第5話 もう一騒ぎ
「えーっと、ジャージどこにしまってたかなー?」
ご飯を食べ終わった俺は、西園寺が着る用のシャツとジャージをタンスから探しているのだが、なかなか見当たらない。
「うわっ、黒い服とばっかじゃん……冬馬は黒好きなの?」
いつのまにか横に来ていた西園寺がタンスの中の服を見て少し引いていた。
「好きっていうか……無難だろ? 変に目立つこともないし、おかしくもならないし」
服とズボンの合わせ方とかよくわからないしな。変に冒険して失敗するくらいなら黒で統一した方がおかしくないと思う。
「まあ確かにそうだけどよぉ、オシャレしないとモテないぞ?」
「って言われても俺がオシャレしても変になるだけだって。素材が悪いといい服着てもおかしく見えるもんなんだって」
ネットなんかで同じ服着たのにどうして? みたいな投稿をいくつも見たことある。
「そんなことねぇって! 冬馬は身長もあるし大丈夫だって! なんなら今度一緒に服見に行こうぜ! 俺がコーディネートしてやんよ!」
これ断っても無理矢理連れていかれるやつだな……
「……全部終わってからな」
まあでも今はもっと集中すべきことがあるだろう。西園寺のこれからの事だ。
「……おう、約束だぞ」
「あ、あった。はい、これが服な」
足の裾とか合わないかもしれないけどそれは我慢してもらおう。
「あんがと」
「下着とかは母さんが用意してるみたいだし、風呂場まで案内するよ」
「昔来た事あるし、大丈夫だぞ?」
昔、西園寺は俺の家で何回か風呂に入ったことがある。俺も西園寺の家で入ったことあるし。それだけ昔はよく一緒にいたのだ。
「馬鹿、それだと母さん達に怪しまれるだろ」
「……そっか。それもそうだな。頼む」
俺達は部屋を出て風呂場に向かうのだった。
「で、これがシャンプーでこっちがトリートメント。あっ、ボディーソープとかないからこの石鹸で体は洗ってくれ」
「オッケー、洗顔剤は?」
「洗顔剤? 顔なんかシャワーで流して終わりだけど?」
そういうと西園寺はドン引きしたような顔になった。
「は?」
「え?」
なんでこんな驚いてんの?
「冬馬は洗顔しないのか?」
「だからシャワーを顔にかけるんだって」
おかしい会話が通じない。
「ごめんね〜。うちの子そういうの無頓着だからまことちゃんは女の子だから必要よね。あそこにあるのが洗顔用の石鹸だからアレ使ってね」
そんな話をしていると母さんがひょこっと現れた。何をしに来たのかと思っていると下着を持っていた。
「……今時、男でもしてない方が珍しいと思うんですけど」
すっごいジト目で西園寺から見られている。
「アハハ! だらしない子だからもっと言ってあげて!」
何故か母さんは上機嫌だ。俺の味方はどこだよ。
「俺のことはいいだろ! じゃ、風呂出たら上がってこいよー」
部屋に戻ろうとすると西園寺に服を掴まれた。
「……………」
パクパク口を動かして1人じゃ無理だ! と伝えてくるが、俺にはどうにもできない。
「まことちゃん。もしかしてこの子と一緒にお風呂入ろうとしてんじゃないでしょねー! 若いからってダメよー! 家でそういうことしたら追い出しちゃうわよ!」
冗談っぽく怒る母さん。
もし西園寺が女子ならとんでもないセクハラだぞ。でもまあ今は流れに乗るか。
「そうだぞー? そんな子を家にあげた覚えはありません! ということで部屋に戻ってるわ」
口をパクパクさせながら顔を赤くしている西園寺を横目に俺は部屋に戻るのだった。
「……ただいま」
「……………」
戻ってきた西園寺に見惚れてしまった。
ボサボサだった髪は艶を取り戻しており、血色の悪かった肌も風呂に入って血流が良くなったおかげかほんのりと赤くなっていて、ハリがある。
何より顔だ。1000年に1人の美少女と言われても疑えないレベルの美少女だ。風呂を入る前の西園寺とは思えない。
「どうしたんだよ?」
ぼけっとしているとおっぱいで普段よりもギチギチになっているドラファンの人気モンスタースライムがいた。
「うわぁ!?」
「ん? そんなに驚くことないだろ?」
西園寺が顔を覗き込んできた。
「ふ、ふふふふふ! 風呂入ってくる! いてっ! 誰がこんなところにコントローラーを!」
目と鼻の先に西園寺の顔がきたせいで恥ずかしさのあまりすぐに西園寺から離れて風呂に向かうのだった。
「あれは西園寺、西園寺、西園寺、男だぞ。それも憎むべきイケメンだ。一瞬でも見惚れるなんて俺の馬鹿。しかもあいつは困ってんだぞ。それなのに俺は何やってんだ」
冷水にしてシャワーを頭をぶっかけながら壁に頭を打ちつける。
興奮してる場合じゃない。そんなことを分かっていても、女の子経験ゼロの俺には難しい話だ。
現にJr.が普段より元気いっぱいだ。
「冷静になれ平冬馬ここがお前の正念場だぞ」
それからしばらく水を浴びるのだった。
「っへくしゅん! うぅ、寒い」
部屋に戻る時にはすっかり俺の体は冷え切っていた。
今日は自分の戒めとして最後まで水で体を洗ったのだが、失敗だったか?
