第7話

「そんなの酷いですよ。いったい誰がそんなことを……」


「それは俺の生まれる前から。初めて魔法を使える人間が出たと同時にこの差別が広がって、今はここまできてるらしい」


 そして一旦彼は本を閉じ、私に体ごと向き直った。片手で繋がれていた手は、今は両手で包まれている。彼の体温が伝わってきて温かい。


「いいかクオン。お前は魔法が使えない。これは確かだ」


「……言い切れるんですか」


「ああ。魔法使いはな、魔力を持った者を察知出来るんだ。魔力が『見える』というか。お前にはその魔力が無い」


「ならなんで幻想世界に私は」


「俺が無茶を言ったから。俺の魔法でこの絡繰りを動かしてるって。だからお前はここにいれる」


 手を更に固く握られる。まるで、絶対に離さない、絶対に非世界に行かせないという意思が力になっているみたいに。


「だけど、それだけじゃ無理がある。だって俺の魔法でお前が動いているのに、俺の魔力が見えないんだから。だからこれを持っていてほしい」


 手に握らされたのは、彼の瞳と同じ色をした漆黒の石だった。中に小さな穴が開けられていて、そこに紐を通してペンダント型になっている。そしてなにより、石自体が鈍く発光していた。


「綺麗……」


「そうか」


「これは?」


「俺の血液を固めて作った魔法石。これを首から下げていれば俺と同じ魔力が周囲に伝わるから、俺と一緒にいるときはそんなに差別されることはなくなると思う」


「一緒にいない時は?」


「気を付けた方がいいな。あくまで俺の魔力はその石から見える訳で、お前の中から見える訳ではないから」


 いいんだろうか。彼の血液から作られた石。そんな自分の血を使うような貴重な物を、どうして私なんかに渡すのだろう。そこまでして、どうして幻想世界にいられるようにしてくれるのか。


「そりゃだってさ、俺が自分で拾って来たんだから最後まで面倒見るのは当然だし。それに、な」


 彼は一瞬、少し遠い目をした。過去を懐かしむでもない。というより、虚ろな目と言った方が正しいかもしれない。


「まぁいいさ、こんなことは。とりあえず今はお前が差別されないことの方が大事! ほら、首から下げて」


「はい」


 言われたとおりに首から下げる。白いシャツに黒く光る魔法石が映えていた。よくよく見ると、魔法石は一定の落ち着いたリズムで発光している。


「うん。お前の白い肌に合ってて綺麗だよ」


「そうですかね?」


 どこか慈しむような声色でそう言われ照れてしまう。


「これでひとつ問題も解決! 次の説明だな」


 閉じていた本が開かれた。そこには。


「『魔法の反動と“堕落”という驚異』……」

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