第23話
切断された足からは絶えず血が流れている。大丈夫なはずがない。このまま死んでしまったら――。
「おい! そこのなんちゃってボクっ子さんよぉ!」
「ファルくん、ボクの名前は『なんちゃってボクっ子さん』じゃなくて『デラニー』だよ」
「いいじゃねぇか。女でボクっ子って可愛いと思うぜ?」
「あ、キミもそう思う!?」
「だから早くこの足治してくんねぇ? ソイツの両腕はそのままでいいから」
この三人は各々知り合いらしい。ファルがだいぶ砕けた口調で話している。
「いいよいいよ~。後が怖いから一応ロキくんの腕も治しておくけど」
「一応って……そんな言い方ないんじゃないかな。流石に君みたいな恐ろしい人に喧嘩売ったりはしないよ」
「はいはい、とりあえず治すよ。えいっ」
彼女の声で視界が白に染まった。驚き瞬きをすると視界が戻り、そこには足が戻ったファルと、腕が戻ったロキが――。
「ねぇ、キミキミ」
「ひっ」
私とファルの真後ろにデラニーがいた。蹲るファルに抱き着いている私に合わせてかがんでくれている。
「キミ、誰? 初めて見る顔だけど」
「あ、私、クオンって言います。ファルさんに拾ってもらっ」
「拾う! なるほどねぇ。だからキミには魔力が無いんだね」
なぜ分かる。私には確かにファルから貰った魔法石が――。
『まさか人形遊びをしていただなんて』
ロキが言った言葉を思い出す。もしかして、バレているのか。だとしたら私は。
「安心していいよ。“そのこと”はボクとロキくんしか気づいていないから。多分だけど」
「なんで、分かるんですか」
「それは聞いちゃいけないことだけど、特別に答えてあげる」
彼女が優しく私の頭を撫でてくる。だけど私は却って不気味さを感じた。
「ボクやロキくん、それにファルくんみたいなね、いくつもの死線をくぐって来た魔法使いは一目見ただけで分かるものなんだよ」
分かるというのは、つまり。
冷や汗が頬を伝う。彼女はその汗をハンカチで拭ってくれた。そして私の首に手を当てた。まるで首を絞めるかのように包み込んで。
「“人であるか、そうでないか”なんて、殺しを生業にしているボク達なら分かって当然ってこと」
そのまま手に力がかかる。体が動かず、どうすることも出来ずに息を奪われていく。
「おい、おふざけも大概にしろよ」
ぱっと、ファルが私の首にかかっていた彼女の手を払いのける。そのまま抱きしめられ、彼の呼吸と体温を認知した。
「あ、ちゃんと体治った?」
「おかげさまでな」
「よかったぁ。ちなみにクオンちゃんにはただのジョークのつもりだから怒らないでね?」
「うるせぇ。笑えないジョークはジョークって言わないから。ほらクオン、立てるか?」
不気味さと恐怖で体は固まったままだ。動けずにいる私にファルは申し訳なさそうな視線を送って、体をおぶってくれた。
「帰るか。お前も疲れたよな」
「は、はい。早く帰りたいです……」
言いたいことは沢山ある。けれどそれは彼と二人っきりの時に話したかった。
「あーあー。同業者がいちゃついているところなんか見たくないね。先に私は帰らせてもらうよ」
そう言ってロキが私達の側を通り過ぎて行った。すれ違いざまに少し目が合ったが、彼は変わらず薄気味悪い笑みを浮かべていた。その深紅の瞳にぞっとする。
「んー。クオンちゃんのことはいろいろ聞きたいけど、今はまだその時じゃないかな」
「それってどういう意味だよ」
「ファルくんには教えなーい。女の子同士、いろいろあるんだよ」
いろいろも何もない。私は出来ればこの人と関わりたくないと思った。
『クオンちゃん聞こえてる?』
「ひっ――」
いきなり頭の中でデラニーの声がした。
『キミは魔法が使えないから一方的に話すけど許してね。あ、思考の盗聴とかはしてないから安心してね~』
思考の盗聴!? 魔法でならそんなことも出来てしまうのか。それなら何でもありじゃないか。
ファルは私の頭の中に響く言葉に全く気付いていないらしく、そのまま出口の方に歩いて行く。
『一応フォロー入れとくけど、ロキくんは性格がちょっと“いっちゃってる”だけで悪い人ではないんだ。ファルくんと仲が悪いのも理由があってね』
『だから今回の件で抱いた疑問はちゃんと本人にぶつけた方がいいよ。それが将来的にはキミのためになると思うから』
『これは人生の先輩からの助言だよ。とりあえずボクが一番伝えたいことは――』
『二人のことをよろしくね』
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