 自分で言っててすごい臭いこと言ってるような気がして、それを誤魔化すようにオレンジジュースを一気飲みした。


「……ありがとう」


 西園寺が俯いたせいで表情が見えない。


「だから聞き飽きたって……」


 俺はそれを聞きながらパンをちぎって頬張るのだった。



「いいんだな?」


 昼前、ご飯を食べてすぐに俺と西園寺は西園寺家の前に来ていた。

 相変わらずでかい家だな。庭にプールがあるって金持ちかよ……金持ちだったか。


「ああ、頼む」


 その言葉を聞いた俺はピンポンを鳴らした。


『……はい、冬馬くん? どうしたの?』


 おばさんの声がインターフォン越しに聞こえてきた。


「あー、その……西園寺の事で話があって」


『ッ!? 待ってて! すぐに行くから!』


 ブチっと通話が切れる音が聞こえたと思ったら金髪の巨乳美人がおっぱいを揺らしながら走ってきた。

 彼女の名前は西園寺エミリさん隣にいる西園寺の母さんだ。


「冬馬くん! 誠の事で何か分かったことがあるの!?」


 そしておばさんは俺の肩を掴んで揺らし始めた。


「は、はい。この子が関係あるんですけど……な、中で話せませんか?」


 目が回りそうになりながらもなんとか話を伝える。

 そして横の西園寺に気がつくとようやく手を離してくれた。


「え……この子が?」


「は、はい。できれば家族全員で話したほうがいいと思うので……」


「……分かったわ。ついてきて」


 俺と西園寺は互いの顔を見て頷いてからおばさんの後に続くのだった。



「ここで待っててちょうだい。すぐに尊さんとクロエを連れてくるから」


 通されたのは客間のような場所だった。

 初めて通された部屋だが、やっぱり広い。俺の部屋2部屋分はありそうだ。


「大丈夫そうか?」


 どこか上の空になっている西園寺に声をかける。


「あ、ああ。ちょっと家を開けただけなのにこんなに懐かしく感じるなんてな……自分でも少し驚いてるよ」


「にしても本当にでかい家だよな。部屋だけでどれだけの広さあるんだよ。……そういえば、マルスはどこにいるんだ?」


 マルスというのは西園寺の家で飼っているゴールデンレトリバーの名前だ。

 小学生の時はよく庭にいたから一緒に遊んでいたのに、今日はいなかった。


「この時間だったら部屋にいるんじゃないかな」


「部屋?」


 リビングにいるってことだろうか?


「あぁ、ちょうど冬馬の部屋くらいの大きさで……あっ」


 そこまで言って自分の言ったことの重大さに気づいたかもしれないがもう遅いぞ。

 俺の尊厳はボロボロだ。


「ん……気にしてないけど……」


 とはいえここでショックを見せたら俺が傷ついた姿を見せたら負けたような気がする。


「そ、そのマジでごめん」


「平気だし……あつっ!?」


 気にしてないふりをして、出されたお茶を飲んだらすごい熱かった。


「お、おい……」


 西園寺は心配そうに俺の肩を持つがその優しさが逆に辛い。余計なこと聞くんじゃなかった。


 そんなことを考えていると足音が近づいてきた。


 扉が開くと顔面だけで人を殺せそうな威圧感を持った髭を生やした大男がいた。彼の名前は西園寺尊、西園寺の父さんだ。


 久しぶりに会ったけどやっぱこえぇぇ!!


「久しぶりだね! 冬馬くん! 話はエミリから聞いたよ! 誠のことで話があるそうじゃないか!」


 そしてめっちゃ気さくぅぅぅー!!


 この人に会うと毎回脳がバグりそうになる。今も笑顔で話しかけてくれる。

 この顔なのに性格は滅茶苦茶フレンドリーなのだ。


「お、お久しぶりです……」


「どうした? 緊張しているのか? 僕の顔が怖いからかな? なんちゃって。がははは!」


 豪快な笑い方してんじゃねぇ! しかもなんちゃってじゃねぇよ! アンタの顔はちゃんと怖いんだよ!


「ははは……」


「パパ邪魔。ッチ、オタクがお兄ちゃんの事で知ってる事があるって言うから来たけど嘘だったら許さないから」


 そしてその後ろから現れた目つきの悪いツインテール美少女の名前は西園寺クロエ。西園寺の妹だ。


 何故か俺は西園寺の妹には昔から嫌われている。何かをしたわけじゃないのに。辛い。

 ちなみに西園寺妹のおっぱいは小さい。でも多分いつかきっと、立派になるだろう。


「こら、クロエ冬馬くんにそんな事を言ったらいけないだろう?」


「別にいいの。オタクに人権なんてないんだから!」


 そんな事を言いながら正面の椅子に座るクロエ。


 昔から言われているので、暴言は慣れていると思ったがやはりきつい。


「ごめんね。この子ったら冬馬くん以外には優しい子なんだけど……」


 おばさん……そのフォローは俺を傷つけるよ。


「や、大丈夫ですよ。慣れてるんで」


「オホンッ。それで誠の事で話があると言っていたが何か分かったのかい?」


 全員が俺の正面に座るとおじさんが咳払いをして本題に入ってきた。


「はい。今から言うことはおじさんやおばさん。西園寺妹を馬鹿にしてるわけじゃないです。それは分かってください」


 クロエのことを西園寺妹と呼んでいるのは理由がある。昔クロエと呼んで金的されたからだ。

 それ以降は怖くて西園寺妹と呼んでいる。


「分かった」


 おじさんがそう答えるとおばさんは頷いた。クロエは反応しないが、まあいいか。


「……俺の横にいるのが西園寺誠です」


 するとみんながぽかんとした後おじさんが俺を睨んだ。


「それは……どういう意味だい?」


「ひっ……」


 やべぇ。こえぇぇぇ!


「本当なんだよ。お父さんお母さん、クロエ。俺が……西園寺誠なんだ」


「オタク! アンタ適当言ってんじゃんないわよ! お兄ちゃんが女の人な訳ないでしょ! 殺すわよ!」


 2人がぽかんとする中クロエが俺に飛びかかってきた。


「ちがっ、嘘じゃないんだって!」


「クロエ! やめろ! 俺の顔を見てみろ! そっくりだろ?」


 クロエを引き剥がして西園寺が無理やり顔を自分へ向けさせた。

 兄妹というだけあって顔は似ている。だからクロエも混乱しているのだろう。


「う、嘘……嘘よ……そんなの、ありえないじゃない!」


 俺もそう思ってた。


「でも、本当なんです。西園寺しか知らないことを聞いてみてください。全部答えれますから」


 俺がそういうとおじさんにおばさんクロエが質問をし始めた。

 そして西園寺はそれに的確に答えていった。ようやく落ち着いてきた3人に西園寺は起きたことを語り始めるのだった。



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