助けた猫が俺の願いを9割9分9厘叶えてくれて美少女にTS! さらに可愛い女の子たちとダンジョン配信者になり、視聴者からもチヤホヤされてもう最高!!! だが、1厘の叶わぬ願いが希望を絶望に変える……

薬味たひち

TS美少女最高! ……って、あれがあるなんて聞いてない(泣)

 俺はTS美少女化に憧れるただの高校生だった。


 男としての生に不満があったわけじゃないよ? 普通の人生にも、普通の人生なりの楽しみ方が用意されている。ラノベを読んだりアニメを観たりゲームをしたり。そんな日々も悪くない。


 でもさあ。

 美少女になって、素敵なお洋服をいっぱい着て、可愛い女の子たちと仲良くなって、みんなからチヤホヤされる、そんな人生だったらって思わない? 俺は思うよ。

 ついでに街にダンジョンとか出現して、女友達と人気配信者とかになれたら最高だよね。そして何百万、何千万という視聴者に、可愛くて強い自分の姿を晒して……これはラノベの読み過ぎかな。


 でも残念なことに、この世界には奇跡も魔法もないみたいだ。俺は可愛くもかっこよくもない平凡な顔。誰もチヤホヤしないし、クラスの可愛い女の子たちには見向きもされない。もちろんこの世界にダンジョンはないし、そもそも俺は強くもない。

 普通の人生で、普通の高校生として、普通の楽しみを見いだすしかないのだ。


 はあ、どっかに奇跡か魔法は転がってないかなぁ。


 いつもの通学路で信号を待ちながら、そんなことを考えていた時のこと。


「ん? あの猫……」


 向こう側から、横断歩道を優雅にわたる黒い猫の姿があった。だが信号は赤。迫りくるトラック。


「危ない!」


 思わず飛び出し、その猫を抱えた俺の身体は。

 次の瞬間、宙を舞っていた。


※※※


 気がつけば辺り一面、何もない真っ白な空間。へえ、死後の世界ってあったんだ。これから天国と地獄とかに振り分けられんのかな。俺は良い子にしてたから天国だろ。サンタさんも毎年来てたし。

 なーんて、驚くほど呑気に状況を分析していると、突然色っぽいお姉さんの声が聞こえた。


「さっきは助けてくれてありがとう♡」

「だ、誰⁉」

「私はあなたに助けられた猫よ」


 声のする方に視線を降ろすと、たしかに先ほどの猫が座っている。

 なんで猫が喋ってるんだろ。まあ、死後の世界だし何でもありか。


「お礼に、あなたの願いを叶えてあげる♡」

「それはどうも……って、え? まじですか?」

「もちろんよ♡ あなたの願いは何?」


 さっきから語尾がセクシーなのが気になるなあ。


「あのう、説明とかないんですかね」

「説明?」

「は、はい。ここがどこなのか~とか、どうして猫が喋っているのか~とか、どうやって願いを叶えるのか~とか……」

「ああ、なるほどね。それを知るのがあなたの願いってことね?」

「違います違います違います」


 危ない危ない。貴重な願いをどうでもいいことに消費してしまう所だった。まあとりあえず試してみるか。どうせ俺は死んだのだし、失うものは何もない。奇跡は信じる者にしか訪れないのだ!


「確認なのですが……願いってなんでもいいんですか?」

「もちろんよ♡」

「おお、太っ腹~」


 なんてお優しい猫様なんだ。これはだめ~あれもだめ~って言われたら萎えるもんね。それじゃ、お言葉に甘えて。

 俺は息を吸い、腹の底から自らの願いを叫んだ。


「金髪美少女にTSして、素敵なお洋服をいっぱい着て、可愛い女の子たちとダンジョン配信で無双して、みんなからチヤホヤされたいです!!!!!」


 どこまでも何もない空間に、俺の声だけが響き渡る。

 猫様は……たぶんドン引きしてる。表情はわからないけど、そんな感じがする。

 でもいいのだ。自分の夢を恥ずかしがる人間が一番恥ずかしい。欲望には忠実であれ!

