第1話 行方不明
あれから1週間の時が経ったのだが昼休みだというのにクラスが静かだ。
理由はあいつ、西園寺誠が行方不明になったからだろう。
おばさん、西園寺の母さんから聞いた話によると日向さんを送って行くと家を出たきり帰らなかったらしい。
別に誰かと話すわけではないが、なんとなくこの雰囲気が嫌だった俺は教室を後にして校舎裏へと向かうのだった。
「…………」
気持ちのいい風を受けながら1人で弁当を食べているのだが、なんか落ち着かない。あいつが失踪してからずっとこうだ。ゲームをしている時もアニメを見ている時も勉強している時も落ち着かない。
別に毎日話していたわけじゃないし、話しても1分も話すわけじゃない。なのに気持ちにぽっかりと穴が空いたみたいな感情がある。
「……俺、あいつのこと友達だって思ってたんだなぁ」
いなくなって気付かされるとはまさにこういうことを言うのだろう。
あいつが居た時は偶にうっとしいお節介野郎としか思ってなかったのにな。
「……あっ、こんな所にいたのね」
声のした方を見ると日向さんが居た。
だが、そこに居た彼女は1週間前のように活力にみなぎっている顔ではなく、今にも死にそうな顔をしていた。
「……日向さん?」
どう考えても正常ではない。目の下にはクマができていて、髪の毛もボサボサ。顔色なんて最悪だ。
「……その、隣いいかしら」
ベンチに空きはある。
だから場所的にはいいけど……この状態の日向さんと話せる気がしないんだけど……
「…………」
日向さんは俺の返事を待つことなく隣に座った。
「あー、その聞いたよ。西園寺の奴、日向さんを送った後に行方不明になったんだろ?」
俺に話があるとあれば十中八九この話だろう。
そう思い本題にさっさと入ったのだが、どうやら俺は失敗してしまったらしい。
日向さんは歯を食いしばるような顔をした。
「……えぇ。私のせいで、西園寺くんは行方不明に……」
うん。マジでミスった。俺が日向さんの事責めてるみたいになってしまった。
「ご、ごめん! そんなつもりはなくて! 別に日向さんが悪いって決まったわけじゃないだろ? 西園寺がもしかしたらこのタイミングで家出を考えてたとか!」
「誠くんはそんな人じゃない!」
日向さんが俺の言葉に怒ったのかベンチに拳を叩き込んだ。普通拳が負けるはずなのに拳はベンチを突き破っていた。
「ひぇっ……適当言ってごめんなさい!」
何この人怖い!? 励まそうと思っただけなのに……
「……いえ……私の方こそごめんなさい。誠くんが居なくなって気が立ってたわ」
「あっ、うん……」
「……平くんに会いにきたのは誠くんの事なにか知らないかなって思って聞きにきたの」
やっぱりその話か。
「ごめん。俺もおばさんに話を聞いただけだから詳しくは知らないんだ」
強いて言えば警察から誠くんが家出する様子があったかなど聞かれたがこれは言わなくてもいいだろう。
「……ッ。なんでもいいのっ! どこか行きそうな場所でもいいから!」
日向さんはなにかに縋るように俺の服を掴んで来た。涙を流している。それほど西園寺の奴が大事だったのだろう。
「……ごめん」
とは言え知っている事がない俺は謝ることしかできなかった。
「……そう。急にごめんなさい。変な所見せて悪かったわね」
日向さんは立ち上がってフラフラと校舎の方へ歩き始めた。
「……あのっ!」
俺が声をかけるとその場に立ち止まって少しだけこちらをみた。俺の言葉の続きを待っているだろう。
「俺も西園寺の事、探してみる。だから……その、変に抱え込みすぎない方がいいと思う」
明らかに今の日向さんは普通じゃない。そんな彼女の背中を見ていると何故か口が勝手に動いた。
その言葉を聞くと日向さんはふっと笑った。
「誠くんの言ってた通りの人なのね、貴方は」
「え?」
「いえ……ありがとう」
そういうと日向さんは歩いて行ってしまった。
西園寺の奴何か変なことでも言ったのか? だけど俺の疑問に答えてくれる人は誰も居ないのだった。
「……はぁはぁ」
放課後。俺は町外れの丘の上にある公園までやってきていたのだが、坂と階段を登るのでめちゃめちゃ疲れ切っていた。
「……つい、ったー!!」
頂上付近にある公園に着く頃には空は夕焼けに染まってきていた。
そして謎の達成感がある。気持ちのいい達成感に包まれながら辺りを見渡しながら歩く。
「相変わらず人いないな」
町外れという場所と山の上という最悪の立地からここに来る人は少ない。
夜にくれば夜景が綺麗なのだが、車で登れる山ではないためあまりデートスポットとしても人気がないらしい。
「……やっぱいないか」
1番奥にある町の景色が見える場所まできたが西園寺はいなかった。
ここはあいつが悩んだり、悲しいことがあった時に来る場所で小さい頃に俺も無理矢理連れて来られてきた事がある。
日向さんの言葉でこの場所を思い出した俺はここになら居るかも、と思ってきたがやはり無駄足だったようだ。
「久しぶりに見たけど綺麗だな」
あいつがここに来る理由もなんとなく分かる気がした。このでかくて綺麗な景色を見ると落ち込んでいるのが馬鹿らしく思えてくる。
「……帰るか」
とは言え、ここにあいつはいない。ここにいても仕方ないし、帰ろうと振り返ると金髪ロングの美少女がいた。
スタイルはとても良く、出るところは出ていて引っ込んでいる所は引っ込んでいる。女子の理想の体型だろう。
顔もお人形のように整っていて睨めっこをしたら絶対に負けてしまう。この子と見つめあったら絶対恥ずかしさのあまりニヤニヤしてしまうからだ。
だが、格好がおかしい。男物を着ているせいかズボンはダボダボだし、服なんておっぱいで少し浮いてるせいでおへそが見えている。
「……ッ!?」
向こうはひどく驚いた顔をしているがなんでだろう。
気になるがあまり美少女の方を見すぎてしまうと変な人だと思われてしまう。……向こうの人は十分おかしな人なんだけどね。
俺は美少女の横をそそくさと通り過ぎて公園を後にするのだった。
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