第20話

 ◇ ◇ ◇




 あれから三日が経った。報告書はファルに教えてもらいながら作成し、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て。


 今日はスーツとレイピアの出来を確認して、その後第一都市まで報告書を届けに行くことになっている。


「魔法での転送とかでは駄目なんですか?」


「ついでにお前の職員登録もしとかなきゃ。普段通りなら大丈夫だとは思うけど、絡繰りだって悟られないようにな」


 まだ事務所職員の登録がされてなかったのか。


「処理課の給料は政府から貰えるから、登録しないとお前がタダ働き扱いになっちゃうし」


「お給料! 何に使おうかな」


 初めてのお給料だし、やっぱりファルにプレゼントとかしたい。ご飯を奢るというのもいいな。それか色んな食材を買って手料理を振る舞っても良さそうだ。


「楽しみです!」


「ならいいけど」




 スーツを取りに行った後、武器屋でレイピアを装備してみた。


「……かっけぇな」


「ですか!? そうですか!?」


 興奮気味に答える。自分でも少し似合ってると思ってしまった。


 パンツスーツはファルと基本同じだが、女性らしく腰のラインがすらっとした仕上がりになっている。下襟にはファルから貰った魔法石をブローチの様にして付けている。


「どうっすかそのレイピア! 腕によりをかけて作ったんすよー!」


「凄く綺麗で気に入りました」


「戦闘面でも信頼していいんだよな?」


「もちろん! まぁ、使い手の実力にも寄るんすけど」


 少し聞きたく無い言葉が聞こえた気がしたが気のせいだ。


 レイピアの剣の部分は薄い緑色の硝子の様な材料でできていた。柄の部分は銀でできているが、重さはそれ程無かった。曰く、『軽量化に努めた』らしい。


「武器の扱い方はファルさんに教えて貰って下さい。そっちの方が早いと思うんで」


「おう。明日から特訓だな」


「よろしくお願いします!」


 持っていたレイピアを腰に下げる。それだけで少し強くなった気分がした。




 ◇ ◇




「ほんとに一瞬だった……」


 怖さから閉じていた目を開けると、そこは全く雰囲気の違う場所に移動していた。


「はいここが第一都市のメインの駅です。その名も第一ターミナル」


 第三都市と比べて近代的な内装をした建物の中に来た。


 ここに来るまで、本当に怖かった……。




『大丈夫だって! ちょっと体が浮くくらいだから』


『そ、そんな! だって私魔法使えないんですよ!?』


『だぁーかぁーらぁー! 手を繋げば大丈夫だから! 一瞬だから!』


 第三都市の“駅”と呼ばれるところに着いた時、クオンは絶句した。


 謎の、地面に水平にして浮いている円形のリングがある。


 そこに足を乗せるとたちまち体が浮き、目的地である第一都市にワープできる、らしい。現に駅に来ている人々はそうやってこの場から姿を消している。


『大丈夫なんですね! 信じますよ!』


『だぁいじょうぶだって!』


 こんなやり取りをしている二人を見て、駅の中を歩く人達がクスクス笑っている。


『ほら恥ずかしいことになってる! さっさと行くぞ』


『うぅ……』


 ファルに手を引かれながらリングの上に立つ。


 するとふわりと体が浮く。その浮遊感で平衡感覚が曖昧になり、少し吐き気がする。


『気持ち悪い……』


『目を瞑って……何も考えずに……』


 彼が優しく手を握りしめてくれた。私は縋るようにその腕にしがみつき、ただただ耐えた。




「な。なんともないだろ?」


「確かにそうでしたけど……」

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