第7話 デート
「結局謎が深まるだけだったなぁ」
「まあ仕方ないと思うぞ。元の話がぶっ飛んでだからゆっくり手掛かりを探していくしかないよ」
バーガーショップに入った俺達は食事をとりながら話し合う。
女体化なんて話ちょっと調べたくらいで何かが分かるとは俺だって思っていない。
「そうだよな……」
「その為にもまずは服とか買わないとな」
今の西園寺はズボンは俺のジャージに上着はTシャツ一枚だ。昨日からサイズの合わないブラジャーもしてないし。
「…………」
不服そうだがこればかりは仕方ない。
お金があるのは確認済みだし、それでなんとかしてもらうしかない。俺の金? このバーガーで完全に消失してしまったよ。後で母さんに前借りできるか聞いてみよう。
「じゃあ冬馬の服も一緒に買おうぜ」
「金がないから無理です〜」
「なんで威張ってんだよ。分かったよ、行けばいいんだろ。行けば」
「おう。じゃあ俺はここで待ってるから買い終わったら戻ってきてくれ」
ここなら時間も潰せるし、歩かないでいいし最高だ。
イヤホンも持ってきてるし、アニメでも見ようかな?
「は? 冬馬も付いてくるんだよ」
「いやいや俺が行っても仕方ないだろ。女子の服とかよくわかんないし……」
同年代の女子の私服なんか見たことがない。
俺が見たことあるのは制服の姿だけだ。あれ? 自分で言ってて心が痛いや。
「俺だってよくわかんねぇよ! ほら、旅は道連れ世は情けっていうだろ! な?」
「えぇ……」
俺が居たところで邪魔にしかならないと思うんですが。
「じゃあ飯食い終わったら行くぞ!」
「お、おう……」
あまりの気迫に了承してしまうのだった。
「確かこの店が結構いい服置いてたんだよな」
西園寺に連れてやってきた店はなんと言うかおしゃれだった。俺が生涯で入ることはないであろうトップ10には入るだろう。
「なんでそんなの知ってるんだ?」
「女子の間では割と有名らしいぞ。千尋とも何回か来たことあるし」
「……聞くんじゃなかった」
「なんでだよ!」
惨めな気持ちになるからだよ! って言ったら余計惨めだもんなぁ。
「で、入るのか?」
「当たり前だろ。ここまで来たんだしとりあえず2着分くらいは欲しいな」
「そっすか」
何の躊躇いもなく店に入っていく西園寺の後ろを追いかけて俺も店に入るのだった。
「いらっしゃいませー」
店はそこそこ広く、客や店員もかなりいるみたいだ。流石人気というだけはある。
「おっ、これなんかいいんじゃね?」
そう言いながら手に取ったのは異様に胴の部分が短い白色のパーカーだった。
「それ短くね? パーカーなのにヘソだしになるんじゃね? もしかして設計ミス?」
パーカーといえばあったかい服のイメージがあるけどヘソを出したら服の利点を潰しているような気がする。
「んなわけ無いだろ。それがいいんじゃねぇか。んで、あとはこの服似合うように……」
買うと決めたのかパーカーを手に取りキョロキョロとあたりを見渡し始めた。
「お客様何かお探しですか?」
そしてその隙を見計らったようにメガネをかけた店員さんが声をかけてきた。
うわっ、出た。服屋で店員さんに声かけられるとか1番最悪なパターンじゃん。
なんか買わないと申し訳ないし、思っても無いようなお世辞ばっか言うから苦手なんだよな……
「はい! この服に似合うパンツを探してるんですけど……」
は? パンツ? パンツは関係ないだろ?ズボン履いたら見えなし。
「お客様スタイルがいいですからこの服似合うと思います! せっかくでしたらお客様のスタイルの良さを活かしたいので足を出す感じにして……これなんてどうです?」
そんな事を考えていると店員さんは細めのズボンを持ってきた。
パンツってズボンのことなのね……
「いいですねー! あと下着とかも探していて、いい感じのものありますか?」
店員さんがこちらを見た。
「彼氏さんもこんな可愛い彼女がいて羨ましいですねー!」
ん? 彼氏? 俺に言ってんのか?
