第37話
視界が開けたとき、木の温もりが感じられる小さな一室の中にいた。椅子が三脚置かれており、そこにデラニーが座る。
「キミたちも座って座って」
「ここはどこなんです?」
「都市の間を流れていく魔力の狭間。他の誰もこの部屋に入ることは出来ないよ」
「これも魔法?」
「そーだよ! ボクだって実はすごい人だからねぇ」
魔力の狭間。難しいことはよく分からないけど、本来空間がないところに空間を作り出してしまう彼女は一体何者なんだろう。
私たちも椅子に座る。
「早く本題に入ろうぜ。時間だって無いんだ。まず、このクオンに似てしかいない女は誰だ?」
「そいつが今回ターゲットの堕落だよ。一見普通の人間に見えるけど、魔法で人を殺している」
「それだけか? ただの犯罪の可能性は?」
「第一都市で民間人五人とボクの部下が二人殺られたんだ。今そっちではちょっとした騒ぎになってるよ。で、その生き残りが皆『堕落のような化け物の形になって人を襲っていた』って言ってる。何でも、体が裂けてそこから触手を出して殺したとか。今は人型に戻ってるけど」
「じゃあ、今度は第二都市が危険なんじゃ……」
「そのことについては安心して。今は魔法が使えない空間に隔離されてるから。クオンちゃんは知らなかったっけ? 第二都市は第一都市と第三都市にとって危険だと判断された者が送られてくる場所だって。勿論観光地としても有名だけど」
「行ったことはなかったです。治安が悪いんですか?」
「いーや? 都市の魔法技術的に安心が保証されているから治安はいいよ。今回だってそんなに危険な仕事ではないし」
「ただ、そいつを殺す前に俺たちが出向く必要があると」
前にファルから幻想世界における犯罪について教えてもらった。『魔法で人を殺した者は問答無用で死刑』だと。大体がその場で処理課に殺されるらしい。相手が堕落なら尚更すぐに殺されるべきだ。
「これはボクの素晴らしく暖かな情に感謝してほしい案件なんだけど、部下の一人が『クオンにとても似ている』って言ってね。状況の記録を見た限りだと、確かにクオンちゃんと全くと言っていいほど外見が似ていた」
「つまり、クオンと関係がありそうだから話す機会を与えてくれた、と」
「そういうこと! だってあのファルくんが気にかけてる人形について何か分かるかもしれないんだもん。ちょっとくらい面白いことになってもいいかなぁって」
私は写真をもう一度見る。大人びた私にしか思えないようなくらい似ている『彼女』。彼女は魔法が使えて、堕落になり、罪のない人を襲った。似ているのに私と対極にいるようだ。
「さあ、もうすぐ第二都市に着くよ。そしたらこいつがいる監獄までダッシュだ。そうだ、競争でもする?」
「ほざけ」
「私たちがあらかじめ武器を持っているのは、話を聞き出したらその場で殺せ、ということですか?」
「うん。上からは好きな時に好きにしていいよーって。あ、逃がすとかは無しね」
最後にもう一つ、気になることがある。
「もう一つの写真に写っている、このご老人は誰なんです?」
男の人が写っているその写真には返り血のようなものが付いていた。
「それが分からないんだよねぇ。ただ、あの堕落が落としたものってだけで」
「⁉」
「超重要じゃねぇか……」
これは、必ず聞かなければならない。だって……。
私はこの人を見ていると、とても心がざわつくから。
この二か月で私はファルから何度もこう教えられた。
『何があっても冷静に。熱くなっちゃ駄目だ』
頭の中で、その言葉だけが鮮明に思い出された。そう、落ち着けば大丈夫だ。
『その調子。頭をキンキンに冷やして――』
「じゃ、行くよ! よーい、スタート!」
また視界が白く染まる。こうして私たちは、第二都市に足を踏み入れた。
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