第4話 夜の一騒ぎ
というわけで自宅前まで戻ってきたのだが、足が止まってしまった。
俺はこの状況を親になんて話せばいいんだ? 友達が家に泊まりたいって言ったから泊めてあげようと思って! みたいなこと言えばいいのか?
いや、流石にそんな嘘すぐバレるよな。
男用の服を着ていて、ボロボロな女の子だしなんかあるって思われるよな……
「どうしたんだよ」
悩んでいると後ろから声をかけられた。無理矢理連れてきた事を怒っているのか、口調が荒い。
「いや、これから西園寺は家出したって設定でよろしく頼む。それと口調はできるだけ女の子っぽくお願い」
やっぱりこれしかないよな。親と喧嘩して家出って事にするしかない。
「……………」
無言は肯定って事でいいんだよな?
俺は意を決して玄関を開けた。
「た、ただいまー」
「……おかえりー! って、その子どうしたの!?」
家に入ると母さんが玄関先まで出迎えてくれた。普段通り挨拶をしてくれたと思ったのも束の間、すぐに西園寺の姿を見て驚いた。
「やー、その……友達が親と喧嘩して家出しちゃったみたいで、今晩だけでも泊めてあげれないかなーっても思いまして」
俺の言葉を聞いた母さんの目が鋭くなった。……やっぱダメか?
「アンタ、その子を無理矢理連れてきたわけじゃないでしょうね?」
そっちか! どうやら母さんは無理矢理俺が連れてきたと思っているみたいだ。
俺ってどれだけ信用ないの? でも無理矢理連れてきたのは事実だし、変なところで勘が鋭い。
「そ、そんなことないよー? 友達なんだし、困った時は助け合いが大事じゃん?」
「アンタが同年代、それもこんな可愛い女の子と仲良くしているところが想像つかないんだけど」
「信用なさすぎぃ! ちょっとは信じろよ! 息子だぞ!」
「だから信用できないんでしょうが! こちとらアンタを産んでからずっと見てきてんのよ!」
「ぷっ……あっ、ごめんなさい」
言い合いをしていると突然西園寺が吹き出した。
「えっと……」
母さんが西園寺の方を見て困った顔をした。
どうやら名前が分からないから困っているらしい。西園寺って言ったらバレるよな……
「お、私の名前はまことです。よろしくお願いします」
西園寺は頭を下げた。
まことってまんまお前の名前じゃん。下手な嘘をつくよりいい……のか?
「……まことちゃんって言うのね。よろしくね、それでこの子が言ってたけどご両親と喧嘩したの?」
一瞬、まことと聞いて暗い表情をしたが、すぐに普段通りに戻った。
西園寺の事を思い出していたのだろう。
「はい……その、色々あってお父さんと喧嘩しちゃって……勢いで家を飛び出してふらふらしていた時に偶然冬馬くんと会ったんです」
「ご両親はその事を知ってるの?」
「今日は友達の家に泊まるってさっき電話しました」
「はぁ……分かったわ。ただし明日にはちゃんと家に戻る事。まことちゃん約束できる?」
チラリと俺の方を見てから母さんは呆れたようにそう言った。
「はい、ありがとうございます」
ふぅ、なんとなったようだ。
話が終わると母さんはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。
「……冬馬、アンタ部屋汚いんだから綺麗にしてらっしゃい。その間、母さんはまことちゃんと話してるから」
絶対碌なこと考えてるな。
まあ相手は西園寺だしいいか。
「分かった」
俺はひと足先に部屋に戻り掃除を始めるのだった。
「……わぁ、昔のままだなぁ」
掃除を終えて西園寺を部屋に案内すると懐かしむように声を出した。
「それ、褒めてるんですかね」
「どっちだと思う?」
「聞いたら後悔しそうだからやめとく。んで、母さんと何を話してたんだ?」
「あぁ……冬馬のこと好きなの? とか。そんなことばかり聞かれたよ」
すると西園寺は遠い目をして答えた。
やっぱりか。
「その、なんかごめんな……」
「いーよ。寝る場所用意して貰ったんだから文句はねぇよ」
「そうか? あっ、携帯充電したからこれ使っていいからな」
2日と言うか1週間もの間携帯を充電できていないって考えたら地獄だ。
ログインボーナスとかも途切れそうだし、とにかく考えられない。
