第10話

 家の外は緑で覆われた、綺麗な庭があった。花壇には沢山の花が植えてあって、周りは林の様に木が生い茂っている。とても過ごしやすい気温で外にいても気持ちがいい。


「窓からも見えていたけど、沢山の緑に囲まれているんですね」


「そうそう。しかもこの道抜けたらすぐ街に出れるし。すげーいい立地なんだよな」


「この植えてある花もファルさんの趣味ですか?」


「俺の趣味というか……昔いたやつの趣味? あ、そいつ男だから」


 昔を懐かしむように笑って、手を差し伸べてくれる。クオンは恥ずかしくなり、その手を取っていいか少し迷った。


「街、大きいし人も多いから手繋いでいこうぜ。はぐれると大変だ」


「あ、ありがとうございます」


 差し出された手に自分の手を重ねると、優しく握り返された。この体に心臓があるのかは分からないけど、きっとこういう時に心拍数が上がるのだろう。


「あれ、顔赤いな。昨日手を引いた時には何もなかったのに」


「昨日は……色々あったし。少し意識してしまったのかもしれません」


「そりゃどーも?」


 二人でゆっくり街に出る道を歩く。クオンのやや小さい歩幅に合わせてファルも歩く速さを調整する。クオンはどきどきしていた。男の人と手を繋いで外を歩いているという事実と、その上でこの林を脱けた先にどんな世界が待っているかという期待を抱えて。


 三分ほど歩くと開けた所に出た。そこは緑と美しいレンガ造りの建物に囲まれた街、というより都市が広がっていた。


「ここは第三都市。自然としゃれた建物がいっぱいで住み心地がいいんだ」


 まるで森のように木々が生い茂り、あくまで自然の中に建物があるという感じだ。涼しいそよ風が緑を揺らし、さわさわと聞き心地のよい音が街の音と混じる。


「第三都市ですか。ということは第一都市や第二都市もあるんですね」


「うん。遠いから今日は行かないけど」


 整えられた道を歩きながら、クオンはまるで好奇心を抑えられないかの様にキョロキョロと周囲を見渡す。


「田舎者の様に思われるから止めろよ」


「だって! 綺麗なお花がいっぱいだし、ふわふわ光りながら飛んでる何かもあるし、それに――」


「ふわふわ飛んでるのは精霊だな。自然の多いとこに集まる。魔力を持った昆虫だと思ってくれたら」


「へぇ! それにそれに」


「ストップ。あれは普通の蝶々だし。……お前の頭の中にもお花が見えてきた気が……」


「えぇ……酷い」


「冗談だって」


 しゅんとすると、彼は苦笑しながらある建物の前で止まった。そこには『美容室』と書かれた看板がかかっている。


「まずはその見た目からだなぁ」

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