第24話

「……なんで」


 なんで貴方がそんなことを言うんだ。少なくともさっきは彼女の方が二人と親しいように思えた。なのになんで。


 ファルにおぶられながら後ろを振り向くと、遠くでデラニーが笑顔で手を振っていた。


「ん? どうした」


「……デラニーさんって優しい人なんですか」


「優しいというか……おっかないかな。いや、優しいんだよ。ただあいつホントに色んな魔法使えるから、怒らせると何されるか分かんなくて」


 さっきも一瞬で二人の身体を治していた。それに瞬間移動、テレパシー……。


「あいつが怒ったところは今でも見たことないな」


「ロキさんとデラニーさんのお二人と知り合いなんですか?」


「うん。腐れ縁っていうか……同業者だから」


「でも、ロキさんとはあまり仲が良くない様に感じました……」


 ぐっと、私をおぶっている手に力が入る。多分図星だ。でないと出会って早々殺し合いをするわけがない。


「……色々あって。今は言えないけど」


「言えないことなんですか」


「…………うん」


 いつものおちゃらけた調子が出ていない。こんなに弱弱しい彼を見るのは初めてだ。さっきの戦闘で疲れたのか、両足が一時的であれ無くなったことで消耗しているのか。


 ――よほど辛いことが過去にあったのか。


 多分全部に当てはまるのだろう。それくらいあの時のファルは強烈だった。


 怒りと憎悪にあふれていた。


 


 サン役所の建物から出ると、ファルは私を降ろした。


「もう立てるか?」


「はい」


 震えは止まっている。建物から出たことで恐怖も薄れたので、これで普通に歩けるだろう。


 雲一つない真っ青な空に、様々な花で彩られた庭が心を癒してくれた。まるでさっきの血が飛び散っていた光景が夢の様だ。


「流石にいろんな人がいるところでおぶられるのは恥ずかしいだろ? ……あ、そっちの方が良かった?」


「何冗談言ってるんですか。そんな訳無いでしょう!」


「いやーごめんな? 気が利かなくて」


 彼はいたずらっぽく笑って、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。違うと言っているのに流されたことを悔しく思いながらも、いつもの調子が戻ってきたと思うと嬉しかった。空元気でも、元気が出せるだけで十分だ。


「帰るか。あー足が痛ぇ」


「大丈夫ですか? 今度は私がおんぶする番ですか。力はあります」


「止めろって恥ずかしいから」


「言ってくれればいつでもおんぶしたのに」


「……根に持ってる?」


 そう。元気を出せるだけで十分なんだ。


 実はロキが私の横を通り過ぎた時、ポケットに名刺を入れられた。多分わざと気づくように入れたんだろう。ファルにおぶられてるときに確認したが、そこにはロキが“所有”している『紅月処理課』の住所が書かれていた。場所はここと同じ第一都市。




 私はこの人に会って、ファルとこの世界のことを聞かなければいけない。

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