第14話
目の前に浮かんでくるのは、黒いモザイクがかかった何かに襲われる『自分』の姿。俗に言う走馬灯というやつだろうか。しかし、変に頭は冷静なのに目の前の『自分』は泣き叫んでいる。
「嫌! やめて来ないで!」
『こんな怪物さえいなければこんなことにはならなかった』
今度は別の思考が混じってくる。脳内が混濁する。
「死にたくないの! ねぇ! ねぇぇぇぇぇ!」
『全部この世界のせいだ』
「い、いや……ぁ」
『誰だって死にたくないに決まってる』
体を裂かれ、絶命寸前の『自分』。だけど、これは『クオン』ではない。
「……ぁ」
鮮血が飛び散る。それを見て、クオンの脳内で聞き覚えのある声がした。
『人が生きる為には人を殺すしかないんだ。だってこれは』
「仕方の無いことだから」
視界が戻る。どうやら一瞬の出来事だったらしい。自分の物ではない絶望、憎悪、そして怒りの元で頭がフル回転する。まるで歯車が噛み合い回り始めたかの様に。
一秒も満たない間に堕落の急所を探す。きっとあの黒く鈍く光っている箇所がそうなのだろう。殺さなければ。紅く燃える炎にも似た怒りから、全く無駄の無い動きで鉤爪を受け流し、そこをナイフで一突きした。一瞬で堕落の力が抜ける。
「クオンっ!」
そこに突き刺さる無数の茨。堕落の体は穴だらけになっている。その姿が如何にも滑稽で、少し笑いが漏れてしまった。
「っふふ」
『た、タスケ……』
「ふふふ……え?」
堕落はクオンの体にぐったりとのしかかった。そこに力は加えられていない。
「おいクオン! 大丈夫か!?」
「あ、ああ。はい。大丈夫です」
急いでファルが駆け寄ってくる。クオンは堕落を体から降ろした。白いワンピースには大量の血がべったりと付いている。せっかくの可愛い服が台無しだ。
「悪いな……危険な目に遭わせちまって」
「そのことなら全然いいんです。ただ……」
さっきの光景は何だったんだろう。フラッシュバックの様な何か。そして、その中で頭に響いてきたのは、確かに――。
「あのファルさん、私が堕落に襲われた時に、魔法を使いましたか?」
「魔法って……あの時はまず岩を生成して爆炎から身を守って、その後はお前も見ただろ? 茨であいつの体を貫いて」
「いえ、そういうことではなくて……」
「テレパシーとか」と説明すると、ファルは怪訝な目をした。
「……そんなの使ってないけど。まさかあの堕落、お前に何か」
「でもあれはファルさんの声でした」
「はぁ? でも、そんなことって」
ファルは疑問符を頭に浮かべている。そういえばあの時感じた、堕落に対する怒りとか憎しみがいつの間にか消えていた。感情が急に高まったり、冷静になったり、何だか波が激しい。
それに、あれは正直言って誰かから借りた感情に思えた。自分のものでない、誰かの感情……やっぱり、あれは堕落の魔法か何かで、それが知人のファルの声に変換されたものだったのかもしれない。それが今できる一番納得のいく答えだ。
「ファルさんごめんなさい。やっぱりあれは堕落の――」
「うわぁぁぁぁぁん!」
突然遠くで泣き声がした。
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