第6話 捜査
「……んんー、朝か」
目を覚まし窓から空を見るともう朝になっていた。
どうやら地獄の100年モードの途中で力尽きてしまったらしい。
先に寝落ちした西園寺はすぅすぅとベッドの上で寝息を立てている。
ゲームを切って西園寺を起こさないように部屋を出る。
今日は幸いなことに土曜日だ。学校がないから1日、西園寺が女体化になった理由を調べることができるだろう。
昨日西園寺が寝落ちしてからゲームをしながら調べてみたがやはり女体化のことはどこにも書かれていなかった。
ラノベや漫画くらいしかいくら調べても出てこなかったのだ。
「おはよ、今日は珍しく早いじゃない」
リビングに行くと母さんが声をかけてきた。
父さんの姿はない。仕事に行ったのだろう。
「おはよー。そんなじゃない?」
時計を見ると10時だ。普段は昼前まで寝ているから普段より少し早い程度だ。
「まことちゃんは?」
「まだ寝てるよ」
「そうなの。……まことちゃん大丈夫なの?」
さて、なんで答えるか。正直に話すわけにはいかないだろう。
「正直大丈夫ではないかな。でも本人もそれは分かっているみたいだし、できたら……」
ついでにもう少し家に泊めることができないか交渉してみよう。
「……はぁ。今週だけよ。月曜日からは学校が始まるんだからそれまでだからね」
理解のある母さんで助かった。
「ありがとう助かるよ」
「で、朝ごはんはどうするの?」
「んー、外で昼と一緒に食べるからいいや」
「分かったわ」
俺はペットボトルの水を2本ほどとって部屋に戻るのだった。
「んっん……」
部屋に戻ってスマホゲームのログインボーナスとかを終わらせていると西園寺が目を覚ました。
時刻は11時を回ろうとしていた。死んだように眠ってたし、疲れていたのだろう。
「おはよう。よくねむれたか?」
「んー、とうまー? おはよー?」
寝起きのせいかとてもふにゃふにゃしている。
相変わらず可愛いが昨日で少しは慣れた。これから西園寺と関わっていくならもっとこの可愛さになれる必要があるな。
目を擦って伸びをして段々と意識がはっきりしたのか顔がシャキッとし始めた。そして下を向くと何故かしょんぼりとしている。
「何してんだよ」
「おっぱいがあったからまだ男には戻れてないんだなって」
そういう確認の仕方なのね……
「……母さんが今日も泊まっていいって言ってたぞ」
暗い雰囲気の西園寺を元気付けようといい報告をしたつもりだったが、余計に雰囲気が暗くなってしまった。
しまった。こいつのことだから責任感じているのだろう。
「あー、これから外行かないか? 俺も事件があった場所を見ておきたいし……その、服とか下着も必要だろ?」
「……やっぱりこれ以上は」
「前も言ったろ? このままお前を放り出す方がしんどいって。俺が逆の立場なら西園寺はどうしてた?」
「そりゃ勿論助けるさ!」
「だろうな。だから俺の気持ちも分かってくれ」
「……分かった。それとありがとう」
「昨日から何回も聞いてるよ」
「そう、だな……」
力なく笑う西園寺の顔が変に印象に残るのだった。
「で、ここが意識をなくした場所なのか?」
「あぁ、千尋と別れてこの道をまっすぐ歩いていたら突然、後ろからやられたんだ」
案内された場所は住宅街の間にある一本道だった。
今は車がたまに通っているが、夜だと全く通らなくなるだろう。
辺りを見渡すが男1人抱えて運ぶにはかなりリスクのある道だ。
「気を失う寸前に車の音とか聞こえなかったか?」
そうなると車を使うのがベストだろう。
気絶させて、そこを車で回収する。漫画なんかじゃよくある話だけどそれが1番現実的だ。
「……んー。車の音は特に聞こえなかったような気がするな」
車の音が聞こえなかった? ってことは気絶させた西園寺を抱えて移動したってのか?
そんなことありえないだろ。なら複数人での犯行か? 1人を先に行かせて気絶させたところを後から仲間が回収した。
これが1番現実的か。そもそも相手は性別を完全に変えることができるのだ。個人とは考えずらい。
もう一度辺りを見ると家の前にカメラをつけている家があった。
あの角度ならここが写っているはずだ。ちょうど車は止まっているし、家にいるかな?