「携帯使ってないから必要ないぞ」
「え?」
「GPSとかで場所がバレるかもだろ? だから極力電源は落としてたんだよ」
「あっ、なるほど」
GPSでバレる心配がある携帯は電源を切っていた方がいいのだろう。
そんな話をしているとぎゅるるるととても可愛らしい音が鳴った。
犯人は俺じゃない。という事は……
「っ、あんまこっちみないでくれ……」
顔を赤くした西園寺の姿があった。
そして恥ずかしさのあまり上目遣いプラス涙目の西園寺と目があってしまい、俺は咄嗟に目線を外した。
「ご、ごめん……」
西園寺は男、西園寺は男、西園寺は男、西園寺は男、西園寺は男、西園寺は男……
目を閉じて男だった時の西園寺を思い出して精神統一をする。
「ど、どうかしたか?」
「いや? 下に行って食えるものがないか探してくる」
ふー、マジで危なかった。西園寺が男だという事を知らなかったら思わず好きになっていただろう。
そんな事を考えながら俺は部屋を後にするのだった。
「ご飯ってまだある?」
リビングまでやってきた俺は母さんに質問した。
「ごめん。母さん達がもう全部食べちゃったからないかも……あっ、カップ麺だったらあったはず!」
カップ麺を置いてある引き出しを開けると味噌味とシーフード味のカップ麺があった。
これでいいかと思い、お湯を入れて2人分の飲み物と箸をトレーに乗っける。
「それ食べ終わったら早くお風呂に入っちゃいなさい。勿論まことちゃんからよ! 汚れてたみたいだしあのままじゃ可哀想でしょ」
「あっ……さ、まことの服がないや」
「下着は母さんの新品があるし、服はアンタのジャージがあるでしょ。少しでかいかもだけどそれくらい大丈夫でしょ」
「それもそっか。りょーかい」
「……冬馬」
父さんが横から声をかけてきた。
そして目で頑張れよと語りかけてくるが、何を頑張ればいいんだよ。
そんな父さんをスルーし、トレイを持ち上げて部屋に帰るのだった。
部屋に帰ると西園寺がゲーム機を不思議そうに見ていた。
「何やってんの?」
「や、昔もこんなゲーム機置いてあっただろ? まだ昔のやつ置いてんのかなって思って」
「は? それ最新式だけど」
おかげで今年のお年玉は全て消えてしまったのだが、何と勘違いしているんだ?
もしかして昔置いてあった初代ステステと勘違いしているのか? もう時代はステステ5だぞ。
「え? そうなの? 久しぶりゲームやりたいなぁ! 昔みたいに勝負しようぜ!」
マジな顔して言う西園寺にドン引きだ。どんだけゲーム興味ないんだよ。
「後でな。それより先にこれを食わないと、それとこれ食い終わったら風呂入れってさ」
すると西園寺の顔がばふんと音を立てて真っ赤になった。
「どうしたんだ?」
「…………よ」
何を言っているか聞き取れないくらい声が小さい。
「俺、女の裸なんて見た事ないんだけどどうすればいいんだよ!」
その発言に俺の目は点になった。
こいつのことだからプレイボーイよろしくもう経験済みだと思っていたのだが、まさか未経験だったとは……
「……味噌かシーフードどっちがいい?」
「露骨に話を変えんじゃねぇ! シーフードがいい!」
俺にはどうすることもできないし、そこはすまんが全力でスルーさせてもらう。
「あっ、そう? じゃあ伸びる前に食べるか。いただきます」
「無視かよ! あーもう! いただきます!」
俺と西園寺はラーメンを啜り始めた。
西園寺は食欲があまりなかったと言っていたが、問題なく食べれているみたいだ。
「……なんだよ」
俺の視線に気づいたのか不満そうに麺を啜りながらこちらを見てきた。
「や、食欲ないって言ってたから心配でさ」
俺の言葉に西園寺は箸を止めた。
「……冬馬のお陰だな」
「え?」
「冬馬が俺の話を聞いてくれて、励ましてくれたから食欲が出てきたんだよ。その、ありがとな。冬馬が居なかったら俺、あのままあそこで死ぬまでじっとしてたと思う」
突然感謝の言葉を言われてフリーズしてしまった。
西園寺も臭いセリフを吐いたことに気づいたのか、その恥ずかしさをかき消すように麺を啜り始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます