第2話 再会

 その日の夜、家に帰った俺はモヤモヤした気分でスマホゲームをしていた。

 

「……あいつ大丈夫だよな。まさか死んだりは……」


 あいつの性格上、家出したとかは考えられないし誰かによって攫われた。または事件に巻き込まれたというのが自然だろう。

 家は金持ちだし狙われる理由はある。警察もそれを本筋として捜査しているみたいだし……


「……え?」


 最近流行りの女の子のお尻を見ながら敵と戦うゲームをしていると突然ライムの通知が来た。

 相手は西園寺だ。

 俺は寝転んだ状態から立ち上がり直ぐにライムの画面を開く。


『公園に来てくれ』


 その文字を見て慌てて電話をかけるが電話が繋がらないようです。という文字が表示されていた。

 そして何度も何してんだやおい! などのメッセージを送るが既読になる気配がない。


「あー! くそっ!」


 俺はジャンパーを着て直ぐに出かける準備をした。


「あら、アンタどっか行くの? これからご飯なんだけど」


 外に出ようとすると母さんが声をかけてきた。


「ごめん! これから友達とご飯行くからいらない!」


「えっ!?」


 母さんは何故か驚いた顔をして手に持っていたお玉を落とした。


「なんでそんな驚いてんの?」


「いや、アンタが友達とご飯なんて初めてだから……」


「ほっとけよ! じゃあ行ってくる!」


「あっ、うん。気をつけてねー」


 一瞬止まったせいで時間を無駄にしてしまった。

 俺の交友関係の狭さでご飯を食べに行くと言っただけで親がここまで驚くことになるなんて思ってなかった。


「公園ってまさか近所の公園じゃないよな」


 多分、丘の上の公園だと思う。

 それくらいあいつはあの公園に思い入れがあるはずだ。俺は急いで丘の上の公園へ向けて走るのだった。



「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……う、運動しときゃ良かった……」


 頂点に登った頃には俺は死にかけていた。

 家からここまで全力疾走は帰宅部には厳しすぎる。


「どこだ……西園寺!」


 俺は公園の中にある街灯を頼りに敷地内を探すが、西園寺の姿がない。

 携帯を取り出し、ライムを開いて電話をかけるが繋がらない。


「なんのつもりかわかんないけど、出てきてくれ! みんなお前のこと心配してんだぞ! 日向さんなんかボロボロだったぞ!」


 探しながら声をかけるが出てくる気配がない。


 気がついたら俺は1番奥の町全体が見える場所に来ていた。


 町を見渡すと少し心が落ち着くのを感じた。


 そしてあることに気づく、あいつはなんで俺にメッセージを送ったんだ? おばさんやおじさんあいつの兄弟。日向さんや友達いくらでもメッセージを送る相手はいただろうに。

 

 そんなことを考えているとザクっと土を踏む音が聞こえた。

 振り向くとそこには今日ここですれ違った美少女がいた。


「あ、今日の……」


 美少女は俺の顔を見て泣きそうで苦しそうな悲哀に満ちた表情をしていた。


「え?」


 突然の事で意味が分からない。なんでこの人泣きそうなんだとかまだここに居たのかなんて事が頭の中を回っている。


 すると美少女は突然踵を返した。そして何も言わずにどこかへ向けて歩き始めた。


「ま、待って!」


 俺は何故かその子が放って置けなくて肩を握ってしまった。



 あれから美少女をベンチに座らせたまではいいものの、美少女は口を開かない。

 俺は近くにあった自販機であったかいお茶を買って美少女に差し出した。春とは言えまだ夜は少し寒いし、お茶なら飲めないことはないと思ったからだ。


「……ありがとう」


 初めて美少女が口を開いた。

 そして美少女はお茶が暖かかったのかペットボトル両手で包み込んでいる。


「うっす……」


 綺麗な声に少し驚きつつ返事をするが会話がなくなってしまった。

 こんな時あいつなら簡単に会話していくんだけど、俺には難易度が高すぎる。


「あー、さっきは驚いたよね? 急に叫んだりして……」


 とりあえず誤解から解いておこう。

 美少女は俺の言葉に首を横に振った。


「……あ、そう。……実はさ幼馴染が行方不明になっててここに探しにきたんだよね」


 初対面の人にこんなこと言うのもおかしな話だけど、この子はなんか特別な感じがする。

 話すまではそう思はなかったけど、何故かめちゃめちゃ話しやすいのだ。もしかしてこれって運命の人だったりする?


「そいつ、ここの公園によく来てからここだと思ったからここだと思ったんだけど違ったみたいでさ。あはは」


「……違わない」


「え?」


 美少女が突然否定してきたせいで驚いてしまう。


「だから合ってるんだよ」


 なんか男っぽい口調だな。まあ今はそんな事どうでもいいか。


「どういうことだ?」


「ッ……俺が……西園寺誠だ」


「…………」


 顔を歪めたと思ったらそんな事を言う美少女のせいで俺達の時間が止まった。


「……へ?」


 そして出た声はとても気の抜けた声だった。


「だから! 俺が西園寺誠なんだよ! 幼馴染で3歳からの付き合いの!」


「はぁ!?!?!?」


 俺の声が山彦のようにそこら中でこだましていてるのだった。

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