「あの、俺彼氏じゃないんですけど……」
「そうですよ! 違いますよ!」
だって今の西園寺はこんなのだが、元はイケメンで彼女もいるんだぞ。
「えっ!? そうなんですか? すごく仲良さそうにしていたので意外です!」
「幼馴染なのでそう見えただけですよ!」
「えぇ? でも付き合ったら絶対上手くいきますよ! 私そういうの見る目があるんです!」
「冬馬はいい奴だけどそういう対象には見れないですよ! ほら、服選びに行きましょ!」
「本当ですか? お客様もとてもいい笑顔でしたよ」
と会話をしながら2人は店の奥に行ってしまった。
……やっぱり俺いらなかったじゃん。仕方ない。店の物でも見てるとするか。
あれから少し時間が経ったのだが、他のお客さんからの視線が痛い!
そりゃそうだよな! 女性服しか置いてない店に男がいたら事案だよな!
「冬馬! お待たせっ!」
行き場のなくなった俺は外に出ようか悩んでいると声をかけられた。相手は西園寺だ。
どうやら新しい服を着ているみたいで、最初に手に取っていたパーカーと黒色のズボンそしてロゴのついた帽子を被っていた。よく見たら靴も違う。
「お、おぉ」
服装だけでかなり雰囲気が変わった。そんな雰囲気の違いに戸惑いつつもなんとか返事をする。
「服も買えたし、出ようぜ」
「わ、分かった」
「ありがとうございましたー!」
俺はオドオドしながらも西園寺の後を追うのだった。
「あー、荷物持つぞ?」
西園寺はでかい袋を2個ほど持っていてあるきずらそうだった。
多分その中に前着ていた服とか新しく買った服が入っているのだろう。
「えっ、いいよ。悪いし。これくらい楽勝だよ」
とは言うがやはり歩きづらそうだ。
「はぁ、いいからかせって。その体にまだ慣れてないんだし、無理しなくていいんだぞ?」
俺は無理矢理袋を奪い取った。
意外と邪魔だな。西園寺が歩きづらそうにしていた理由もわかる。
「……あんがと」
「どういたしまして」
「…………」
普段ならよく喋る西園寺だが、何故か黙ってしまっている。さっきまで上機嫌だったのに何でだ?
あっ、服についての感想を言ってなかったからか。
「その服結構いいんじゃないか? 今の西園寺はスタイルもいいし似合ってると思うぞ」
普通の女子にはこんなこと言えないが、相手は西園寺だ。そこまで気負う必要はない。
西園寺のファッションは何回かかっこいいと言ったこともあるし、その延長線上だ。
「冬馬に褒められても嬉しくねぇよ!」
何故か怒られてしまった。
「……そうだ! あの店のフルーツジュースが美味いんだよ! 買ってきてやるから近くのベンチで待っててくれ!」
また黙ったと思うと突然そんな事を言い始めた。
「あっ、おい……」
そして俺の静止も聞かずに長蛇の列に並んでしまった。
「……はぁ」
仕方ない。確かここから少し行けば、ベンチがあったはず。そこで待ってる事にするか。
「……遅い」
ジュースを買ってくると言ってからはや20分が経とうとしていた。
仕方ない。一度戻って西園寺の様子を見てみるか。
「……居ない」
というわけで列を見てきたのだが、西園寺がいない。
……トイレか? いや、だとしたら飲み物は届けに来るはずだ。じゃあなんで? ……まさか! また誘拐されたのか!?
次、犯人に捕まえられたら何をされるか分かったもんじゃない。もしかしたら殺されるなんて事もあるかもしれない。
「……冗談じゃないぞ」
俺は西園寺を見つける為に走り出したのだった。
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