「なんか分かったのか?」
「あの家、監視カメラがついてるみたいだ。録画を見ることができれば犯人がわかるかも」
「本当だ! スゲェよ冬馬! 俺がここにきた時は何にもわかんなかったのにすぐにヒントに辿り着いちまうなんてまるで名探偵だな!」
すっごいキラキラした目で俺を見る西園寺。
「そ、そうか?」
そして満更でもない。ここまで純粋に褒めてもらえたのいつぶりだろう。
「早速行こうぜ! あの家の人に聞いたら何か分かるかも!」
「そうだな」
俺たちには家の前に移動してチャイムを鳴らすのだった。
『はい。どちら様ですか?』
チャイムを鳴らして少しすると女性の声が聞こえてきた。声も若くないし、おそらくこの家の奥さんだろう。
「あー、その……突然すみません。実は聞きたいことがありまして」
『……なんでしょうか?』
何故か警戒レベルが上がったような気がする。
西園寺の方を見るとやれやれと言った様子だ。
「急にごめんなさい! 実は私達の友達が行方不明になってしまってこの家の監視カメラに何が写ってないかなって思って訪ねさせて貰ったんです!」
俺で話にならないと思ったのか横から西園寺が助け舟を出してくれた。
『あら、そうなの? ちょっと待ってて。今出るわ』
「ありがとうございます!」
うっそーん。そんなに簡単に出てきてくれるの? これも西園寺の力か?
「……冬馬怪しすぎ。もうちょっとシャキシャキ喋れよな」
「……返す言葉もございません」
あっ、とかあーとかそのっていうのが口癖になってる自覚はあるが、なかなか直すことができないのだ。
そうこうしていると玄関が開いた。
「こんにちは! 突然の訪問ごめんなさい」
すると向こうが話すよりも先に西園寺が口を開いた。
「いいのよ。それでお友達が行方不明になったのよね?」
玄関から出てきたのはいかにも若奥様って感じの人だった。
「はい! 1週間ほど前に行方不明になって私達はその友達の足取りを追ってるんですけど、どうやらここを通ったらしくて……
そんな時にあの監視カメラを見つけたのでよかったら見せてくれないかなと思って訪問したんです」
「やっぱり」
「やっぱり?」
どういう意味だろう。
「1週間くらい前に警察の人が行方不明になった子がいるから監視カメラを見せて欲しいって訪ねてきたのよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。だから行方不明になった子の関係者たちかなって思ったの」
「そのデータって俺達も見ることできます?」
「ごめんなさいね。警察がデータを持って行っちゃったから映像が残ってないのよ」
「そうなんですか……分かりました。わざわざありがとうございました」
露骨にガッカリする西園寺だが気持ちは分かる。
「うん。力になれなくてごめんなさいね。お友達早く見つかるといいわね」
「ありがとうございました」
俺達がお礼をすると若奥様は家の中に戻って行ってしまった。
横を見ると明らかにテンションが下がっている西園寺の姿があった。
「そう落ち込むなって。少し気になることもあったし」
「……気になることってなんだよ?」
「歩きながら話そう。時間もいい頃合いだし、腹も減ってきただろ?」
「……あぁ」
西園寺は自分のお腹を摩ると俺の横に並んで歩き始めた。
「で、気になることってなんなんだよ?」
「まあ、これは俺の思い違いかもしれないしあまり鵜呑みにするなよ」
自分の推理に自信がないのでできるだけ保険をかけておく。
「勿体ぶらずに教えてくれよ」
「……警察もグルかもしれない」
「はぁ!?」
俺の言葉に大きな声とリアクションで反応してくれる西園寺。
こんないい反応がもらえるなら将来、名探偵になるのもいいかもしれない。
「声が大きいって。……あの人が言ってたことが本当なら1日から2日であの監視カメラに辿り着いたことになるだろ?」
あの人は1週間ほど前に警察が来たと言っていたそして西園寺がいなくなったのが9日ほど前だ。
「それがなんだってんだよ」
「俺達は西園寺があそこで気を失ったって確証があったからすぐにあの家に辿り着いたけど、警察はそうじゃないだろ?
一から捜査してあそこに辿り着いたんだ。いくら警察が優秀だって言ってもそんな短時間であの家に辿り着くことはできるのか?」
「俺の家と千尋の家にある道だったからじゃないか?」
「道が一本だけならそれも分かるけど道はここだけじゃないだろ?」
「でも、千尋を送った時もこの道を使って送ったし1番可能性のある道じゃないのか?」
「確かにな」
そう言うと西園寺が体制を崩した。
「なら別にグルでもなんでもないじゃねぇか!」
「でもさ。性別を変えるってそんな簡単にできるものなのか? むしろ国が関わってるって言われた方が納得できることないか?」
「それはそうかもだけど……あー!! 聞いて損したぜ! 考えすぎて頭おかしくなりそうだ。とりあえず飯食ってまたそれから考えようぜ」
キャパオーバーになってしまったのか西園寺は頭を掻きむしりながらそう言った。
でもまあとりあえず食欲は普通に出てきているみたいでよかった。
そう思いながら少し前に行った西園寺を追いかけるのだった。
あとがき
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