 

「ずいぶん欲張りな人間ね……」

「欲望だけは人一倍あるんで!」

「そのようね。ま、特に問題はないわ。次にまた目覚めた時、あなたの願いは9割9分9厘叶いますよ♡」

「おお、ありがとうございま~す」


 段々と視界がぼやけていく。きっと、TS俺の夢が近づいているんだ。わくわくするぜ。


「……しかし、叶わぬ1厘の願いによって、その希望は絶望に代わるでしょう」


 え、なに、絶望……? 聞いて……ない………ぞ――――


※※※


 次に意識が戻った時。そこは、いつものあたしの部屋だった。

 

 はあ、やっぱり夢か。

 まあそうだよね。平凡な男子高校生の願いが叶う場所なんて、夢の中くらいのものだ。でもどうせ夢ならTSするところまで見せてくれればいいのに。なんで夢っていいところで終わるんだろ。あたし、夢の中のイチゴケーキ一回も食べれたことないよ……って、あれ? 


 


 慌てて鏡の前に立つと、そこには。


 俺の夢見た美少女の姿があった。


 長く美しい金髪。大きなエメラルドグリーンの瞳。整った容姿。まさに、あたしの理想のTSだ。

 胸は……そんなに大きくないけど。まあ、重いと疲れそうだしちょうどいいよね。

 いやあ最高じゃん。あの猫まじで願いを叶えてくれたのか。やっぱ人助け、ならぬ猫助けって大切だね。一回死んで良かった~。

 そしてお待ちかね。下半身の方を確認と……


 え?


 あれ?


 は?


「待て待て待て待て」


 焦るあたしの声、めっちゃきれい……じゃなくて!

 透き通った声、可愛らしいお顔。美しい長髪。つつましき胸。一人称はあたし。どう考えても正真正銘女の子だよね? それなのに。


 なんであれ息子がいるの!!!???


「アンナーーー。起きなさーい。遅刻するわよーーーーー」


 母親の声だ。

 アンナ、というのが、あたしの新しい名前のようです。

 とりあえず学校に行きますか。


※※※


 さて。

 今日一日学校で過ごしてみてわかったことがある。この世界は、叶えられた俺の願い以外は、以前の世界とまったく同じだ。

 クラスのメンバーはあたしの性別以外まったく同じ。しかも、どう考えてもあたしは異国の美少女の顔立ちなのに、ちゃんと日本人女子として扱われている。

 しかもこの辺りにはしっかりダンジョンも出現しているみたい。さらにあたしは、前々から憧れてた2人の女の子と親友ということになっていて、一緒にダンジョン配信をしているらしい。


 すなわち、ここは都合よく俺の願いだけが叶えられた世界なのだ。

 ただ一つ息子を除いては……


「ねえねえ、アンナちゃん。はやく行こっ!」

「行くってどこに?」

「も~。ダンジョンに決まってるでしょ! 早くしないと配信時間に送れちゃうよ!!!」


 この元気な女の子は美晴みはるちゃん。美人で明るいムードメーカー。性格もとってもいいので男女問わず大人気だ。


「アンナさん大丈夫? どこか具合悪かったりする?」

「ううん。平気。ありがと、沙耶さやちゃん」


 彼女は沙耶ちゃん。物静かだけどとっても可愛くて、それでいて優しい! まじ天使。女でも惚れる。


 そして……


「アンナちゃん、お願い!」

「まかせて! はっ!!!」


 ダンジョンでもあたしは大活躍。見事な剣さばきにより、大きなドラゴンギガントドラゴンも一撃よ。


『さすがです、アンナ様』

『強すぎwww』

『いまの笑顔。可愛すぎ』

『生きがい』


 コメント欄でもチヤホヤされてるあたし。いやあ、それほどでもぉ……あるかも?