「お、おかえり……風呂入ってきたんだよな?」
「そうだけど?」
「なんで寒がってんの?」
至極真っ当な質問だ。
「戒め、かな」
「意味わかんねぇよ! 大丈夫か?」
そう言って心配そうに近寄ってくる西園寺。
あっ、いい匂い。
「じゃない! 何考えてんだ俺!」
俺は壁に思いっきり、頭を打ちつける。
「冬馬!? ……本当に大丈夫なのかよ」
俺の奇行を見て心配とジト目の混ざった表情で見てくる西園寺。
その視線すら可愛く思えてしまう、俺の頭はとうとうおかしくなってしまったのか。
「……大丈夫だ、問題ない」
「それ絶対ダメなやつだよな!?」
「……ゲーム」
「え?」
「ゲームをしよう。そうしたら俺も目が覚めるはずだ」
俺が好きなこと、ゲームをすれば多少はマシになるだろう。それにゲームに集中すれば西園寺のことも気にならなくなるはずだ。
「なにから!?」
「いいからやるぞ! やりたかったんだよな!?」
俺は有無を言わせない勢いで準備を始めるのだった。
「……はぁ、はぁ。また貧乏神に取り憑かれちまった」
やっているゲームはピーチ列車全国を駆け巡って物件などを買って資産を増やすゲームなのだが……
「……そうだな」
「なぁ、はぁ……さっきからそんな相打ちばっかじゃん。ちゃんと話聞いてくれよー!」
ブチっと俺の頭の中で何か弾けた。
「なぁんでさっきからはぁはぁ息切れしてんですかね! こちとらゲームに集中したいのに、色っぽい声出しやがって! 新手の妨害作戦なんですかね!?」
ゲームが始まってすぐに西園寺の息が荒くなったのだ。
こっちは西園寺が女である事実を忘れる為に始めたのに息遣いのせいで逆に頭から離れなくなった。
「その……ブラジャーが息苦しいんだよ」
「ならさっさと外してくれませんかね!」
ん? でも母さんが持ってきたサイズで合わないってことは母さんは西園寺よりもちい……考えるのはやめておこう。
「それが自分じゃ分かんないだよ。背中にあるし……つける時だってめちゃめちゃ苦労したんだからな。あっ……冬馬が外してくれよ」
そう言って背中を向けてシャツを脱いだ。
「ばっ!?」
その背中には男性的な特徴はなく、すべすべの肌に程よく引き締まったくびれが欲情を唆る。
「……頼む。俺ももう限界なんだ」
紛らわしいこと言うんじゃねぇ! そう思いながら覚悟を決める。
「いくぞ? いくからな?」
「あぁ」
髪をかき分けてブラジャーを見る。
多分このホックを外せばいいんだよな?
ホックを外そうと手を伸ばすと背中に指が触れた。
「ひゃん!?」
すると西園寺が体をビクッとさせた。
「へ、変な声出さないでくれますかね!?」
「わ、悪い。ちょっとびっくりして……次は大丈夫だ」
言い終わると深呼吸を始めた。
俺は深呼吸が終わったタイミングでホックを外す為に手を動かし始めた。
「ッ……息が……くすぐっ……」
くねくねと体を動かす西園寺の為にも早く終わらせてあげたいのだが、中々難しい。
なんで2箇所もホック部分があるんだよ。
「終わったぁ!」
なんとか外すことに成功した俺はガッツポーズを決める。
「はぁはぁ……ありがとな」
「……おう」
夜に男2人で何やってんだ……そんな事を思いながら俺は頷くのだった。
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