第6話

「じゃあまず、お前の生まれから質問していくぞ。何でもいいから、過去の記憶とかある? お前を作った父親とか」


「父親……」


 父親。もしくは母親かもしれない。いったい誰が何のために作ったのか。そしてどうしてゴミとして捨てたのか。――そういえば。


「…………」


「心当たりは無しって感じか」


「『非世界』って言ってましたよね」


「ああ、それも聞きたかった。なんでお前常識はあるのに、このことは知らないんだよ」


「分からないです。だから教えてください」


「いいぜ。ちょっと待ってろよ」


 そう言って彼は棚から本を取り出した。表紙には『世界の歴史』と書かれている。


「これ、子供向けだから分かりやすいと思う。いろいろ説明していくけど、お前文字は……表紙の文字、読める?」


「読めてます」


 へぇ、と彼はまた不思議そうにこちらを見て、それから本に視線を落とした。


「識字力もあんのか……うーん? ま、いっか」


 彼がページをめくる。広げたページには『幻想世界と非世界』という見出しがついていた。


「俺たち人間が住んでいる世界は『幻想世界』と『非世界』の二つに区別されている。今俺とクオンがいるここは幻想世界で、お前が捨てられたのは非世界ってわけだ」


 なんだか不思議だ。幻想、非。それだけ聞くと差別されているような……。


「そう。区別されていると同時に差別されている。魔法が使える奴は幻想世界に住めて、使えない奴は問答無用で非世界送りだな。非世界の暮らしはもう最悪で最悪で。汚いし治安悪いしで住んでられない状態になってる」


「待ってください。魔法?」


「うん、そうだけど」


 さらっと凄いことを言っている。魔法という概念は知っているが、そんなもの使えるのか? そんなもの、現実に存在しているはずがない。


「もちろん俺だって使えるよ。やってみようか」


「お願いします」


 すると彼は、左手を本の上に持ってきた。掌から黒い茨が生える。その二本の茨は小さなハートマークを描いた。


「俺は基本的に、この茨を使って敵と戦ってる。敵が何なのかは今は置いといて、とりあえず魔法が使える奴は人それぞれ、得意とする何かを持っているな」


「魔法は誰でも使えるんですか?」


「いや、どうやら使える奴と使えない奴がいるみたいで。だからこうして差別されているわけさ」


 掌の茨が消えた。クオンも真似しようと右の掌を出してみたが、どんなにイメージしても何も起きない。


「魔法を出すコツとかはあるんですか」


「んー、コツは分かんないけど、俺の場合慣れたらいつでも好きに使えるよ」


 彼が別のページをめくった。次は『魔法とは』という見出しだ。


「さっきも言ったけど、魔法は使える奴と使えない奴がいて、その差は自分の持っている魔力に関係しているみたいだ。使えない奴は、生まれつき魔力を持っていないようだな。魔力は後天的に持つことが出来ないから、持って生まれなければその時点で差別対象となるわけだ」

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