 だけど、現在少し、いやかなりのピンチが訪れてる。


「今日も絶好調ですね。アンナさん」

「ありがと、沙耶ちゃん。あのう……ちょっとお花を摘みに行ってくるね」

「わ、わかりました。待ってます」


 あたしは転位魔法でダンジョンの入口へ。

 さて、問題はここからよ。

 

※※※


 うーーーーーーーん。

 かつてない難問に、あたしは頭を悩まされていた。 

 いったいあたしは。

 どちらのトイレに入ればよいのだろう。


 ご存じの通り、トイレというのは性別で分けられている。機能という点を考慮すると、あれ息子を持つ人間は当然男子トイレを使用すべきだ。けれども、いまのあたしはどっからどう見ても可愛い女の子。男子トイレに入っては周りの人はびっくりするに違いない。

 それなら女子トイレは……だめよね。いくら見た目が可愛くても、あれ息子を持つ人間が入るべき場所じゃない。

 こういう時、男の娘はどうするんだろうなあ。


 と、悩んでいる間にも刻々とタイムリミットが……。うう、我慢できない……限界。こうなったら仕方ない……えい!



 ふぅ。



 結局、草むらでしてしまった……。

 せっかくTSしたのに、さっそく女の子としていろんなものを捨ててしまった気がする。


「こんにちは。楽しんでるかしら♡」

「な⁉ この詐欺師猫!!!」


 この事態悲劇を招いた張本人、いや張本猫がのこのこあたしの前に現われた。ぐぬぬぬぬ、あなたのせいで……


「あらあら、何を怒っているのかしら。あなたの願い、叶ってよかったわね♡」

「いっくら可愛くてもね、あれ息子があったら台無しじゃないの!!!!! 早くあたしを女の子に戻してよ」

「はあ。どこまで強欲なのかしらこの娘は。そもそも、あなたの前世は男でしょ?」

「うるさいわね。こういうのは遠慮したら負けなのよ」


 遠慮をするのは日本人の悪い癖。もらえるものは何でも喜んで受けとるべきだわ。そうして経済は回っていくのよ。あたしって博識~


「まあ一つだけ、あなたの願いを完全に叶える方法はあるわ♡」

「な~んだ、やっぱりあるんじゃん。それを早く教えなさいよ。それは何?」

「それは……」

「うんうん。それは?」

「あなたの羞恥心よ♡」


 え? 


「だ・か・ら、羞恥――」

「聞こえてる聞こえてる大丈夫」


 何回も聞く方が恥ずかしいわ。、なんて。


「えっと、それでその、羞恥心?と、あたしの願いがどう関係するわけ?」

「あなたのポケットに、小さなハート型の容器があるわよね」

「ポケット……あ、ほんとだ」


 手のひらにちょうど収まるくらいの容器。中に少しだけ、ピンク色の液体が入ってる。


「あなたが羞恥を感じるたび、その容器のピンク色の液体が増えていくわ。さっきのお花摘みで、既に少し溜まったはずよ」

「あ、そんなのでも溜まるのね……」


 あたしは女の子としての尊厳と引き換えに、羞恥の感情を手に入れたというわけか。あたしの屈辱も無駄じゃなかった……のか?


「そして、その容器が羞恥のエネルギーでいっぱいになった時、あなたの願いは完全に叶うってわけ」

「おお、わかりやす~い」


 つまりどんどん恥ずかしいことをやっていけばいいってわけか。たしかに可愛い女の子が恥ずかしがる表情は眼福だし、それが大きなエネルギーを生むというのは辻褄が合う……。ちょっとエロゲ感が否めないけど。


「まあ、あなたはダンジョン配信者になったわけだし、たくさんの視聴者の前で痴態を晒せば、すぐにエネルギーがいっぱいになるわ♡」

「それは……ちょっとやだな」

「まあとにかく頑張って♡ まったね~」

「いや、ちょっと待ってよ。まだ聞きたいことが。お花はどっちで摘むのーーー……って。行っちゃった」


 まあ、やることはわかったしいいか。とりあえず羞恥をエネルギーに変えるため頑張ろう。目指せ、真の女の子!!!


「あ、アンナちゃんいた! 大丈夫?」

「うん。ちょっと具合が悪くて、風にあたってただけ。もう平気だよ」

「良かったぁ。私たち、いつもアンナちゃんに頼りきりだもんね……。ごめんね」

「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとね、美晴ちゃん、沙耶ちゃん。それじゃ、戻ろっか」

「「うん!」」


 9割9分9厘の希望と1厘の絶望、か。


 このTS男の娘化、思った以上に厄介かも。

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