第9話 再会

 ジュースも飲み終わり、俺達は西園寺が寝かされていたという公園に来ていた。

 小さい公園なので、監視カメラもない。犯人達は目撃者にも細心の注意を払っているだろうし、ここに来たのは無意味になりそうだ。


「何か分かったか?」


「いや……」


 本当に時間の無駄だった。

 空を見ると茜色に染まっている。スマホを取り出し時間を見ると17時だった。


「……帰るか」


 少し悩んだ末出した答えはこれだった。

 ここに居ても何かが見つかるわけじゃないし。仕方ない。


「分かった……今日は色々ありがとな」


 歩き出してすぐにまた感謝された。

 ジュースにも書いていてくれたし、何回も感謝してくれるがなんか逆に申し訳なくなってくるな。


「気にしなくていいよ……そういえばお金の方は大丈夫なのか? 結構使ってたみたいだけど……」


 昼代は俺が出したがジュースや服は全部西園寺が払っている。

 小遣いがもらえない状況では結構厳しいだろう。


「もうほとんどなくなったよ。口座に入ってる金を下ろせたらいいんだけどなぁ」


「え? 口座なんて持ってんの?」


「それくらい普通だろ? 貯金とかした事ないのか?」


 普通なのか……金持ち恐るべし。貯金はしたことあるけど100均の貯金箱にお金を入れているだけだ。

 銀行口座を作っだことなんてない。


「した事はあるけど口座は持ってないな」


「へー、意外だな。冬馬は貯金しないタイプだと思ってたんだけどな」


「財布の中の1円玉とか邪魔じゃん? それを貯金箱に入れたりしてるんだよ」


 すると西園寺はガクッと体制を崩した。


「それ貯金って言うのか?」


「言うんじゃね? 知らんけど」


 そんな話をしながら歩いていると目の前に見知った顔があった。

 日向千尋。西園寺の彼女だ。昨日会った時よりも更にやつれている気がする。


「ッ!?」


 そんな日向さんを見て驚いている西園寺だが、自分から声を掛けれないからもどかしいだろう。

 向こうも俺に気づいたようで近づいてきた。


「こんにちは……というには微妙な時間ね。平くん」


「あー、そうだね。日向さんと会うなんて思ってもなかったよ」


 西園寺は横で心配そうな顔をしているが、声は出していない。そして日向さんは西園寺を見た後、俺を軽く睨んだ。


「幼馴染が行方不明になったというに随分と楽しんでいるみたいね」


 どうやら怒っているらしい。昨日あんなことを言った奴が異性と遊んでいたら怒りたくなる気持ちもわかる。


 でも、俺の幼馴染は見つかったのだ。そして今も隣にいる。けれど馬鹿正直に言うわけにはいかない。これを伝えるのは西園寺の役目だ。


「や、今日も探してんだよ?」


「女の子を連れて?」


「……実はこの子西園寺の従姉妹なんだよ。遠い所に住んでるんだけど、行方不明になった西園寺が心配でこの休みを利用してこっちに来てくれたんだよ」


 ナイス俺! この土壇場で天才的な言い訳を思いつくとは何かの才能あるんじゃないか!?


「誠くんの従姉妹? そんな話聞いたことないのだけど……」


「聞いたことなくてもおかしくは無いだろ? 従姉妹の事なんてわざわざ言わないって! ほら、この子の目元とか西園寺にそっくりだろ?」


「……本当ね。驚いたわ」


 同一人物だからね。当然だよな。


「……初めまして西園寺まことです。誠とは名前が一緒ですけど私はひらがなでまことって書きます」


 複雑な表情を浮かべながら自己紹介をする西園寺。今の俺には想像もできないくらい複雑な心境なのだと思う。


「まことさん……初めまして誠くんの彼女の日向千尋です」


「よろしくお願いします! 千尋、さん」


 そして静寂が訪れた。

 今の西園寺が自分からしゃべる事はないだろう。とはいえ、俺が日向さんと話すってなったら西園寺がどこに行ったかという話になるだろう。

 その話を聞いて西園寺のメンタルが持つか心配だし、適当に会話してさっさと帰ろう。


「あ、あーそっちは手がかりとか見つかった?」


「全くダメね……ただ全国的に最近誘拐が増えているらしいわ」


「誘拐が増えてる?」


 全国的に誘拐が? まさかこの件と関係あるのか? いや、だとしたら性別が変わりました! って人がメディアに出てもおかしくないはずだ。


「えぇ、誠くんも変な事に巻き込まれてないといいのだけど……」


 滅茶苦茶巻き込まれてるんだよな……


「そうだね……」


 チラリと西園寺を見るとかなり苦しそうだ。


「ごめん。この後、まことがおばさん達とご飯を食べにいくらしくて時間がないから今日はこの辺で」


「あら、そうなの……引き止めて悪かったわね」


「大丈夫だよ。こっちで何か分かったら日向さんにも教えるよ。じゃあまた今度」


「えぇ、ありがとう。またね」


 俺は動かないでいる西園寺の手を引っ張って日向さんと別れるのだった。



「……落ち着いたか?」


 自分の部屋に戻ってくると西園寺の顔色はさっきよりかだいぶマシになっていた。


「あ、あぁ。心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ」


 どう見ても大丈夫ではない。


 とはいえ、こういう時に掛ける言葉を知らない俺はただ西園寺を見守るしかできない。


「……千尋のやつ。かなりやつれてたよな」


「お前のことをずっと探してるらしい」


「どうしたらいいんだよ。俺……」


「……今日は泊まっていいって言われてるし一晩一緒に考えよう。そしたら何かいい案が浮かぶかもしれないだろ?」


「そう、だな……」


 そうは言ったが一晩中、西園寺は暗い顔をしていてまともに話すことができなかった。

 

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