第21話
第一都市の駅を出て、報告書の提出や処理課の手続きをするために政府直属の処理課を管理しているサン役所へ行く。『サン』というのは『栄光の夜明け』を意味するらしい。そこでは政府のあらゆる仕事がまとめられているらしい。
第一都市の町並みは、時代を感じさせる古い建物に加え、近代的な美しさも備えた正に“幻想世界で最も発展した都市”という感じだった。
人通りも第三都市に比べて多く、そんな街並をファルと一緒に歩く。
「最近の技術って凄いよなぁ。魔法が使えない人でもテレポート出来るんだぜ?」
「確かあの装置の名前は“テレポーター”でしたっけ」
「そーそー。そのまんまの名前だよな」
「帰りもあれにお世話になるんですよね」
「じゃなきゃ帰れないからなぁ」
「やっぱり怖い……」
体が浮くのは百歩譲ってまだいい。だけど、テレポートしてる時の、なんとも言えないあの体の境界が曖昧になる感覚。それが怖かった。
「でもさぁ」
「なんですか?」
「俺の腕に必死にしがみついてるお前、可愛かったなぁ」
「はい!?」
一気に顔が赤くなるクオンを見て、ファルが可笑しそうに笑う。
「だってさ、あんなにやだやだ言ってたのにいざテレポートするとなると俺に縋るんだぜ? 可愛い以外の何物でもない」
「そんなこと言われたって! 必死だったんですから!」
「あんな涙を滲ませてぴくぴく震えながら……」
「言わなくていいです!」
「悪かったって」と、おどけて彼は笑う。一方こっちは顔がどんどん赤くなっていく。街行く人達にこの真っ赤な顔を見られないよう俯いて歩くが、それも可笑しかったのだろう。彼はまた笑って「顔上げろよ」と言ってきた。
「下ばっか向いてちゃ人に当たるぜ?」
「全部ファルさんのせいです」
「確かにお前が俯いてるのは俺のせいかもしれないが、人にぶつかったらそれはお前のせいだ」
「急な正論は人を傷つけますよ……」
そんな話をしていると、大きな庭の様な場所に出た。ここは公園だろうか。ベンチや噴水があり、花壇にも花が咲き乱れている、とても綺麗な場所だった。
「ここがサン役所の庭。公共の場だから色んな人が集まってるんだ」
見ると家族連れの人達やお年寄りの人が各々自分の時間を過ごしていた。
「綺麗な庭ですね」
「広くて綺麗っていいよなぁ」
庭を進んでいくと、白くて大きな大聖堂の様な建物が見えた。
「あれがサン役所の本部ですか?」
「そう。おっかない人が沢山いる……ってのは冗談で、皆いい人ばっかだよ」
「私が魔法を使えないっていうのを知られても?」
「うん。俺こう見えても顔は広いから、事情を説明すればなんとでもなるよきっと」
第三都市で、彼は沢山の人に慕われ尊敬されていた。それはこの第一都市でも一緒なのかもしれない。
「ファルさんが大丈夫と言うなら大丈夫、ですよね」
「うん。その通り」
◇ ◇ ◇
「クオンさんの手続きは以上となります。これからの幻想世界の安全と発展のため、よろしくお願いいたします」
「こちらこそありがとさん」
「ありがとうございます」
手続きはファルが言った通りスムーズに進んだ。
建物の中に入った時は、役所の人や各課に勤めているであろう人達から奇異な目で見られたが、それも一瞬だった。ファル曰く「皆自分のことしか興味ないから当然」だそうだ。
手続きをした際も最初はファルが質問攻めに遭っていたが、
「こいつは俺の新しい家族なんだ」
の一言で黙らせた。多分絡繰りを家族と言ってしまう彼に同情したのだろう。そんな眼差しを彼に向けていた。
正直、それだけで認められるものなのか疑問に思ったが、それだけで通ってしまった。ファルに不安な眼差しを向けたが、彼は真剣とも空虚とも言える目でただ前だけを見ていた。
サン役所に勤めている人は、蒼色のコートにかっちりとした白いシャツを着ている。動きやすそうかつ鮮麗な服で、その見た目だけで上級職に就いていることが分かった。
「さぁさぁ、手続きも終わったことだし帰りましょうか」
「またあの気持ち悪い装置を使わなきゃいけないんですか……」
ファルは楽しそうに、一方私は憂鬱になりながらサン役所の廊下を歩く。すると後ろから明るい男性の声が聞こえてきた。
「おや? ファルじゃないか!」
その一声でファルに殺気が宿った。手をきつく引かれ、急ぎ足でその場を後にしようとするが、同じ人物の一声で足が止まった。
「無視したらその子の足をちょん切ってしまうよ?」
クオンはぞわりと悪寒を感じた。距離は離れているはずなのに声の主から伝わる殺気。まるでこの二人の間だけ酸素が無くなったような、そんな空気が漂う。
ファルは振り向き、正しく憎悪を向きだしにして声の主の名前を呟いた。
「……ロキ」
その声を聞いて、ロキと呼ばれた男性はにぱっと笑った。
――――殺意をそのままにして。
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