第2話 入れ替わってるー!?を《鳥男子》でやってみるとこうなる。

「カーくん! カーくんー!!」


 わたしは走って家に戻り、裏口へ回ってドアを開ける。台所で洗い物をしていたカーくんに、そのまま飛びついた。


「カーくん! どうしよう!? 大変なことになっちゃった!」

「うぇえっ!? ト、トキ!? なんだよ気持ちわりぃ、くっつくな! てか、テメェがカーくんって呼ぶな!」


 すがりつくわたしに、カーくんはドン引きして、グイグイと押し返そうとする。


「カーくん、違うの! わたしなの! わたしはなななの!」

「はぁっ!? テメェ、頭おかしくなっちまったか!?」


 髪をつかまれ、頬にも手を押しつけられて、おまけに足でお腹を蹴ってくる。こんなこと、いつものわたしに対してなら絶対にしないのに。


「ほう。本当に、俺がななになっているんだな……」


 開けっ放しのドアの向こうでは、わたしの姿をしたトキが、裏庭にできた水たまりをのぞきこんでいた。

 カーくんがそれに気付き、わたしをゲシッと蹴り飛ばして、裏口から顔を出す。


「なな、どうしたんだ? 電車、間に合わなかったのか?」


 床に転がるわたしを無視して、優しい声を掛ける。ひどい……。

 一方のトキは、カーくんの声が耳に入っていないのか、水たまりに映った姿を見つめ、着ている服を触っていた。


「やけにスースーすると思えば、これは足を覆っているだけなんだな。シ、シマシマが丸見えだぞ!?」

「トキ、変なことしないで!?」


 スカートをめくりあげて、中を覗き込む自分の姿に、声を荒げてしまう。


「なな!? なにしてんだよ!?」


 カーくんも顔を赤らめながら裏口を飛び出して、わたしの姿をしたトキの肩をつかんだ。


「カラス? やはり俺は、ななになっているのか」


 その言葉に、固まるカーくん。


「な、なな? 今、オレのことカラスって……。なんで、カーくんって言ってくれねぇんだ……?」


 肩から手を離し、二、三歩と後退して、地面に崩れ落ちる。よくわかんないけど、相当ショックを受けて、うなだれているみたい。


「ねぇねぇ、トキ? どうしたの?」


 わたしのそばで声が聞こえ、袖が引っ張られる。カワセミくんがしゃがんで、不思議そうに見つめている。黒い瞳には、トキの顔が映っている。

 わたしは起き上がって正座をして、カワセミくんの両肩をつかんだ。


「カワセミくん、聞いて。わたしは、今はトキの身体なんだけど、なななの。それで、あっちにいるわたしが、トキになってるの」


 カワセミくんは、まだ小さいから理解できるかわからないけど。わたしは落ち着きを払って、真面目に話した。


「だからバカトキ、なにふざけたこと言ってんだよ!」

「本当だカラス。信じがたいが、事実だ」

「な、なな……。オレ、悪いことしたか? なんでそんな呼び方……」


 カーくんはこっちを向いて怒声をあげ、あっちを向いて泣きそうに声を震わせる。

 わたしの目の前にいるカワセミくんは、パチリパチリと大きな瞳でまばたきを繰り返す。それからふと、視線を外へ移した。


「あっ、ヤンバルクイナが木にいるよ」


 次の瞬間、わたしは外へ飛び出した。裏口に置いてあったスクールバッグから、愛用の双眼鏡を取り出し、裏庭の奥にある林を見回す。


「あっ、ボク、生けにいるシマドジョウ食べちゃったんだ」


 次の瞬間、水たまりのそばにいたトキが家の中へ飛び込んでいった。こっちは鳥を探すので忙しいけど、「俺のとっておいた幻のドジョウを返せ」と恨めしそうな声が聞こえる。


「はっ……? マジかよ……」


 どれだけ探しても、ヤンバルクイナは見つからなかった。わたしはガッカリと双眼鏡を降ろす。声が聞こえて振り返ると、カーくんがぽかんと口を開けていた。


「トキ……じゃなくて。ななの言ってること、本当みたいだね」


 裏口からカワセミくんと、わたしの姿をしたトキもやってくる。トキは落ち込んだように肩を落としながら、わたしの隣へとやってきた。


「えっ、えっ、じゃあ、こっちがななで、こっちがトキ、なのか?」


 カーくんがトキの姿をしたわたしを指差して、それからわたしの姿をしたトキを指差す。わたしとトキは、同時にうなずいた。


「ななと……」

「トキが……」


 カワセミくんは、なにか面白いものを見たように、大きな目を弓なりに曲げる。

 カーくんは、なにか恐ろしいものを見たように、顔を青白くして頭を抱えた。


「「入れ替わってるーーーっ!?」」


 それ、さっきも言ったから……。





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