ロキ

第17話

 どんなことがあっても、私は彼の側にいると誓った。どんなことがあっても、私は彼の味方でいようと誓った。


 彼はいつも明るくて、陽気で、優しくて。


 だけど、ふとした時に彼は悲しそうな顔をする。空虚な瞳をする。


 それが自身の生まれについての憎しみなのか、現在の境遇に対する諦めなのかは分からない。


 それでも、彼は


「□□は僕の家族だ」


 と言ってくれた。


 その言葉を信じて、私はずっと彼の側にいた。




 ――そのはずだったのに、私はその誓いを果たせなかった。




 ◇ ◇




「…………うぅ」


 窓から差し込む朝日によって目が覚めた。時計を見ると午前七時を指していてる。


 なんだか、懐かしくて、寂しい夢を見た気がする。


 ベッドから体を起こす。隣を見るとファルはまだ眠っていた。


「ファルさん、朝ですよ」


「……んー」


「起きてください」


「ごめん。今日は一人で飯食べて。キッチンにパンとジャムがあるから適当に……」


 どこか調子が悪いのだろうか。昨日が大変だったから疲れたのかもしれない。


 一方クオンはというと身体的な疲労は無かった。この体に筋肉等があるかは分からないが、今のところ筋肉痛や足のだるさも感じられない。


 キッチンに向かう。棚を見ると彼に言われていた通りパンとブルーベリージャムが置いてあった。トースターでパンを焼いて、その間に紅茶を淹れた。いい香りがして少しほっとする。


「うん。普通の朝だ」


 焼けたトーストにジャムを塗って皿に置いた。そのまま皿と紅茶の入ったティーカップを持ってダイニングルームに移動する。椅子に座ると、彼といた時は丁度よく感じたテーブルが少し広く感じた。


「……」


 無言でトーストを食べる。サクサクに焼けていて美味しい。ジャムも程よい甘さで紅茶とよく合う。


「……」


 しかし静かだ。狭くない空間で独りだと少し寂しい。


「…………」


 寂しい。独りにしてほしくない。誰かと話したい。いや、誰かじゃ駄目だ。――ファルと話したい。この時間はあまりにも静かで、寂しすぎる。


「…………クオン」


「ファルさん!」


 声がした瞬間すぐにそっちを向く。自分でも分かるくらいぱっと気持ちが明るくなった。


「お前、顔に出すぎ。まぁ無理もないか」


 彼はあくびをしながらキッチンまで歩き、同じようにパンをトースターに入れた。


「さっきはごめん。ちょっと疲れてたからさ」


「全然いいです。やっぱり魔法を使うのって体力も消費するんですね」


「体力というかは気力かな。沢山魔法を使うと腹から力が抜けていくというか……」


 香ばしく焼けたトーストと紅茶を持って向かいの椅子に座った。近くに人がいるだけで安心してしまう。


「いただきます。あ、それとおはよ」


「おはようございます」


 彼は朝の挨拶ができて満足したらしく微笑み、トーストにかじりついた。


「……普通の朝だな」


「ですね」


「だから、お前は何も不安になる必要は無い」


「……そうですね」


「うん」


 しばらく無言が続く。心地よい沈黙だった。パンを食べたり紅茶を飲んだりする音だけが聞こえる。


「そうだ、これ食い終わったら昨日堕落が暴れたとこに行くぞ」


「もう直っているものなのでしょうか」


「見たらびっくりすると思うな。で、見に行った後は報告書を作らなきゃいけないから家で作業だな」


「了解です」


 報告書も作らなきゃいけないのか。でも少し考えれば分かることだ。何か手伝えることがあれば手伝おう。


「あー……。ちなみに俺、書類関係の整理整頓が苦手で……。書斎が凄いことになってるから、よろしく頼む」


 そのクールな見た目で整理が苦手なのか。少し驚いたができる限りサポートしよう。


「これで今日のやることを整理できたな。ごちそうさん」


「ごちそうさまでした」


 空になった食器をキッチンまで下げて外に出る準備をした。

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